魔法少女リリカルなのは

Southern Cross

前書 1








 彼の事が気になり始めたのは、きっとあの時からだ。闇の書事件が終わって、年が明け、雨が降り続いた一月の下旬――。


 雨が降っていた。勢いは無く、弱々しい雨脚だが、身に染み込むような冷たい雨だった。
 海鳴臨海公園。休日ともなると、家族連れなどで活気が溢れる自然の豊かな場所だ。そんな面影は、今はどこにも無い。分厚い灰色の雲と雨という空模様では無理も なかった。
 誰も居ない公園に、二人の少女が居た。傘も差さず、凍るような雨に身を晒している。
 高町なのはと、フェイト・テスタロッサ。

「フェイトちゃんの――馬鹿――」

 呟くようななのはの声は、雨の音に掻き消される。それでも、フェイトの耳には届いていた。
 初めて聞く、なのはの罵声だった。

「なの、は……」

 覚束ない足取りで、歩み寄ろうとする。だが、そんなフェイトから逃げるように、なのはは踵を返すと、走り出した。
 なのはの背が、雨の向こうで小さくなって行く。水を蹴る音がドンドン遠ざかって行く。
 今ならまだ間に合う。真っ白になりつつある頭の片隅で、フェイトは思った。追いかけて、腕を取り、謝罪すれば、きっとなのはは許してくれる。それがなのは という少女だ。
 だが、そんな優しい彼女が罵声を残し、走り去ったのは間違いの無い事実だった。

「なのは……」

 その背中は、もう視界から完全に消えていた。凍るような雨の中、フェイトはただ立ち尽くす。
 喪失感が、胸に巨大なポッカリと穴を作っていた。喩えようの無い、大きな喪失感だった。
 伏せた眼が、道に落ちているピンク色の何かを見つけた。
 なのはの携帯電話だった。
 引き摺るように脚を動かして、フェイトは携帯電話を拾った。一瞬だけ迷って、液晶画面を開ける。
 画面に眼を通す。メモ帳のコンテンツに設定されていたのか、沢山の文字が入力されていた。
 読み始めて、すぐにフェイトは前が見えなくなった。雨が画面に落ち、見難くなったというのもある。
 嗚咽を我慢する。それでも、溢れてくる涙は我慢する事は出来なかった。
 メモ帳には、今日二人で遊ぶはずだった予定が、ぎっしりと書き込まれていた。



 ☆



 取り立ててやる事も無く、クロノはリビングルームのソファの上で暇を持て余していた。テレビのリモコンを適当に操作してみるが、興味を引き付けるような 番組はやっていない。
 室内には彼以外に誰も居なかった。
 現在、別次元では小さな事件が多発している。アースラスタッフは一旦解散し、幾つかの班を構成して再結成。処理に当たっている。
 クロノとフェイトは二人で班を組み、数件の事件を処理し終えていた。レベルは高くないものの、ロストロギアを使用した事件もあった為、疲労の度合いは低くはない。 そんな二人に気を利かせたエイミィとアルフが、事後処理を引き受け、二人を強引に駐機所――なのはの世界のマンションに返したのだ。
 高い天井を仰ぐ。帰宅するなり、大急ぎで飛び出して行った金髪の少女の顔が浮かんだ。

「フェイト、なのはと会えたのかな……」

 今日、二人は予てから遊ぶ約束をしていた。何度かそうした約束はあったが、その度にフェイトに嘱託としての出動要請が下り、キャンセルとなっている。
 フェイトは、嘱託としてアースラに組み込まれている魔導師である。喩えどんな用事があっても、出動要請を拒否出来る権利は無い。
 深くそれを知っているクロノは、それでもフェイトに出動要請をする事に躊躇いを覚えた。いくら大人びていると言っても、フェイトやなのはは、まだ九歳の小学生 だ。仲の良い友達と遊びたい盛りの歳である。嘱託として所属しているとは言え、言い辛かった。
 時計を見る。デジタル時計は十八時を表示していた。フェイトがなのはと約束した時間は、朝の十時。八時間以上過ぎている。
 クロノは溜め息をつく。管理局が常に人手不足だからと言って、頼り過ぎなのではないのかと思う。PT事件以来、フェイトは自由というものを手に入れた。もっと それを享受させてやりたかった。
 ソファを離れる。キッチンに行き、冷蔵庫を開けた。ミルクのパックを取り出して、フェイト用のマグカップに中身を注ぐ。その動作は少し危なっかしかった。
 彼女が帰って来たら、暖かい飲み物が必要になるだろう。
 マグカップを電子レンジに入れる。後は加熱するだけだ。それは帰宅後でも大丈夫だろう。
 いつの間にか、雨の音が止まっていた。窓の外を見ると、灰色の雲はそのままだが、雨は収まっている。
 玄関が開く音がした。

「帰って来たか」

 思っていたより、ずっと早い帰宅だった。やはりなのはは居なかったのだろう。
 レンジのスイッチを入れて、クロノは玄関へ向かう。そして、血相を変えた。

「――どうしたんだフェイトッ」

 全身ずぶ濡れの彼女が立っていた。淀みの無い金髪から、雫がポタポタと廊下に落ち、水を吸ったコートは色を変えている。

「……ただいま……」

 顔を伏せたまま、消え入りそうな声で、フェイトは帰宅を告げる。
 クロノはどうしていいか分からず、視線を宙に彷徨わせる。あまりにも予想外の展開で、思考が右往左往した。約束の場所になのはが居なくても、彼女の家に寄る ものだと思っていたのだ。それが、全身雨に打たれて帰って来るなんて。

「取り合えず、シャワーを浴びた方がいい。そのままじゃ風邪を引くぞ」

 なのはとの事は後回しにして、クロノはひとまずそう勧めた。
 フェイトは微かに頷き、靴を脱いだ。



 何故こういう時に母さんもエイミィも居ないのか。クロノは水に塗れた廊下を拭きながら、内心毒づく。
 フェイトの着替えやら入浴やらを手伝える女性が、当然だが誰も居なかった。アルフを呼ぼうかとも思ったが、彼女が抜けてしまうと、エイミィ一人で事後処理 をやらなければならなくなる。ここ連日の出動数を考えると、そんな負担は掛けたくなかった。
 廊下の清掃が終わる。汚れたタオルを脱衣所の洗濯機に持っていこうとして、脚が止まった。
 バスルームでは、フェイトがシャワー中だ。ガラス一枚を隔てて、一糸纏わぬ姿を晒している。

「……何を想像しているんだ、僕は」

 軽く頭を振って、クロノは勝手に浮かんできた妄想を放り出す。それでも、胸の高鳴りは止まらない。汗が噴き出して、背中がとても冷たかった。
 何故か忍び足で脱水所まで来たクロノは、耳を澄ます。シャワーの音はまだしていた。

「入るぞ、フェイト」

 シャワー中なので、聞こえるはずが無い。返事には期待せず、扉を開ける。
 曇りガラス越しに、白いシルエットが見えた。クロノは勝手にそちらを向こうとする眼に呆れて、軽く己の頬を叩く。
 カゴの中には、塗れたフェイトの衣服が綺麗に畳まれ、置かれていた。

