魔法少女リリカルなのは 短編







 アリシア.4


 寒気を覚える懸念と恐怖があった。心臓を鷲掴みにされて圧壊の危機に晒されている感覚。生きた心地がまるで無い。
 一緒に来て欲しいところがある。たったの一言を、硬い声音で。彼女は確かに紡いだ。
 返事には窮するより他なかった。二人揃っての休暇は今日までだ。明日からは通常業務が始まる。次に何時休みが取れるのかは、事件次第。退屈でも一定の緊張感 の持続が求められる哨戒任務ならば最低でも二週間の連続勤務だ。その上、自分はまだまだ未熟な艦長だ。今回の休暇の日程なんて、延期に延期を繰り返した果てのもの。 次の非番なんて、頭の中を引っ繰り返したって出て来ない。

「フェイト。君は明日も学校だろう」

 だから彼女も困るだろう正論を返す。
 声以外ではなくて、表情すら硬化させてしまったフェイト。そうなってしまった理由を──『一緒に来て欲しいところがある』という言葉の裏に隠蔽された事実に、 悲観的な思慮を巡らせながら、クロノは狼狽と困惑が発露されぬよう自身を律する。

「お願い」

 即答だった。あれだけ大切にしている学校に背を向ける事を、正論を、フェイトは無視した。
 懸念と怖気と危機感が一瞬で混合された。混沌とした感情が、恐るべき予想を弾き出す。悲観的を通り越した絶望的な予想を提示する。
 それでも楽観的な自分もいて。フェイトが知る術は無いと、ざわめく心中を説得に躍起になる。彼女の身体の異変について知っているのは、自分と母とシャマルの三 名だけ。情報が漏れる可能性は間違いなくゼロ。その上、昨日までは普通通りに振舞っていた。そして今日は学校で管理局関係には触れていない。学校で一緒になるだ ろうなのはやはやて達は、預かり知らぬ事。
 やはりだ。フェイトが女性として決定的な不具合を起こしている己が身体について知る要因はどこにも──。

「クロノ。一緒に、来て」

 だったら、このフェイトは何だ。
 この、奈落の底へ身を放る決意を固めた顔で手を握って来る少女は、何なのだ。
 知ってしまったとしか──考えられない。
 昨日までは、今朝までは、いつものフェイトだったのに。歪んだ愛情だと痛感しながら、自分が彼女にしてやれる事はこれぐらいしかないと現実逃避をして。眼を 腫らすまで鳴かせて。朝は朝で、ちょっと歩き難そうにしていたので謝ると、眼を細めてはにかんで、嬉しそうに大丈夫と言って。行ってきますと、登校した彼女。

「分かった。でも、一日だけだ」

 手を握り返して、言った。落ち着くように自分自身を脅迫して、彼女は知ってしまったと受理する。
 フェイトは学校へ行く為に玄関の扉を潜った時と同じ笑顔で肯くと。着替えて来ますと、名残惜しそうに手を解いてリビングを去って行く。
 左右に揺れる豪奢な金色の髪を見送り。クロノは、ほのかな彼女の温もりを残す自身の掌を見下ろす。
 たった今、自分の意思を確認して。それを実行する為の手を、見下ろす。
 フェイトは、知っている。独りでは心を圧壊されてしまうはずの事実を、彼女は知っている。けれど、繋いだその手は震えてなんていなくて。世界を敵に回しても 守りたい暖かさを秘めた手に変わりは無かった。
 平静でいられるはずが、ない。平然と振舞える訳が、無い。
 その態度は虚勢だと、クロノはすぐに悟る。

「一緒に行くよ。どこにでも。ずっと」

 あれは懇願だった。静かで、穏やかと言っても良いその声音は、けれど懇願だった。切望だった。
 独りには、させない。
 彼女の身体の事は、自分が告げると決めたばかりなのだから。
 それは自分の役割だ。この役割だけは、誰にも譲らない。彼女も自分も信じられずに先送りしていた不甲斐無い自身に軽い殺意を覚えるけれど。
 でも──『こんなはずじゃない』に達するには、まだ時期尚早だ。
 クロノはキッチンに移動すると、弱火でカレーを温める。炊飯器を開ければ二人分の白米がたちまちの内に湯気を燻らせた。
 過酷な現実に立ち向かう為にも、今日はしっかり食事を済ませておこう──。



