魔法少女リリカルなのは SS

Southern Cross

♯.2 Present









 無数の水がアスファルトを叩く音。止まる事の無い大合唱が夜の闇に包まれた海鳴市に響く。
 八時を回った辺りで、時間遅れの夕立が降り始めた。少し遅めに帰宅を始めたサラリーマンや学生達は、手にした鞄で健気な雨除けをしながら帰路を急いでいる。
 なのはは一人、そんな中を傘を差して歩いていた。

「天気予報って当たる時と外れる時があって困るなぁ」

 傘の中から真黒の空を覗き見て、なのはは溜め息をつく。家を出る前にやっていた天気予報は、満天の星空が望めるでしょうと言われていたが、現実は正反対だ。 妙に勘の鋭い兄の助言に従って傘を持参したのだが、見事に的中である。

『恭也の勘に感謝しなくてはなりません』
『そうだね。ホント、お兄ちゃんって凄い』

 念話でレイジングハートと言葉を交わす。
 なのははお使いの帰り道だった。父親の楽しみである晩酌のつまみの調達である。最初は兄である恭也が軽いランニングがてらに行く予定だったが、すでに酔っ払った 父に絡まれ、動く事が出来なかった。そこでなのはが挙手をして、今に至る訳だ。
 小さな女の子が夜遅くに街を出歩くのは好ましい事ではない。姉である美由希が心配して一緒に行くと言ってくれたが、なのはは丁重に断った。
 少し考え事がしたかったのだ。一週間ぶりに会ったフェイトと話した事について。
 デバイス暴走事件。レイジングハートと共に幾つもの戦いを潜り抜けて来たなのはにとって、デバイスは他人の物も含めて道具ではない。一緒に歩んでくれる 相棒、大切な友達だ。喩えレイジングハートがインテリジェントデバイスでなくとも、なのははそう思っただろう。
 胸が痛んだ。自分の意思に関係無く暴走したデバイスが、大切なマスターを喰らい、最後には破壊されてしまう光景を思うと。

『レイジングハート』
『はい、マスター』
『レイジングハートはいいの?』
『何がでしょうか?』

 少しだけ躊躇った後、なのはは念話で告げた。

『私、お手伝いをするってフェイトちゃんに言っちゃったけど、レイジングハートはそれでいいの? 名前も何も知らない人のデバイスを壊しちゃうんだよ?』

 僅かな沈黙。

『……暴走から復旧出来ない以上、破壊するしかありません』

 フェイトの話では、管理局も破壊以外での暴走デバイスの鎮圧方法を模索しているそうだが、望みは薄いらしい。

『放っておけば、デバイスは罪を重ねるだけです。私はその方が耐えられない』
『レイジングハート……』
『マスターこそ、宜しいのですか?』
『え……?』
『暴走デバイスを破壊するという事は、殺傷設定の魔法を人間に対して行使する事です』
『そう……だね』
『今度は話も通じません』
『……うん』
『それでもあなたはやるのですか?』

 なのはは即答する事が出来なかった。迷いが無いと言えば嘘になる。殺傷設定で魔法は使いたくはない。なのはにとって魔法は、フェイトやユーノ、クロノ達と 出会う切っ掛けを作ってくれた大切なモノだ。掛け替えの無いモノなのだ。それを”仕方が無い”という理由で人を傷つける為に使うのは、本当は嫌で嫌で堪らな い。

『私もね、レイジングハートと一緒なの』
『………』
『信じたご主人様を傷つけて、周りの人達も傷つけて、最後に壊れちゃう。そんなの、悲し過ぎるよね。私、そんなの見てられないし、放っておけない……』
『……はい』
『私にどこまで出来るか分からない。でも、皆の悲しみを減らしてあげる事は出来ると思うの』
『結果、あなたが大きな悲しみを背負う事になってもですか?』