「まさか、着るつもりなのか?」

 それではシャワーに入った意味が無い。風邪を引いてしまう。だが、着替えらしき物は無い。
 彼女の部屋に行って、適当に持って来るべきだろうか。クロノはそこまで考えてハッ、とする。
 持ち主の了承も得ずに、女の子のタンスを勝手に開け、下着を持って来るつもりなのか、僕は。
 数瞬だけ思案して、クロノはタオルを洗濯機に放り込み、迷ったものの、フェイトの塗れた衣服も一緒に入れようとした。
 服のポケットから、ピンク色の携帯電話が落ちた。

「これは……なのはのか?」

 見覚えがあった。なのはの携帯電話である。
 何故フェイトが持っているのだろうか。もしかしたら、なのはが落として行ったのかもしれない。
 クロノは携帯電話の置き場所に迷い、結局カゴの中に戻した。知り合いの物とは言え、落し物だ。あちこちに持ち歩いていい物でもない。
 電源を入れて、洗濯機を動かす。
 小走りで脱水所を出る。そして自室に向かった。適当なTシャツと大きめの上着を引っ掴み、一目散に脱水所に戻る。
 幸い、フェイトはまだシャワー中だった。

「フェイト。着替えだが、僕ので済まないがここに置いておくぞ」
「……ありがとう……」

 微かな声が返って来る。相変わらず、覇気は無い。

「上がったらリビングに来るといい。暖かい飲み物を用意してある」
「……うん……」

 電子レンジ内のミルクはもう冷めてしまっているだろう。クロノは再加熱する為、再び急いで脱水所を後にした。



 ☆



 フェイトがリビングに顔を見せたのは、ミルクの再加熱が終わってすぐだった。
 クロノは自分の分も含め、二つのマグカップを手にソファに座った。
 眼で座るよう促す。
 フェイトは無言のまま、クロノの横にちょこんと腰を下ろした。
 クロノが特に選ばずに持って来た為、フェイトは白いTシャツと黒い上着の二枚だけという格好だった。上着は大きすぎて、指までが半分以上隠れてしまっている。 Tシャツから伸びる脚は白く、少女らしくほっそりとしていた。また、シャツは一回り大きく、襟元からチラリと胸元が見えてしまい、クロノは眼のやり場に苦慮した。
 そんな内心の苦しい事情など欠伸にも出さず、クロノはマグカップを彼女に差し出した。

「ほら」

 両手で支えるようにカップを受け取ったフェイトは、ミルクの温かみをカップ越しに感じつつ、口を付ける。
 クロノも彼女に習い、ミルクを飲む。
 しばらくの間、リビングを沈黙が支配した。

「暖まったか?」
「……うん」

 再び沈黙。
 約束の時間を八時間以上破り、急いで出て行って、意気消沈してずぶ濡れになって帰って来た。どんな鈍い人間でも、察しはつく。

「……なのはと、何かあったのか?」

 フェイトの肩が揺れた。それでも彼女はコクンと頷き、口を開く。

「私の事が、嫌い……だって……」

 眼から、一滴、涙がこぼれる。
 クロノにとって、ある程度予想通りの答えだった。ただ、あのなのはがそんな事を言うなんて、少し意外だと思った。
 なのはは、誰よりも人の痛みが分かる少女である。それに、嘱託の仕事も、入ってしまえばどうにも出来ない事も知っているはずだ。
 クロノは、言葉一つ一つを選ぶようにして、ゆっくりと言った。

「約束を破ったのは、これが初めてじゃないからな。いくらなのはでも怒る、か。……済まない、フェイト」
「どうして、クロノが謝るの……?」

 不思議そうにフェイトがクロノを見る。

「いくら人手不足とは言え、管理局は君の力に頼り過ぎてる。そのせいで、君はせっかく手にした自由を……同年代の友達なのはと 遊ぶ時間を失ってる」

 すると、フェイトはふるふると首を横に振った。

「私は自分から嘱託魔導師になったの。だから、いいんだ」
「………」
「もう、ロストロギアに関わって悲しい思いをする人を増やしたくないから。”こんなはずじゃない人生”を歩む人を無くしたいから。だから、いいんだ」
「……なのはと喧嘩したのも、”こんなはずじゃない”んじゃないか?」

 クロノの言葉が、物音一つしないリビングに、清音のように響いた。

「フェイト。君はもっと自分の事を考えた方がいい。”こんなはずじゃない人生”を歩む人を無くすっていうのに、自分は入ってないんだろう?」
「……私は……」

 クロノは、そっとフェイトの頬に触れる。シャワーを浴びた後の少女の頬はとても暖かかった。

「しばらくの間、嘱託は休むんだ」
「でも、それじゃあ」

 レベルは低いものの、ロストロギアを使用した事件が多発している今、優秀な魔導師は一人でも欲しい。圧倒的な人手不足の為、今まで起きなくてもいい悲しい 事件が起きてしまっている。
 不安そうに見詰めるフェイトに、クロノは軽く笑った。

「ヴォルケンリッターの手を借りる。特別大きな事件でも無い限り、多分問題無いだろう」
「でも、シグナム達はまだ保護観察中で……」
「その保護観察は誰がやっているんだろうな?」

 わざとらしく、クロノが言った。
 闇の書事件以降、はやてを含めたヴォルケンリッターは管理局から保護観察処分を受けている。その観察人は、事件を担当した巡航L級八番艦アースラの艦長、 リンディ・ハラオウンである。実際にはレティ・ロウランと共同なのだが。

「それって、違法なんじゃ……?」

 上目遣いで、フェイトはクロノの表情を伺う。

「協力を要請するだけだ。彼女達には拒否権がある。だが、この前会った時、ヴィータは久しぶりに暴れたいと言っていたし、シグナムも身体が鈍っているんじゃないか って心配していた。……協力してくれるさ、彼女達なら」
「でも、でも……クロノやシグナム達が戦ってる時に遊ぶなんて……」

 クロノは思う。本当に強情な女の子だ。本当に九歳か。
 少しムッ、として、彼女の頬に添えていた手を動かす。ぷにぷにとした頬を軽く抓った。

「君は確かに優れた魔導師だが、まだ小学生だ。もう少し子供らしくしろ」
「く、くろののだってこどもだよぉ……!」

 頬を抓られている為、フェイトの声は歪んでいた。

「僕は執務官だ。問題はない」

 クロノが指を緩める。涙眼で、フェイトは恨めしそうに彼を睨んだ。

「さて、お互い、やる事は決まったな」

 そんなフェイトの視線を軽く無視して、クロノは立ち上がる。

「決まったって……?」
「僕は母さんに話をつけて、シグナム達に協力を要請する。君はなのはと遊ぶ。これ以外、他にやる事なんて無いだろう?」

 フェイトは顔を伏せ、手で挟んでいるマグカップのミルクの湖面を見詰めた。

「……なのはは、きっと許してくれないと思う……。何回約束を破ったか、分からない……」
「君となのはの絆は、一回の喧嘩で無くなってしまう程、弱いものだったのか? ……違うはずだ」

 フェイトは何も答えない。

「なのはの世界の諺で、喧嘩する程仲が良いというのがある。本当の友達なら、喧嘩の一つや二つ、するべきなんじゃないかな」
「……クロノは、エイミィと喧嘩した事があるの?」
「毎日って訳じゃないけど、結構あるよ」