 ☆



 自宅を出る。学校への欠席届も、クロノが入れた。体調不良で病院に行くので、今日は欠席する──。
 愛する少女が世話になっている担任教師を騙すのは心が痛んだが。その虚偽が虚偽ではなく限りなく事実に近い事を、クロノはフェイトに連れられるままにやって 来た場所を前に知った。
 見慣れない白亜の建築物。独特の構造。清潔な雰囲気。広大な敷地。大きな自動扉を潜れば、知的な風貌の若い男性が白衣を翻して朝も早くだというのに慌しく眼 前を駆けて行った。急患を知らせる撫子色の制服を纏った女性に迎えられて、白衣の男性──医師は通路に消える。
 そこは病院だった。臨海地方都市海鳴市が誇る最大規模の総合病院。
 先を行くフェイトに手を握られていなければ、きっと立ち止まっていただろう。連行されるように、クロノは受付へ歩み寄る。声をかける暇も、無い。受付事務員 に保険書を提出し、不慣れな様子で言葉を交わすフェイトに、何故本当に病院に来たのか、真意を問い質す為の間隙は無かった。

「本日は?」
「神経内科の石田先生の紹介なんですが……産婦人科で」

 一五歳の少女から診療を依頼するには憚られる名が出る。事務員は表情一つ変えず、淡々と作業をこなす。保険書を預かり、お呼びしますのでお待ち下さいと模範 解答を寄越す。
 二人はそのまま広いロビーの待合席に腰を下ろした。朝も早くに、人は多い。子供の喧騒がすぐそこで鳴っている。

「フェイト」
「……びっくり、した?」

 見上げ来るフェイトは、笑顔だった。翳りの無い微笑みだった。
 座っても、マンションを出てからずっと繋いでいる手に解かれる気配は無い。フェイトが、指を絡めて一定の力を抜こうとしない。
 真面目に応じようか余裕のある軽口を叩こうか逡巡した挙句、クロノは後者を選択する。
 やはり彼女は知ってしまったのだ。自分の身体に起こってしまった変調を。

「驚くさ。君の歳で産婦人科は、社会的にちょっと……だろう」
「私としては、別にいいかなって思うけど」
「良くない。母親になるには早過ぎる」
「危険日じゃないからってあんなに激しくした人が言う台詞じゃないと思うなぁ」

 そんな過激な発言も、今は子供達が発する騒ぎ声が揉み消してくれた。
 頬と耳の先が熱くなる。さすがに看過はできなかったので嗜めようとすれば。

「お母さんに、なりたいから」

 木漏れ日が似合う微笑は、すでに無く。出会った頃のような顔で、フェイトは言った。
 喜怒哀楽すべてが凍り付いていて。自分では、自然には、もう解ける事は有り得なくて。笑顔を忘れてしまった頃の、フェイト。
 隠蔽して隠匿して。決して誰にも知られないように、紅い瞳の奥に、したたかに隠し続けていた情緒。
 六年前の記憶は少しも色褪せてはいない。だから一五歳の今の彼女との決定的な差を看破するのは簡単だった。
 けれど、今は違う。顔にこそ感情は流れてはいない。風の無い湖面と、同じだ。
 瞳が、語りかけて来る。静かなのに、圧倒的な指向性を宿した切望を。
 喉が唾を勝手に嚥下する。胃が微かに萎縮した。潮が引くように羞恥心から焙り出された熱が早々に身体の内側へ退避する。
 どんな切り出し方がいいだろう。そんな思慮を、クロノは半秒以下の数瞬で済ませる。手を拱いて無意味な逃避を行うのは、昨日終わりにしたのだから。彼女の願いを、正 面から受け止めてやらなければいけない。