 その問いに、なのはは何の迷いも躊躇いも無く、笑顔で肯定した。

『うん。フェイトちゃんの辛さ、もう半分貰っちゃってるから。平気だよ』

 機械の心でレイジングハートは思う。何て気高く、心の優しい少女なのだろうかと。親しい者だけでなく、名も知らぬ人間が傷つくよりも自分が傷ついた方がいい なんて。なのはには自己陶酔や自己犠牲等という感情はどこにも無い。心からデバイスを救い、そのマスターを助けたいと思っている。
 フェイトと出会った時と同じだった。彼女の紅い瞳に宿ったどうしよもない悲しみを前に、なのはは自分が肉体的にも精神的にも傷つく事を恐れず、友達になりたい と願った。
 素朴で純粋で、果てしなく強い想い。なのははフェイトと”友達”になる過程で、何度も傷ついた。だが、今度の事件は性質が違う。恐らくフェイトの時よりも遥かに 大きな障害があるはずだ。
 レイジングハートの心は冷たい人工知能だ。予め組み定められたプログラムが複雑に絡み合い、その機能に従って稼動しているに過ぎない。それでも想い、決意する。

『レイジングハート。力を……貸してくれる?』
『もちろんです。マスター』

 何があろうと、この玲瓏な心を持つ小さなマスターを守ろう。すべてを砕く砲となり、すべてを弾く盾となり、すべてを貫く槍となり、彼女を守ろう。

「……なのはちゃん?」

 不意な声に念話が打ち切られた。緑色の傘を差した女性が近付いて来る。

「やっぱりそうだ。こんばんは、なのはちゃん」

 眼を細めて、女性は笑った。

「あ、シャマルさん。こんばんは」

 傘の中で律儀に頭を下げるなのは。女性――シャマルも軽く会釈する。

「夜遅くなのにお買い物?」
「はい。お父さんのおつまみをちょっと。シャマルさんもですか?」

 ついさっきまでの深刻さを完全に消し去って、なのはは言った。無用な心配は絶対に掛けられたくはない。

「いえ。私は町内会の会合の帰りです。ちょっと話し込んでしまって遅くなっちゃって」
「ちょ、町内会ですか……」

 前々からはやてに聞いてはいたが、なのははイマイチ実感が持てなかった。ヴォルケンリッターの参謀が町内会に出席してご近所の奥様とお茶を飲みながら話に耽るなんて、 想像出来ないはずがない。特に彼女にリンカーコアを奪われたなのはにとってはどうにも違和感しか沸いてこないのだ。

「最近の韓流ブームは移り変わりが激しくて。昼ドラは大体制覇したんですが」

 困ったようにシャマルは頬を抱えた。

「た、大変ですね……」

 美形韓国俳優に黄色い悲鳴を上げるシャマル。まあ違和感が無いと言えば無いのだが。
 なのはが頭を捻って想像していると、雨の中に見慣れた金髪が見えた。

「あれ……?」

 雨で視界の悪い道でも、その金髪はとても目立っていた。
 突然の夕立で帰宅に急ぐ人波の中を、白い制服を着た少女は、走る事も傘を差す事も無く、ただ歩いていた。
 ずぶ濡れの身体。覚束ない足取り。爪先を見詰めている瞳。通行人が何度も彼女にぶつかるが、少女は何も感じていないようで、ふらふらと身体をよろめかすだけだった。

「フェイト……ちゃん?」

 なのはが呟きと共に走り出す。足元で水がパシャパシャと跳ねた。
 すぐ側まで近付くと、疑問が確信に変わった。

「フェイトちゃんッ?」

 見間違えるはずがなかった。
 名を呼ばれた少女がゆっくりと顔を上げる。その動きは酷くぎこちなく、壊れた人形のようだった。
 顔は真っ青だった。瞳は無残にも腫れ、頬には雨の中でもはっきりと分かる涙の跡がある。
 今日、笑顔で学校に登校して来た面影は欠片も無かった。