 フェイトが顔を上げる。とても意外そうにクロノを見上げた。

「いつもあんなに仲が良いのに?」
「だからだよ。思っている事を隠さずに言い合って、ぶつかった結果さ。エイミィには絶対に、口が裂けても言えないけど、彼女は僕が一番信頼している友人の一人 だよ」

 執務官と執務官補佐という上司と部下の関係であるはずなのに、二人はまるで姉と弟のような関係を築いている。
 クロノの言う通り、お互いに思っている事を隠さず、ぶつかりあった結果なのだろう。最初からそんな関係を作る事は出来ないし、勝手に出来るものでもない。

「喧嘩一つで友人関係が崩れてしまうのなら、僕とエイミィはずっと前に絶交になってる。……君となのははこれからじゃないのか?」

 なのはがフェイトに言った言葉がある。
 ”友達になりたい”。
 それから、何度もぶつかった。魔法をぶつけあった。そして、最後には友達になる事が出来た。
 これからは、言葉をぶつけあわなければならない。クロノとエイミィのように、お互いに遠慮無く、家族のようになる為に。
 いつの間にか、フェイトの瞳からは涙が消えていた。

「……うん」

 強く頷き、フェイトはミルクを一気に飲み干した。
 クロノは、その様子を満足そうに見る。
 空を覆っていた灰色のカーテンが、少しずつ無くなりつつあった。



 ☆



 なのはの部屋の扉の前に立つ。それだけの事なのに、フェイトはとても緊張した。
 あれから、フェイトはなのはの自宅に電話を掛けようとしたが、いざ行動を起こしてみると落ち着かず、迷っている内に夜遅くになってしまい、結局電話を掛ける 事が出来なかった。
 翌日、勇気を振り絞って電話をした。出たのはなのはの兄、恭也だった。彼の話では、なのはは家に帰って来るなり、自室に閉じこもってしまったらしい。 結果として風邪を引き、熱を出して寝込んでしまったという話だった。
 なのはの携帯電話を届けたいというフェイトの申し出を、恭也は特に何も訊ねず、二つ返事で受け入れた。
 そして昼過ぎ。フェイトはなのはの部屋の前に立っている。恭也達家族は気を使い、誰も付き添ってはいない。フェレット形態のユーノが、不安そうにフェイト を見上げていた。

「フェイト……」

 彼も事情を察しているのか、必要以上に何も訊こうとしなかった。
 フェイトは彼に微笑むと、軽く扉を叩いた。

「なのは、私……フェイト」

 返事は無い。でも構わなかった。

「入って、いいかな?」

 深呼吸をして、ノブを掴む。捻って、扉を開けた。
 ベッドで寝込むなのはが見えた。扉に背を向け、分厚い布団に包まっている。
 ユーノは入って来ない。気を使って、廊下で待っている。

「なのは、大丈夫……?」

 言葉一つ掛けるのに、とんでもない勇気が必要だった。
 ベッドの脇に正座をする。そんなフェイトに、なのはに動く気配は無い。

「……うん、大丈夫」

 弱々しい声が返って来た。フェイトは痛む胸を押さえ、唇を噛む。冷たい雨の中、自分が彼女を何時間も立たせていたのだ。風邪を引かせたも同然である。
 二人は、しばらくの間、無言で時を過ごす。
 フェイトは、膝の上で作った握り拳を、より強く握った。ここで謝って、ここで想いを伝えなければ。”友達になりたい”と言って、いつもぶつかって来てくれた 彼女のように、自分もぶつかっていかなければ。

「なのは」

 呟くように彼女を呼ぶ。初めてその名を呼んだ時のように。
 なのはが布団の中で身を捩った。咳き込みつつ、フェイトに顔を向ける。熱のせいで、頬が赤く、瞳は潤んでいた。
 そんな瞳を見つめて、フェイトは口を開く。

「……ごめんね、なのは。約束、破りっ放しで……」

 昨日から決めていた言葉を紡ぐ。
 なのはは辛そうに首を横に振った。潤んだ瞳から、涙がこぼれた。

「私も……ごめんね。フェイトちゃんに、酷い事……」

 そこからは嗚咽になって聞こえなかった。
 フェイトは、そっ、と近付き、なのはの手を取る。持って来た携帯電話をしっかりと彼女の小さな掌に収めた。

「いいんだ。全部、私が悪いから」
「でも! フェイトちゃんが忙しいの、私知っているのに……!」
「それはなのはも同じだよ。なのはも、武装局員の研修試験とか、色々あるんだから」

 フェイトはなのはの額に自分の額を押し当てる。

「クロノのお休みを貰ったんだ。なのはの風邪が治って、空いてる時、一緒に遊ぼう?」
「で、でも、事件が最近多いって」
「シグナム達に手伝ってもらうから、大丈夫。それに、クロノに言われたんだ。もっと子供らしくしろって。だから……」

 なのはの涙を拭う。

「遊ぼう、なのは」

 なのはは、涙で顔をくしゃくしゃにして、咳き込み、それでも笑顔で頷いた。

「うんッ!」





 クロノのお陰で、私はなのはと仲直りする事が出来た。
 ぶっきらぼうで不器用だけど、優しいクロノ。私はまだそんなに忙しくはないけど、彼は違う。執務官として、また、今年中には艦長職から降りるという母さんの 後を引き継ぐ為、提督になるべく、試験勉強もしている。だから、なかなか落ち着いて話せる機会が無かった。彼が一週間に一回、マンションに帰って来た時だけ が、唯一ゆっくりと同じ時間を共有出来た。





 窓から入って来る月の光が、柔らかく室内を照らしていた。
 夜の九時。普通の小学生ならば、すでにベッドに潜り、夢に落ちていてもおかしくはない時刻である。
 寝巻きに着替えを済ませたフェイトは、冬特有のひんやりとするフローリングの廊下を抜け、一つの扉の前に立つ。

「クロノ、起きてる?」

 軽く扉を叩く。乾いた音が静かな通路内に木霊した。

「ああ、起きてるよ」

 扉越しに、部屋の主――クロノの声が返って来た。

「あの、入ってもいい?」
「構わないよ」

 ”お邪魔します”と言って、部屋に入る。フェイトの部屋と同等の広い面積を誇る室内は、アースラ艦内の彼の自室同様、随分と殺風景だった。家具も必要最低限 しかなく、目立つ物と言えば、フローリングの床に無造作に置かれたテレビとDVDデッキくらいである。
 クロノは、ベッドに背を預けて、テレビを見ていた。