「……何時、知ったんだ?」
「昨日。起きたら、クロノがいなくて。お風呂かなって部屋を出たら、リビングで母さんとクロノが話してて。それで」

 情報の漏洩は、フェイトに知られる事を最も危惧した二人の口からだった。迂闊にもほどがあると、内心で嘆息づく。
 少女は空いている手をそっと自身の下腹部に遣る。そして、眼を伏せる。感覚を研ぎ澄ますように。

「私の身体が、女の人としては不完全で……子供が、作れないって。二人は話してた」
「………」
「何でそんな酷い冗談を言うんだろうって。そう思ったけど……でも、心当たりが、ちょっとあって」
「……生理が、まだ来てない事か?」

 男性が口にするには道徳観を小突かれる言葉を、小さく呟く。
 フェイトが、眼を瞬かせる。この事をクロノが知っているなんて夢にも思っていなかった、そんな顔で彼を見上げる。

「……どうして、知ってるの?」
「シャマルからだ。元々、君の身体については彼女から相談をされたんだ。健康診断で分かった事らしい」
「もう。黙ってて、言ったのに」

 唇を、尖らせる。生殖機能が死んでいると告げられた時、付随事項として付け加えられていたのが、フェイトが未だに初潮を迎えていないという事。医師として の観点から、仕方が無く開示された情報だったのだろうが、彼女がシャマルに恨み言を口にする気配は皆無だ。

「シャマルも、君に口止めされていたと言っていた。医師として言わざるを得なかったんだ」
「……理由は、聞いたの? 私がシャマルに……その、生理が、まだ来てないって事」
「いや」

 優先順位的に高くはなかったが、それについても一考はした。結局候補らしい候補も浮かびはしなかったのだけれど。

「……クロノに、子供に見られるのが嫌だったから。だから、言わなかったの」
「誰が君を子供に見るもんか」
「外見なら、ちょっとはそうかなって思うけど……でも、子供を創る身体になってないのは、子供かなって思って」
「女性差別を呼ぶぞ、その発言は」
「そんなつもりは」

 無かっただろう。でも、恐れた。子供に見られてしまう事を。クロノからしてみれば取るに足らない情報だったに違いない。子供の出来る身体になっていよう といまいと、フェイトはフェイトだ。世界でたった一人の愛する少女だ。そんな風に偏見な眼で見るはずがない。彼女本来の自虐思考を考慮すれば無理も無いか もしれないが。

「ごめんなさい。ずっと、騙してて」

 行為の度に、彼女は安全日だと小さな声で言っていた。いつもうつむいて眼を合わせようとせずに言っていた。
 罪悪感。それに良心を軋ませたのは何もフェイトだけではない。
 クロノは緩やかに首を横に振る。

「気にしていない。それに、謝るのは僕の方だ」
「……どうして、クロノが謝るの?」
「シャマルから君の身体について聞かされた時、素直に打ち明けるべきかどうするかで、僕は迷った。母さんも、そうだった。君が母親という存在について深い憧 れを持っているって、知っていたから。僕も母さんも、君に事実を伝えずに問題を解決しようとした」

 手が震える。握っていた少女の手が。
 立ち聞きされてしまうという失態。この迂闊さが、彼女に傷を負わせた。
 最初から彼女が傷付くのが分かっていたのだから、その傷を浅くするべく努力するべきだった。
 自分の口で、フェイトに自身の身体の異変を打ち明ける。そうしていれば、今ここにこうして手を繋いではいなかっただろう。

「……ずるいよ。クロノも、母さんも」
「ずるい?」
「私は、そんなに弱くない」

 予想の斜め上を行く批難が飛ぶ。

「聞いた時は、確かに……何も考えられなくなったけど……でも、それを言われたからって、自分を見失うほど、弱くないつもりだよ」
「………」
「昨日、学校を休んで、一人でここに来たんだ。それで、はやてがお世話になってた先生に会ったの」
「一人で……来た、のか?」
「自分の身体の事だから。諦めたくない……お母さんになれるかどうかって……」