「なの、は……?」

 震える唇。辛うじて聞き取れるような薄い声。

「フェ、フェイトちゃん……!?」

 なのはの後を追って来たシャマルが驚く。

「どうしたのフェイトちゃん――!?」

 なのはは傘と買い物袋を放り捨て、今にも倒れてしまいそうな彼女を支えた。
 よく見れば、フェイトは靴すら履いていなかった。

「フェイトちゃんッ」

 通行人が訝しみながら二人の少女を横眼で見て行く。

「………」

 フェイトの反応は希薄だった。だが、何度かなのはが呼ぶ内に徐々に変わって行く。

「……なのは……!」

 噛み締めるように言ったフェイトの瞳から、雨ではない雫がこぼれる。唇の震えが酷くなる。
 何かに耐えていた少女は、次の瞬間、声を上げてなのはに抱きついた。



 ☆



 水分を吸った服が重い。身体に張り付いてくる衣服に不快感を覚えながら、クロノは走っていた。

「フェイトォッ! どこだッ!?」

 叫んだ声は雨がアスファルトを叩く音に掻き消される。視界も悪く、水に濡れた髪が邪魔で仕方ない。

「くそッ……!」

 水銀灯の明かりが、薄暗い道を照らしている。足元ですら見難い。それでも構わずにクロノは走った。声を張り上げ、静まり返った住宅街を徘徊する。
 フェイトを探し初めて一時間。未だに彼女の姿はどこにも見つからない。元々彼女の行きそうな場所がまったく分からないクロノは、ただ闇雲に探し回る 事しか出来なかった。

「フェイトッ!」

 念話は送っても応答が無い。携帯電話に掛けても出ない。アルフの精神リンクも完全にフェイトの方から遮断されている。
 家を飛び出して行った彼女を探すには、もうこの方法しかなかった。

「どこに行ったんだ、あいつ……!?」

 慣れない住宅街がまるで迷路のようだった。
 脚を止めて荒い呼吸を整える。強い雨の中で叫びながら一時間も走り回っていれば、どれだけ鍛えていても疲労は感じる。
 身体が冷たかった。あいつも、フェイトもこんな寒い思いをしているのだろうか――。
 彼女の部屋で交わした会話を思い出す。

「……馬鹿、か……」

 罵倒されたはずなのに、どういう訳か腹は立たなかった。

「……フェイト、泣いてたな」

 夜の闇と分厚い雨雲に埋め尽くされた空を見上げて呟く。
 早朝のフェイトの笑顔。帰りのフェイトの沈んだ顔。クロノを罵倒して、飛び出して行った時の泣き顔。
 分からない。どうしてそうなってしまったのか。フェイトが言うには、学校では特に何も無かったという。鈍くなった思考で考える。

「……一緒に帰ってやれば良かったのか……?」

 あの時の交差点で、はやてを送らずに仲良くフェイトと帰路につけばよかったのか。そうしていればこんな事にはならなかったのか。 大切な妹を悲しませなくて済んだのだろうか。
 だが、それではまだ脚が完治していないはやてを一人で離れた家に帰す事になる。それはどうしても出来なかった。
 煮詰まった思考が、沸騰したお湯のように熱くなる。訳の分からない苛立ちが心中を焦がした。

「あんな我侭、前は言わなかったのに」

 呟いてみて、クロノはずっと忘れていた事を思い出した。
 フェイトはまだ九歳の少女なのだ。ズバ抜けた才能と魔力を持っている魔導師だが、それは変えられない。あの我侭は歳相応の微笑ましい駄々だった のではないのか?

「………」

 頭では分かっているつもりだった。
 優れた魔導師でも、まだ小さな女の子であるフェイト。その身と心を案じて、クロノは何度か嘱託の仕事を彼女には告げずに拒否した事があった。今 起こっている暴走デバイスの一件もそうだ。可能なら、彼女をこの事件から外そうと考えた。
 魔導師として、クロノはフェイトを子供と見ている。だが、実際に家族として触れ合っている時には子供として見れていただろうか? 本当ならまだ親に甘えたい 年頃の妹だと見れていただろうか?

「……見てなかったな、僕は……」

 溜め息が喉を通る。
 はやてが言っていた”鈍感”というのは、この事なのだろう。

『クロノ』

 念話が届いた。繁華街を探しに回っているアルフからだった。
 自分自身に慨嘆している場合ではない。今はフェイトを探す方が先決だ。

『そっちには居た?』
『いや、居ない。そっちは?』
『駄目。どこにも居ないよ……』

 アルフの声は剣呑だった。憔悴していると言ってもいい。

『精神リンクは?』
『切られたまま……』
『……僕はもう少し探してみる。君は一度マンションに戻ってくれ』
『あたしも探すよ!』
『もしかしたら戻ってる可能性もある。誰も居なければきっと不安になるだろう。君は戻ってフェイトを待ってるんだ。いいな』
『……分かったよ』