「何か見てたの?」

 訊くと、クロノは青いナイロンの袋を手に取って、フェイトに見せた。

「アレックス達が借りて来た映画をね」
「どういうの?」

 クロノの隣に座る。
 映画という娯楽はミッドチルダにも存在する。内容的にもなのはの世界の映画と似たり寄ったりだ。

「タイトルは忘れたけど、アクションホラーらしい」
「ホ、ホラー……?」

 フェイトは肩を小さく震わせる。あまり聞き慣れない単語だが、意味は身を持って知っている。
 得体の知れない恐怖をひたすら映像体験させるジャンルである。
 アリサに貰った映画のディスクの中に、何本かホラーが混ざっていた。何の予備知識も無く、フェイトはアルフと一緒に心をときめかせながら視聴したのだが、 結果としてアルフと抱き合って悲鳴を上げ、最後まで見る事が出来なかった。ある意味でトラウマになっているので、フェイトはそのホラー映画のタイトルを 覚えていないのだが、呪いのDVDとかテレビから何かが出て来るとか、そんな内容だったと記憶している。
 あんな恐怖を自分から進んで楽しむなんて、フェイトはよく理解出来なかった。
 テレビの中では、黒い戦闘服を着込んだ屈強な男達が、やたら壮絶な表情で携えた銃火器を振り回している。
 青いナイロンの袋に、映画のタイトルが書いたレシートがくっついていたので、見てみた。
 ”生物災害”という文字が見えた。何とも物騒なタイトルだ。特に、人工的に創られたフェイトにとってはあまり好ましい単語ではない。

「クロノ、その、面白い……?」
「ん〜、今から面白くなる、って所かな」

 映像に集中しつつあるのか、クロノの対応は生返事に近い。
 フェイトは迷う。映画が終わるまで待とうか、どうか。
 クロノの部屋に来たのは、彼が一週間ぶりにマンションに帰って来たので、少し話がしたかったからだ。仕事の事、友達の事、学校の事、日々の事、何でも。 特に、なのはとちゃんと仲直り出来た事を報告したかった。あれからすぐ、中レベルのロストロギアを使用した事件が発生して、クロノはヴォルケンリッターと共に 出動してしまい、報告が出来ていなかったのだ。
 映画を見るよりも自分と話して欲しい。なんて事は、恥ずかし過ぎて、勇気が無くて言えない。
 少しの思案の後、フェイトは映画が終わるまで待つ事にした。とても怖かったが、それよりもクロノと話がしたいという欲求が勝った結果である。

「私も一緒に見てもいい?」
「それは構わないが、何か用があったんじゃないのか? DVDだから止められるけど」
「終わってからでいいよ。そんな大した用じゃないんだ」

 ただ話をするだけ。クロノにとっては大した用ではないだろうが、フェイトにとってはとても大きな用だった。

「そうか?」
「うん。そう」

 眼を細め、笑顔で答えたフェイトは、クロノと一緒に画面に視線を向ける。
 彼の言葉の通り、映画は今から面白くなる所だった。連絡が取れなくなった研究所に捜査の為に特殊部隊が突入するものの、研究所では生物災害が起こっており、 生きる屍、ゾンビになった研究所所員と特殊部隊が壮烈な生存戦闘を繰り広げる。フェイトが見た時は、主人公の特殊部隊の女性隊員が、悪戦苦闘しながら研究所 を脱出しようと経路を辿ろうとしているシーンだった。
 以前フェイトが見たホラー映画とは、かなり毛色の違う内容である。怖いのに変わりはないのだが。
 二人が集中して視聴する中、画面は目まぐるしく変わり、物語が進んで行く。極限の恐怖、倒れて行く仲間、限界を迎える武装、見せない脱出路、圧倒的に増えて行く 敵達。
 臨場感たっぷりだ。フェイトのトラウマになった映画は、ジワジワと来る緩慢だが確実な恐怖を描いていたが、こちらには荒々しく押し寄せて行くような恐怖があっ た。
 見始めて三十分くらい経った頃に、フェイトは少しだけ後悔した。

(怖い……)

 以前程の恐怖は無いが、この映画も充分に怖かった。モンスターが飛び出して来るシーンが何回か入っていたが、その度にフェイトは短い悲鳴を上げ、身を 強張らせている。
 終わった後に、もう一度部屋に来れば良かった。三十分前には浮かばなかった選択肢の登場を、フェイトは恨む。
 クロノを見ると、画面に集中しているのか、固唾を呑んで見守っていると言った風情だった。怖がっているフェイトに気付いている様子は無い。
 床についた彼の手が見えた。
 ゆっくりと、フェイトは手を伸ばす。このホラー映画を自分の身一つで見続けるのはやはり辛い。人肌が恋しかった。
 その時、画面が変化した。一際大きな騒音と咆哮を轟かせて、巨大な四つん這いのモンスターが登場したのだ。
 主人公達は怒号と悲鳴を撒き散らしながら、それぞれで応戦を始める。

「ひッ……!」

 テレビの音声に混ざって、フェイトも悲鳴を漏らした。きつく眼を閉じて、クロノの腕にしがみ付く。

「うわッ……!?」

 まったく予想していなかったのか、クロノも情けない声を上げた。

「フェ、フェイト? ……怖いのか?」
「ちょ、ちょっと、だけ」

 震える声で答えるが、彼女は画面を見ようとはしなかった。瞳の端に涙を溜め、クロノの腕に細い腕を回し、力一杯身を寄せている。
 クロノはDVDのリモコンを取ると、ボタンを押して、映画を止めた。

「怖いなら怖いって最初から言ってくれ。僕も別に今すぐ見たいという訳じゃないから」
「……ごめんなさい」
「大丈夫か?」
「……うん」

 そうは言うものの、心臓は爆発的に動いている。

「あまりそうは見えないんだが……」

 クロノが、頬を少し赤めて訊いた。フェイトはその意図が分からず、しばらく彼の顔を見詰めて、そして気付く。
 これ以上ないくらい、フェイトはクロノに身体を密着させていた。恐怖に駆られていたので気にもしなかったが、顔と顔との距離もとても近い。バクバクと 動く心臓の音など、はっきりと聞かれていそうだった。いや、彼には聞こえたのだろう。だから聞き返したのだ。
 クロノの匂いが鼻をくすぐる。身を寄せた彼の腕からは、暖かい温もりが伝わって来た。
 落ち着こうとしていた心臓が、また早鐘を打ち始める。

「フェイト?」
「あの、あああの、そ、えっと、ああの……!」

 呂律が回らない中でも彼から離れなかったのはどうしてだろうか。
 離れたく、なかったから。
 必死に言葉を探るフェイト。クロノは紅潮した頬を掻く。

「そういえば、まだ聞いてなかった」
「え?」
「なのはと仲直りは出来たのか?」

 その言葉に、混乱していたフェイトの頭が、少しだけ落ち着きを取り戻す。

「う、うん。ちゃんと出来たよ」
「任務中、気になってはいたんだが、気にするだけ無駄だったみたいだな」
「クロノの、その、お蔭だよ」

 それからしばらく、フェイトは話し続けた。なのはの看病の事や、治った後に一日中遊んだ事、この一週間で学校であった事など、沢山話した。
 その間、ずっとクロノの腕を解放する事は無かった。とても暖かく、大きな安心感を得られるから。

「やっぱり学校の勉強は簡単か?」
「簡単って事は無いけど、一部はそんなに難しくないよ。ただ」
「国語か?」
「うん。漢字がどうしても苦手で……」

 数学や理科はリニスに基礎を教わっており、魔法の基礎構築に必要なので得意分野だが、国語、というか、漢字が苦手だった。一つの漢字に込められた複数の意味 がなかなか理解出来なかった。