 信用していなかった。そんなはずがない。
 信頼していなかった。有り得ない。
 しかし、常に最悪の事態が想定され、それが確実に発生するという漠然とした不安感はあった。それは一種の疑心暗鬼にも近い感覚だった。
 大切に想うあまりに、彼女を籠の鳥とした──。過酷な現実から遠ざけようとした。いつかは対面しなければいけない、でもそれは今じゃなくてもいい。緩衝材が整 うような状況を作って、明かす。今でもそれがベストだったとは思うが、彼女にすれば、それはクロノやリンディの身勝手な行動に過ぎない。
 相手を思った行動が、必ずしも相手の為になるとは限らないのだから。
 彼女には勇気がある。こんなはずじゃない現実に立ち向かえる勇気が息づいている。
 それを支えて。背中を押して。手を取って。行くべき道を一緒に歩むのが、自分の役割。

「石田先生に、今度来る時は好きな人も連れて来なさいって言われたの。私も、やっぱり独りだと心細いのはあるから……」
「来るなと言われても来るさ」
「……ごめんなさい。無理言って」

 有給の申請が当日間に合うはずもなく。アースラは現在艦長不在で哨戒任務に出ている。これも一重にエイミィの手腕とクルー達の高い練度によるものだ。それで も事件はいつ起こるとも知れない。一度そうなればエイミィ達だけでは対処できない。何せフェイトもいないのだから。今のアースラは張子の虎状態だ。
 ちなみに。リンディにはまだフェイトに不妊症について知られてしまった事を報告していない。その時は、確信が無かったからだ。

「バレなきゃ一日ぐらい大丈夫だ。エイミィ達には今度何か奢らないと拙いけど」
「じゃ、今の哨戒任務が終わったら、皆でクラナガンでご飯とか?」
「全員奢るのはさすがに厳しいな……。せめてアースラの食堂で何か持ち込むとか」

 思考も話題も明るい方向へ向き始めた瞬間、館内放送が二人の名を呼んだ。利用者のほぼすべてが日本人であるこの病院内に於いて、欧州辺りの響きを宿したハラオ ウンの名は良く目立つようで。腰を上げた二人を、周囲から好奇の眼が追う。
 気にせずに受付に向かえば、そこには白衣を羽織った短髪の女性が待っていた。胸元の名札には石田とある。今フェイトの話で出たはやてのかつての主治医だろうか。
 彼女は無言で会釈をすると、フェイトとクロノと見比べて、表情を引き締めたまま、ご案内しますと踵を返した。
 手は、解かれず。二人はそのまま医師の背を追った。



 ☆



 不妊症の中で最もポピュラーなものが、ターナー症候群だ。発見者の名を冠するこの不妊症は先天性遺伝子疾患に起因する。二次性徴欠如や初潮の遅れ等がその典型 的症例である。遺伝子上の問題である為に治療を諦めてしまう患者も多いが、自然妊娠の可能性も限りなく低いが一応はある。女性ホルモンの定期的投与等の治療を受 ければ、その可能性も幾分か上昇するし、その他にも様々な治療方法がミッドチルダの医療技術ならば可能だ。それに、子宮さえ健康であれば体外受精という手段が ある。
 手元にあるフェイトのデータを、今朝届いたばかりのクラナガンの大型総合病院の不妊治療に関するデータと照合すると、シャマルは絶望的な気分から脱する事もできた。
 ただ、これは希望的観測だ。確定的観測にするには、フェイトのデータが必要である。それに不妊治療については専門外。今得た知識だけでは不安を拭えず。仮にフ ェイトの治療を行うのであれば、知識だけではなく、不妊症に精通しながら確かな経験を持った専門家──産婦人科医師が必要だ。