 不承不承、了承するアルフ。

『頼む。もしフェイトが戻ってなかったら、彼女の為に風呂の準備をしておいてくれ』
『うん、そうするよ。……頼むね、クロノ』

 念話が途切れる。
 クロノは乱暴に頭を振り回した。水滴が雨に混ざって周囲に飛ぶ。
 このまま、ただ闇雲に街を捜し歩いても効果は薄い。かと言って、クロノはフェイトが行きそうな場所がほとんど分からない。

「情けない兄だな、僕は……」

 痛感しながら、クロノは模索する。この海鳴市で、彼が知るフェイトが行きそうな場所を必死に考える。
 学校? こんな時間に行っても開いているはずがない。
 公園? そちらはアルフが繁華街と一緒に探している。
 隣町? ジュエルシードを集める為にフェイトとアルフが一時的に住んでいた遠見市という街が、海鳴市と川を挟んだ場所にある。だが、それなりに近い場所では あるが、徒歩では一時間以上掛かる。少女の脚では難しいだろう。

「後は……」

 親友である高町なのはの自宅。アリサやすずかといった他の友達の家という可能性もあるが、残念ながらクロノは彼女達の家の場所を知らない。八神はやての自宅という 候補もあったが、可能性としてはなのはの方が高い。
 これで居なければ後はどうしようもなかった。マンションでフェイトが戻って来るのを待つしかない。アースラの管制システムでバルディッシュのデバイス反応を検索 すれば早いが、あれは私情で使えるような代物ではない。
 クロノは祈るような気持ちでなのはに念話を送った。

『なのは、聞こえるか?』
『あ、はい。クロノ君?』

 少し戸惑った声が返って来た。

『夜遅くに済まない。そっちにフェイトが行っていないか?』

 少しの沈黙。

『えっと、居る事は居るんですが……』
『本当か?』
『うん。ただ、その……』

 口籠もるなのは。

『……どうした?』
『……クロノ君、今からはやてちゃんの家まで来れますか?』
『はやての家に?』

 何故彼女の自宅ではなく、はやての自宅なのだろうか。

『うん。理由は後で話すから』
『……分かった。急いで行く』

 念話を切って、クロノは走り出した。靴の中で浸食した水がびちゃびちゃと情けない音をたてる。
 ――そういえば、フェイトは靴も履いていなかったな。



 ☆



 眼を覚ますと、烈火の将の顔が見えた。いつもの気難しい顔だ。

「……もう朝飯か?」

 その瞬間、シグナムの拳が唸りを上げた。鈍い音がして、ヴィータは額に激痛を感じる。

「な、何しやがるてめぇッ!」

 ヴィータが眠っていたのは、アースラの艦内にある医務室のベッドの上だった。真新しいシーツにはシミ一つ無い。清潔感のある室内は広く、ヴィータでは用 途が分からない医療機材が綺麗に整理されている。
 ヴィータとシグナム以外、医務室には誰も居なかった。

「シグナム〜ッ!」

 猫が唸るように、ヴィータはシグナムを睨む。彼女は腕を組むと、ベッドの脇にあった椅子に腰掛けた。

「……あまり心配を掛けるな、ヴィータ。お前の身に何かあれば、主はやてが悲しむ」

 咎めるというよりも、頼み込むようにしてシグナムが言った。
 ヴィータの脳裏に獰悪な暴走体との戦闘がよぎる。憤怒に身を任せ、ひたすらに破壊しようと戦った。だが、結果がどうなったか、何故か思い出せない。
 後頭部に手をやると、肌触りの良い感触があった。包帯だ。

「あたしは……」
「一応検査はしてもらったが、異常は無かったそうだ。リミエッタ執務補佐官に感謝をしろ」

 まだ痛む頭を捻り、記憶を辿る。思い出せたのは、頭蓋骨が軋む音と失神してしまいそうな程の痛み。そして、シグナムの物と思われる叫び声だ。
 誰が助けてくれたのか、考えるまでもない。

「……ありがとう、シグナム」

 彼女が居なければ、きっとヴィータの頭は地面に叩き付けられたスイカのようになっていただろう。

「主はやてがお前が大切にしているように、私にとってもお前は大切な家族だ。気にするな」
「……うん」

 家族。はやてと出会う前のヴィータにとっては、意味すらあやふやだった言葉だ。それが、今では家族が無いと生きていけないとすら思ってしまう。
 温かくなりかけていた少女の胸に、不意に影が落ちた。鈍い痛みを発している頭と共に。