「僕もこの世界の言葉、特になのはの国の言葉は苦手だ。興味がてらかじった事があるんだが、一日二日で理解出来るものじゃない」

 そうして二人の会話には熱が帯びて行く。
 時計の針が十二時を指すまで、そう時間は掛からなかった。

「フェイト、君は明日学校だろう? そろそろ寝なくてもいいのか?」

 訊かれて、フェイトは眠気がある事に気付く。瞼が少し重かった。

「うん、そうだね」

 眼を擦る。まだ話したい事が沢山あるのに。

「クロノは明日も管理局の仕事?」
「ああ。事件の事後処理が溜まってる。いつまでもエイミィやアルフに任せておく訳にはいかないさ」

 フェイトがなのはと心置きなく遊べるように、アルフも慣れないデスクワークに奔走していた。何度かフェイトが手伝おうかと申し出たが、アルフは”フェイトの 今の仕事は遊ぶ事!”と言って拒んでいる。

「また、お話出来るかな?」

 事件は今でも起こっている。こうしてゆっくりと話せる時間は、この先もあまり取れなさそうだ。

「出来るさ。事件の元凶も掴んで来ているし、摘発出来れば沈静化すると見ていい」
「あの、私に出来る事があったら言ってね。力になるから」

 彼の腕を抱き締める手に力がこもる。

「いや、君はまだ休んでおくんだ」
「一週間もお休みさせてもらったから、大丈夫だよ」

 クロノは首を横に振ると、空いた手でフェイトの髪を優しく撫でる。

「本当は僕やヴォルケンリッター達だけでカタをつけるつもりだったんだが、どうも元凶がジュエルシード以上のロストロギアらしくてね。元凶を摘発する際、 なのはと一緒に力を借りると思う。その時の為に休んでおいて欲しいんだ」
「……うん、分かった。でも無茶しないで」
「なのはと並んで、無茶の代名詞の君に言われるとあれだけど、了解した」

 クロノの言葉に、フェイトは少しムッ、とする。確かにまぁ、なのはと一緒に相当な無茶をした自覚はある。しなければならない状況が多かったのだから仕方が無い じゃないか。
 頬を膨らませるフェイトを、クロノはもう一度撫でてやる。

「部屋まで送るよ」
「あ、ありがとう」

 立ち上がろうとするクロノ。抱き締めていた彼の腕が遠ざかる。フェイトは小さな不安に駆られて、しっかりと彼の手を掴んだ。
 耳がとても熱くなった。

「フェイト?」
「……ダメ?」
「そ、そんな事は無いが」

 何故だかよく分からないが、離したくなかった。彼の手を。手放したくなかった。彼の体温を。
 とてつもなく恥ずかしかったが、クロノも言葉では大丈夫のようだが、頬の紅潮をより深くしていた。

「部屋に戻るまででいいから……」
「わ……分かった」

 了承は得た。フェイトは立ち上がろうとする。そして気付いた。

「あ、あれ?」

 腰に力が入らなかった。脚も微妙に動かない。

「どうした?」
「………」

 言えない。ホラー映画のせいで腰が抜けていたなんて。恥ずかしくて、言える訳が無い――!
 耳の熱が熱さを増した。頭が沸騰したみたいにフラフラとする。
 そんなフェイトを、クロノはしばらく怪訝そうに見ていて、その内気付いたのか、苦笑した。

「やっぱり、君はまだ九歳の女の子だな」
「〜〜〜〜〜〜〜ッ……!」

 バレた。フェイトはうなじまで赤くして、俯く。もう駄目だ。恥ずかしくて死ぬ。

「フェイト、手を離して」
「え?」

 言葉の意図が分からず、フェイトが困惑しているのを置き去りにして、クロノが手を離した。左手を彼女の両膝の下に入れ、右腕で背中を支える。

「よっと」

 その態勢で、クロノはフェイトを抱き上げた。俗に言う”お姫様抱っこ”である。

「ク、クロノッ!?」

 素っ頓狂な声を上げるフェイト。

「嫌だと思うけど、少し我慢してくれ」

 別に嫌ではない。今は無茶苦茶焦っているが、とても落ち着くのだ。

「あ、ああありがとう……ッ」

 彼の顔を直視出来ず、恥ずかしさからフェイトは涙眼だった。
 二人は部屋を出る。まだ一月の頭だけあって、廊下はとても冷たかった。

「あれ、クロノ君?」

 まったく予想していなかった声に、二人は身体を震わせる。
 クロノが肩越しに振り返ると、制服姿のエイミィが不思議そうに立っていた。

「こんな時間に何してるの? クロノ君、今日は早上がりだったでしょ?」
「い、いや、まぁそうなんだけど」
「……? 何か持ってるの?」

 好奇心旺盛なエイミィは、動けなくなっているクロノにササッと近付くと、肩から前を覗き込んだ。
 瞳に涙を溜め、真赤になっているフェイトと、これ以上無いくらい眼が合った。

「………」
「……こ、こんばんは、エイミィ」

 辛うじて挨拶をするフェイトだが、エイミィに反応は無い。ただ、ガッシリとクロノの肩を掴むのみ。

「待てエイミィ。誤解だ」

 無駄だと悟りながらも、クロノは一応言っておく。本当に無駄だったが。

「クロノ君、提督の部屋まで行こうか?」
「何だその犯罪者を見るような眼はッ!?」
「いや、だって犯罪者だし。あ、それとも未遂?」
「どっちも違うッ! フェイト、何とか言ってくれッ!」

 エイミィの言わんとしている事は、まだ幼いフェイトでも理解出来た。だからこそ、余計に何も言えず、顔を伏せるだけ。

「フェイトォッ!?」
「待機中の武装局員総員に通達ッ! クロノ・ハラオウン執務官を拘束して下さいッ!」

 真夜中のマンションに、けたたましい警報が鳴り響いた……。





 思い出せば、この時私は初めてクロノと手を繋いだ。デバイスを握り続けて堅くなったあの人の手は、思っていたよりずっと大きくて、温かかった。
 クロノの事が好きだって理解したのは、それから少し経った時だ。





「それじゃ、お疲れ様でした」
「お疲れ。また頼むよ、フェイトちゃん」
「はい、私で宜しければ、また。失礼します」

 礼儀正しく頭を下げ、フェイトはトレーニングルームを後にする。
 心地の良い疲れと充足感が身体を包んでいた。足取りも軽く、通路を歩く。
 この日、フェイトは以前から予定されていたアースラに乗艦している武装局員達の魔法訓練を行った。と言っても、日頃クロノとやっているような荒々しい実用性 一点張りの魔法模擬戦闘ではなく、魔力応用や戦闘機動に関して講義を行い、その上で軽い模擬戦闘を何回か行っただけである。密度的にはそれ程濃い内容の物でも なかったが、さすがに二十人もの局員達に一度に教えるのは骨が折れた。
 局員達は基本魔力こそお世辞にも高いとは言えなかったが、単純な戦闘経験は伊達に重ねてはいなかった。飲み込みが早く、模擬戦闘にも自然と力が入ってしまった。
 お腹が、控えめの音を鳴らした。
 頬を薄くピンクに染めて、フェイトはお腹を擦る。