「そればかりは、難しいか」

 管理局以上の医療技術を持つ聖王教会医療機関でも、さすがに産婦人科は無い。そもそも、あそこには必要の無いものだ。先日クロノやリンディに告げた通り、こ ういう面では民間の方が一枚も二枚も上手である。眼前の仮想ディスプレイに表示されている総合病院のデータがすべてを物語っている。
 フェイトに事実を開示し、向き合わせ、本格的な治療を行うべきだ。どうやって彼女を傷付けずに切り出せば良いだろうか。そう思案し始めた時、携帯電話が鳴っ た。バイブレーションに切り替えられているそれは、白衣のポケットの中で微かに震えて自己主張を繰り返す。
 勤務中に携帯電話が鳴るのは稀だ。管理局関係者なら、そんな電子端末に頼らずとも、デバイスで事足りる。質実剛健の武装としての機能を追及されたグラーフア イゼンやレヴァンティンとは違い、クラールヴィントはよりインテリジェントデバイス的な性格なのだから。
 八神家は、学生たるはやてを除いて今日も全員がそれぞれの現場で勤務中。はやてだろうかと思いながら携帯のディスプレイを確認すると、番号だけ登録されて、 今まで殆ど着信履歴にも発信履歴にも記載された事の無い人物の名前が表示されていた。
 慌てて受信ボタンを押して医療局オフィスを出る。どこか落ち着いて対応できる場所を探しながら一声を上げた。

『仕事中に済まない、シャマル』
「いえ。気にしないで下さい、クロノさん」

 軽くパンプスの靴音を響かせて。自動販売機とベンチのある小休憩エリアに移動する。昼を跨いだ辺りでも見知った人翳はそこには無く。区切られた喫煙所に何名 かが屯しているだけだった。

「クロノさんもお仕事中ではないのですか?」
『いや。色々あって今日も休みだ』
「クロノさんが連休……ですか?」
『……フェイトに、知られた』

 その一言で充分過ぎた。連休なんて縁遠いものをクロノが自発的に取るはずがないのは、長い付き合いでシャマルも心得ている。
 沈黙が携帯電話を通じて二人を包む。互いの息遣いのみが耳朶を打つ。
 知られた。フェイトに。彼女の、不完全な身体の事を。

『今、病院に来てる』

 息を呑もうとして。シャマルは、止まりそうになる思考に鞭を打つ。

『フェイトが、昨日独りで行ったらしいんだ。それで、今朝一緒に来て欲しいと言われた』
「それで今日はお休みを……リンディ提督には?」
『まだだ。今日落ち着いたら話すつもりだが』

 言葉を濁すように切って。逡巡のような間の後、彼は言った。

『ターナー症候群の可能性が高いらしい。詳しい結果は後日だから断定はできないが、という話だが』
「……こちらも、今朝不妊症についてのデータが届きました。手元のデータを参照した結果、私もそう思いました。テスタロッサちゃんには?」
『いや、まだ話してない。一応説明は受けたが……治す可能性も自然妊娠も、正直明るく話せるものでもなかったから』
「でも、ゼロじゃありません」

 そう、可能性はゼロじゃない。ゼロでなければ、後は後悔しないように最善を尽くすまでだ。フェイトが自分の身体について知ったのであれば、こちらでも詳しい 検査ができる。ミッドチルダの最先端の医療技術で、その可能性をより高める事もできるだろう。悲観的になるな、とは言えなかったが。少なくとも、事態は良い方 向に向きつつあるのかもしれない。
 フェイトに知られた状況は、あまり良いとは言えないが。

『ああ、分かってる。フェイトを拾ってくれたのがはやてが世話になっていた医師らしくて、助かった』
「石田先生ですか?」

 予想だにしなかった名前に、シャマルは眼を瞬かせる。交流は今でも続いているが、思いがけない偶然もあるものだ。

『僕は初対面だった上に、フェイトの義兄だから。あの子が検査を受けている間、耳が痛くなるぐらい説教をされたよ』
「患者に対して親身になって下さる方ですから。はやてちゃんのお友達という事で、余計にそういう思いが強くなったんだと思います」

 携帯電話の向こう側で、クロノが笑う。シャマルにつられて、頬が綻んだ。

『検査結果が出たら、また連絡する。僕も明日からは仕事に戻るから』
「分かりました。私も個人的に石田先生にお話を伺ってみます」

 互いにいとまを告げて電話を切る。

 久しぶりに笑ったな、シャマルは思う。彼も、自分も。身体を弛緩させていた疲労感も、柔らかくなった表情と一緒に緩まる。
 まだ手放しに喜ぶのは早いけれども。隠されてしまった陽の光が見えた気がした。






 to be continued
















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