「……軽く何か食べようかな」

 時刻はまだ三時。現在アースラは航行中で、タイムスケジュールが待機時よりも厳しい。この昼食には遅すぎて、夕食には速すぎる時間では、食堂に行ってもほとんど 何も無いだろう。
 それでも、たまにリンディの意向で軽食が配給される場合もある。無ければ無いで、アルフにお願いして彼女のおやつを分けてもらおう。
 フェイトは頷くと、まずは食堂に脚を向ける。
 通路を曲がった所で、良く知る人影と遭遇した。

「フェイト。お疲れ様」

 仕事服である紺色のインナー姿で、クロノが居た。小脇には書類を挟んだクリップボードが見える。

「ク、クロノ。お、お帰りなさい」

 軽い戸惑いと驚きを無理矢理隠して、フェイトは笑顔で答えた。体温が勝手に上昇するのを感じるが、どうにもならない。
 どうにも最近、以前のように彼と話が出来なくなりつつあった。理由がどうにも不明瞭で、自分の事なのによく分からない。ただ、気付けばこうなっていた。
 彼と会うだけで、顔を見るだけで心臓が早鐘を打つのだ。体温が原因不明で上昇して、声を聞くだけでくすぐった感覚を覚える。彼に近付くと、その肌に触れたい という邪欲に駆り立てられる。実際抑えられなくて、何度か手を繋いだ事もあった。
 いつからこうなったのだろうか。ふと思い返すと、なのはと喧嘩をして、クロノと話をした時から、何かが変わったような気がした。

「ああ、ただいま」
「ほ、本局のお仕事はもう終わったの?」

 原因の分からない症状は、どうやら末期らしい。声に変に熱が帯びて、震えている。

「ああ。そんな時間の食う用事じゃなかったから君はどうだった、武装局員達の魔法戦闘訓練は?」
「う……うん。皆凄い飲み込みが早くてびっくりしちゃった」
「魔力容量に関しては君やなのはには勝てないが、何年も厳しい訓練をこなして来てる連中だからね。今後も時間がある時にやってくれるとありがたい。本来は僕の 仕事なんだが、手が空かない時が多くて」
「ク、クロノさえ良ければ……」
「ああ、その時は頼む」

 優しくクロノがフェイトの肩に触れる。服越しなのに、彼の体温を直に感じた。

「う……ん……」

 ぼうっと彼を見詰めて頷く。フェイトの顔は、熱でも上げたように火照っていた。

「どうした? 熱でもあるのか、フェイト」

 怪訝そうに眉を寄せ、クロノは自分の額をフェイトの額に添えた。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」

 眼を見開いて前を見てみると、視界をクロノの顔が埋めた。本当に数センチ先に、彼の唇が見える。
 触れたい。触れたい。触れたい。触れたい。触れたい――。
 邪欲が顔を出す。フェイトはきつく眼を瞑り、自分の太ももを思い切り抓った。鋭く、鈍い痛みが走るが、邪な欲求はサッサと引っ込んでくれた。

「何か……妙に熱いな。風邪でも引いたのか?」

 君のせいだとは口が裂けても言えない。

「訓練で何かあったのか?」
「な、なななななんでもないッ! なんでも、なんでもないのッ!」

 飛び退くように彼から離れて、フェイトは結えた二本の金髪を振り乱して否定した。取り合えず太ももは抓っておく。
 クロノは釈然としないのか、顔を顰める。

「本当か? 体調が悪いなら我慢しないで言ってくれ。君は確かに嘱託だが、学生でもある。無理はするな」
「う、うん。あ……ありがとう」

 自然と顔の筋肉が緩む。彼の心配してくれる言葉がとても嬉しかった。陽気に当てられたようなポカポカとした暖かさが胸に広がって行く。

「あの、ハラオウン執務官……」

 聞き慣れない声が、突然クロノの背後からした。か細く、不安そうな声だった。

「……?」
「ああ、済まない」

 謝罪しながら、クロノが身体をどかす。
 彼の背中には、小さな女の子が隠れていた。肩口で切り揃えられた黒髪がとても綺麗で、印象的な少女だ。歳はフェイトやなのはと同じくらいだが、背は小さく、 ヴィータくらいだろうか。エイミィと同じ管理局局員の青い制服を着込み、クロノと同じクリップボードを胸の前に抱いている。
 アースラ艦内ではまったく見かけない子だった。

「紹介が遅れて済まない。オペレータ研修でウチに二週間程出向する事になったフェベル・テーターだ」
「フェベル・テーターです。あの、分からない事だらけですが頑張りますので、宜しくお願いしますッ」

 ペコリと頭を下げるフェベルという少女。何か小動物的な愛らしさの漂う女の子だ。

「フェイト・テスタロッサです。宜しくね、フェベル」
「はいッ! あの、テスタロッサさんって……」
「フェイトでいいよ。フェベル」

 彼女の言葉を遮り、微笑む。フェベルは少しキョトンとして、嬉しそうに笑った。

「はい! あの、フェイトさんって、闇の書事件でハラオウン執務官や高町なのはさんと一緒に戦ったって言う、フェイトさんですか?」

 闇の書事件は本局でも大事になった事件だ。まだ士官学校を卒業していない子でも知っていてもおかしくはない。

「うん。多分、私だね」
「凄い凄いッ! ハラオウン執務官だけじゃなくて、フェイトさんにも実際に会えるなんてッ!」

 興奮した様子で、フェベルは小さな身体をぴょんぴょんさせる。拍子に手からクリップボードが零れ落ちて、閉じられていた書類が派手にぶちまけられた。

「あああああ〜!」
「わわ……」

 素っ頓狂な悲鳴を上げて、慌ててフェベルは書類の回収に走る。フェイトやクロノも一緒に拾ってやる。
 どうやら、見た目通りの歳の子らしい。

「ご、ごごごめんなさいィッ! つい……」
「フェベル。アースラは一応通常航行中だが、今はまだ勤務中だ。ハシャギ過ぎないように」
「すいません……」

 クロノに注意され、しゅんとなって肩を落とすフェベル。フェイトは出会ったばかりの頃のアルフを思い出して、小さく笑った。

「済まないな、フェイト。本局の士官学校じゃ、あの事件が酷く有名になっていてね」

 聞いた話や書類で見た有名人が眼前に居れば、誰でも驚き、喜びもするだろう。特にそれが自分達の遥か上の人で、英雄的な人間ならば。

「この前、なのはに士官学校の次期武装局員の戦闘教官をやってもらったんだが、学生が殺到して授業どころじゃなくなる事があった」
「なのは、帰って来たらフラフラになってて驚いたんだけど、そんな事があったの……?」
「レイジングハートがなのはの危険を感知して自動発動。エクセリオンモードにまでなったからな。……フェベル、書類は全部あるか?」
「はい、大丈夫です〜」

 大切そうにクリップボードを抱える。

「フェイト。僕達は艦長に話があるから、この辺りで行くよ」
「うん。あの、クロノ、夜とか、時間空いてる、かな……?」

 フェイトは学校で、クロノは事件等で、出会った頃には恒例行事のように行っていた魔法訓練が、最近はあまりやってはいなかった。終わったら終わったで、眠く なるまでお話もしたい。
 だが、クロノは気まずそうに頭を掻いた。

「ん、済まない。今日はフェベルの出向手続きで手が離せないと思う」
「ごめんなさい、フェイトさん……」

 フェベルも頭を下げる。

「あ、その、全然いいの。ホント、時間が空いたらでいいんだ……」
「悪い、フェイト。フェベル、そろそろ行こう。艦長が待ってる」
「はい! それじゃフェイトさん。失礼します」
「うん。またね」

 手を振って二人を見送る。少し進んだ所で、フェベルが派手にすっ転んだ。どうやら、丈の短いスカートに慣れていないらしい。
 クロノが手を差し伸べると、フェベルは大慌てで立ち上がり、顔と手を勢い良く左右に振った。大丈夫です大丈夫ですと連呼している。遠眼からでも、 フェイトにはあまり大丈夫そうには見えなかった。
 クロノは、そんなフェベルの手を、彼女の意思を無視して握る。そのまま歩幅を緩くして、先頭を歩き始めた。フェベルは何やら奇声を上げるが、大人しく 付いて行く。
 微笑ましい光景だった。だが、それを見送るフェイトは、何故か素直に二人を見る事が出来なかった。
 胸の奥が、小さな針に刺されたように痛んだ。



 ☆



 鳴っていたお腹が、どういう訳か、沈黙していた。小腹が空いているという感覚も無く、食堂に行く気になれなかった。仕方なく、フェイトは自室に向かう。

「ただいま……」

 取り合えず帰宅を告げ、部屋に入る。
 戦闘訓練の指導で得ていた心地の良い疲れと充足感すら、いつの間にか消えていた。むしろ、クロノとフェベルを送り出した時に感じた胸の痛みのせいで、 おかしな虚脱感すらある。
 部屋にはアルフが居た。彼女は最近エイミィやアレックスの手伝いが本業になりつつあり、昔のようにフェイトにベッタリという事が少なくなっている。
 彼女はソファの上でだらしなく胡坐を掻き、テレビを見ながら、好物のドックフードを暴食していた。

「おかえりフェイト〜」
「ただいま、アルフ」

 ベッドに座ると、自然と溜め息が出た。あれだけ軽かった身体が、どういう訳か重い。憂鬱、とまではいかないが、それに等しい状態である。

「フェイト?」

 ドックフードを食べるのを止め、アルフが振り返る。

「なに、アルフ?」

 努めて笑顔で、フェイトは答えた。彼女にあまり見せられる顔ではないと、確認はしていないが、そんな顔をしているという自覚はある。

「何かあった?」
「……どうして?」
「何か、久しぶりにフェイトのそんな顔見たから」

 作り笑顔は、やっぱり彼女には効かないらしい。

「アルフには、何でもバレちゃうね」

 すると、彼女は快活に笑う。

「そりゃね。あたしはフェイトの使い魔で、妹でも姉でもあるんだから」
「アルフ……」
「で、何があったんだい?」

 少しだけ迷ったが、フェイトは通路での一件を掻い摘んで話す事にした。探究心という訳ではないが、この虚脱感と、あの時胸を指した小さな痛み、そして最近のクロノ に対する気持ちなど、とにかく分からない事があるから。
 話している間、アルフの顔は面白いように変わった。喜怒哀楽が激しいというか。彼女らしいが、フェイトとしては真面目の話をしているのだから、もっと静かに 聞いて欲しかった。
 一通り話をし終えた後、アルフは腕を組んで唸った。

「アルフ……?」
「認めたくないわね……。若さ故の過ちを」
「は?」

 若さ故の過ち。う〜ん、アルフはまだ三歳くらいだし、何かあったのかな。

「フェイト。そりゃ恋だ」
「鯉?」
「違う違う。恋。フェイトはそのフェベルって子に嫉妬してたんだよ」
「……え? あ? は?」

 恋とは、あの恋心の恋の事だろうか。それ以外のコイは今否定されたし。
 こい。恋。Koi。コイ――。

「誰が?」
「いや、フェイトが」
「誰に?」
「だからクロノに」

 ………。

 たっぷり十秒間の時間を開けて、フェイトはうなじまで真赤にして首をブンブン振り回した。

「そ、そ、そ、そそんなぁッ! だ、だだだだだだって、クロノだよッ!?」
「小粒坊主」
「そんな事言っちゃダメ! じゃなくて。私が、そんなクロノに。わ、私なんかが……」

 股に手を突っ込み、モジモジさせる。視線が定まらず、ひたすら虚空を彷徨う。
 クロノ・ハラオウン。執務官を目指すフェイトにとって、尊敬すべき相手。同時になのはと同様に大きな信頼を寄せている相手だ。PT事件の時の彼の尽力を考えると、 リンディやなのはも含め、恩人でもなる。

「フェイト。あんた、ユーノがなのはを好きだって気持ちに気付いてて、何で自分のに気付かないの……?」
「だ、だって……。とにかく、私なんかがクロノを好きになっちゃ駄目だよぉ……」
「フェイト、その”私なんかが”ってのはもう止めなよ。フェイトはフェイト! いい? 今度言ったらなのはにバラすよ?」
「う。ごめんなさい……」

 自分を卑下する言い方は止めて。なのはとリンディに口を酸っぱくして言われている事だ。自虐的な所は随分消えてきたが、まだ残っていたらしい。

「で、でもでも、私じゃ、やっぱり駄目だよ。クロノを好きになっちゃ……」
「どうして? 誰かを好きになるなんて自由じゃん」
「だって……」

 嘱託魔導師として管理局で何回か仕事をこなしていると、クロノの噂は勝手に聞こえて来る。若干十四歳の時空管理局執務官で、AAA+の優れた魔導師。魔力の 基本容量に左右されない戦闘技術と、優れた状況判断能力は評価が高く、士官学校でも憧れの的にもなっている。
 そんな聡明な少年と、自分が釣り合う訳がない。フェイトは、こういう時に当てはまる言葉を、なのはの世界で幾つか聞いて覚えていた。
 月にスッポン。豚に真珠。猫に小判。

「フェイト〜ッ」
「きゃッ!」

 突然、アルフがフェイトを襲った。女性にしては太く逞しい腕でチョークを掛ける。

「卑下するの止めろって言ったばかりじゃん〜ッ! 精神リンクしてるんだからモロバレッ!」
「ごめんなさい〜! ギ、ギブアップッ!」

 何度か彼女の手を叩くと、すんなりと解放された。割と本気で苦しかった。

「もう〜……。とにかく、あんたの気持ちは恋に間違いないよ、フェイト」
「う〜……」

 指を差されて宣言される。フェイトは涙眼でアルフを恨めしそうに見上げた。

「あ〜、まだ納得してない顔だね」
「………」
「なら質問するね、フェイト。……クロノとなのはが楽しそうにご飯を食べてて、話している所を想像してみて」

 少し気が引けたが、アルフと精神リンクがある以上、しなければまたチョークをされそうだったから、フェイトは仕方なく想像して見た。
 そして、すぐに胸が重くなった。フェベルと手を繋いだ光景を見た時以上に、胸が痛む。

「嫌でしょう?」
「…………うん」
「じゃあ、今度はそのなのはをフェイトにしてみて」

 じっくりと想像するまでもなく、それは恥ずかし過ぎて、まともに想像出来なかった。むしろ、妄想になる。

「フェイト、感想は?」
「………ごめんなさい」

 会心の笑みを浮かべるアルフに、フェイトは素直に謝った。
 どうやら、認めるしかないらしい。フェイト・テスタロッサは、クロノ・ハラオウンが好きだという事実を。



 ☆



 食堂には誰も居なかった。それはそうだ。何せ時刻は夜の十二時を回り、日付が変わって間もないのだから。
 無人の食堂を進み、窓の側に寄る。外の光景は、ある意味何も無いに等しい。虚数空間がどこまでも続いている無の空間なのだから。
 夕食時も、フェベルの研修歓迎会も、フェイトはずっと心ここにあらずだった。一切自覚の無かった感覚を自覚してしまったのだから無理も無い。
 何度かクロノが心配をして話しかけてくれたが、とても彼の顔を直視出来ず、逃げるようにフェイトは彼から離れた。結果、激しく自己嫌悪に陥り、後は 泥沼状態。
 窓に映る自分の顔を見て、フェイトは今日何度目になるか分からない溜め息をつく。
 アルフの言葉を疑う訳でも、自分の心を認めていない訳でもないが、フェイトは端末で”恋”という言葉の意味を検索して見た。

「異性に強く惹かれ、会いたい、ひとりじめにしたい、一緒になりたいと思う気持ち、か」

 もう否定しようがなくなってしまった。
 クロノの優しさに、とても強く惹かれている。
 彼が管理局の仕事でずっとマンションに帰って来ない時、とても強く会いたいと思った。
 独り占めしたいという気持ちは、まだよく分からない。でも、フェベルと彼が手を繋いだ時や、アルフに言われて、なのはとクロノが仲良く食事をしている風景を 想像した時の胸の重み、痛みは、独り占めしたいという気持ちから来るものなのだろう。フェイト自身とクロノの食事風景を想像した時のこそばゆい感情が何よりの 証拠だ。
 一緒になりたいという気持ち。ずっと、一緒に居たい気持ちなのだろうか、これは。

「分かんないよ、クロノ……」

 窓にコツンッ、と額をぶつける。
 アルフには散々卑下するな、と言われたが、やっぱり思う。自分のような人間が、いや、本当は人間じゃないモノが、クロノのような立派な人を好きになってはいけないと。
 アリシア・テスタロッサの出来損ない。そして、成り損ない。それが自分。
 でも、そう思えば思う程、彼が好きだと自覚した心は重くなり、痛んだ。

「君を好きになってもいいの、クロノ……?」
「こんな時間にまだ起きてるのは感心出来ないな」

 心臓を鷲掴みにされる感覚だった。飛び上がらなかっただけフェイトは偉い。
 振り返ると、クロノが立っていた。

「ク、クロノ……」

 彼は何も答えず、フェイトの横に行く。
 完璧な無言の時が落ちた。気まずい雰囲気と言ってもいい。
 フェイトは、酷く落ち着かない風情だった。顔を伏せ、視線を床に彷徨わせる。左右の人差し指を絡ませ、モジモジする。正直、逃げ出したかった。でも、そう する事で彼に嫌われてしまうように思えて、出来なかった。
 クロノは、じっ、と外の虚空空間を見据えている。

「フェイト」

 無言を破ったのは、クロノだった。顔は彼女を向かず、眼は窓に映る自分の顔を見ている。

「気に障るような事とかしたかな?」
「し、してないよッ! うん、全然ッ!」

 裏返りそうになる声を必死に抑える。昼からずっと彼を避けてしまっていたのがやはりまずかったようだ。
 振り向くクロノ。眼と眼が合う。
 黒く、とても澄んだ瞳――。

「あ……ぅ……」

 甘い声が漏れた。意識してから見てみると、本当に駄目だ。とても直視出来そうにない。
 でも、眼が離せなかった。見とれてしまったと気付くまで、そう時間はいらなかった。

「それなら別にいいんだが……。やっぱり体調が悪いんじゃないのか? 少しおかしいぞ」
「お……おかしくない、よ。うん、大丈夫」
「そうか?」
「う、ん……。あの、クロノ」

 苦心して視線を外し、顔を伏せる。荒い呼吸を彼にバレないように整えた。唾を呑み、顔を上げる。

「私の事、どう思う……?」

 本当にぶしつけだと思う。でも、聞いてみたかった。彼が自分をどう思っているのか。
 彼を、自分のようなニンゲンが好きになってもいいのだろうか。好意を抱いてもいいのだろうか。フェイト自身、それが分からなかった。アルフの言葉の通り、 誰かを好きになるのも自由だとは思うが――。
 クロノはしばらく茫然として、思い出したように慌てた。

「い、いきなり何を言い出すんだ君は……!」
「どう、思う……?」

 やっぱり見ていられない。フェイトは逃げるように顔を伏せた。逃げ出したい衝動に駆られている脚を引き止めるように、ショートパンツの裾を握り締める。

「そ……そういうのは……その……」

 クロノは、酷く落ち着かない様子だった。手が忙しなく動き、頬を掻いたり頭を掻いたりする。

「好き? それとも……嫌い……?」
「き、嫌いなもんか」

 ぶっきらぼうにそう答えた。
 自然とフェイトの顔が上がる。自分の顔が明るくなって行くのが分かった。

「じゃあ……!」
「いや、その、好きとか、何というか……。嫌いな子と話とかはしないだろ?」
「そう、だけど……」
「それに、フェイトとは遠くかも知れないけど、その内家族になるかもしれないし。家族として、僕は君が好きだ」

 小さな衝撃だった。
 ――家族として、君が好きだ。
 言葉が残響のように耳に残る。それはとてもとても嬉しい返事で、とてもとても悲しい返事だった。
 自分のようなニンゲンを”家族として好きだ”と言ってくれた事が嬉しくて。その発言が、異性としては見れないと言っているような事で悲しくて。

「私も……」

 気付くと、そう言っていた。

「私も、好きになってもいいですか」

 自分に、彼を好きになる権利があるのかどうか、まだ分からない。でも、喩え異性として見てくれていなくても、彼は自分を”好きだ”と言ってくれた。その気持ち を大切にして、尊重したい。

「当たり前だろう?」

 そう言って、クロノは不器用に笑った。
 まずは、ここから始めよう。家族として好きだと言ってくれた彼の気持ちに応えられるように、権利なんて気にせず、彼を好きになろう。そして、家族以上に自分を 好きになってもらおう――!

「……ありがとう、クロノ」

 これ以上無い笑顔で、フェイトははにかんで見せた。





 クロノの事が好きになって、彼が言ってくれた”家族として好きだ”という言葉を”異性として好きだ”に変える為、私はやれる事をやろうと思った。でも、異性を好き になったのは初めてだったし、何をすれば彼が振り向いてくれるのか分からなかった。人に聞き難い事だったし、なのはやはやて、アリサ、すずかには恥ずかしくて話せない。 アルフやエイミィにも話せなかった。彼女達に私をからかう話の種を与えるようなものだから。
 相談したいけど、出来ない。私は誰にも話さなかった。





 次を読む

 前に戻る





inserted by FC2 system