「シグナム、あのデバイスは?」

 緩んでいたシグナムの顔に、緊張感が戻る。

「二機共破壊した。寄生されていた魔導師は本局内の病院に収容している」
「……あの街は……?」

 瓦礫の墓場と化したベッドタウン。炭になってしまったぬいぐるみ。それがヴィータの脳裏に焼きついて離れない。

「……生存者は二百名弱」

 シグナムの口から出た言葉に、ヴィータの表情が僅かに綻んだ。だが、次の瞬間にそれは歪んでしまう。

「重軽傷、死傷者は合わせて三千数百名に上るらしい」
「………」

 言葉が出なかった。生き残った人間の六倍の人間は助からなかったというのだ。
 握り締めた小さな拳が震えた。
 シグナムは椅子から立ち上がると、窓に歩み寄る。眉間に皺を寄せ、特殊ガラスの向こうに見える虚数空間を睨んだ。

「民間人に死傷者が出た最初の事件だったようだ。……暴走デバイス。話で聞いていたよりも遥かに厄介な代物だ」
「………」

 厄介というレベルではない。シグナムとヴィータが戦った二体の暴走体は、事前にリンディから渡されていた資料とは明らかに次元の違う強さを誇っていた。一度 鎮圧に失敗して、寄生している魔導師の魔力を吸い続けた結果、過度に成長してしまった結果である。
 近接戦闘に於いてシグナムとさえ互角に渡り合う技量を持ち、ヴィータのグラーフアイゼンの直撃に防御魔法を使わずに耐える強度を備え、鋭敏な動きと優れた状 況判断を有する暴走デバイス。AAAクラスの魔導師ですら、容易に勝利する事は出来ない強さだ。

「魔力と時間があれば我々以上の強さに至るな、奴らは」
「……周りを喰いながらな……!」

 吐き捨てるようにシグナムの言葉を補足したヴィータは、ベッドを降りた。靴を履いて扉に向かう。

「どこへ行くつもりだ?」

 背を向けたまま、シグナムが訊く。

「腹ごしらえ。魔力が足りないから。食って寝る」
「……辛いのなら、ザフィーラと代わる事も出来るんだぞ。ハラオウン提督の依頼は、ヴォルケンリッター二名の出向だ。何もお前である必要はない」

 映像が甦る。黒焦げになったぬいぐるみにへばり付いていた、持ち主の物と思われる手首の映像が。
 ヴィータは唇を噛み締め、シグナムに振り返る。

「あたしを誰だと思ってるんだ?」

 最初はあまり気乗りしなかった。元々戦うという行為が好きではないヴィータにとって、暴走したデバイスの鎮圧など気分良く出来る訳がない。彼女が戦うのは、 八神はやての為だけなのだ。それでもこの仕事を引き受けたのは、日頃から世話になる機会の多いリンディとレティの頼みだったからである。聞けば忙殺されていた クロノとフェイトを休ませる為だという。
 情けない奴らだと、ヴィータは鼻で笑った。シグナムと共にアースラへ赴き、実際に暴走体と戦闘になるまで、ヴィータはあの二人が単純に弛んでいるだけだと思 っていた。

「あたしは守護騎士ヴォルケンリッター、紅の鉄騎、ヴィータだ」

 止めなければ無限に発生する被害。失われる人命。破壊される生活。防ぐ為には、実際には罪の無い魔導師を殺傷設定の魔法で攻撃するしかない。
 クロノとフェイトは、数週間もそんな仕事に忙殺されていたというのだ。

「……そうだったな。悪かった」

 苦笑して謝罪をしたシグナムが身を翻す。

「私も付き合おう。ハラオウン提督に報告をしなければならない事もある。それに、お前一人では艦内で迷ってしまうだろうからな」
「あたしは方向オンチじゃない!」
「この前、ご老人のお使いで道に迷い、半ベソをかいてたのは誰だったかな?」
「……食前の準備運動なら付き合うぜ、シグナム?」

 ヴィータは腕をまくり、不敵に提案する。すると、シグナムは人差し指で彼女の額を軽く小突いた。
 見上げたシグナムは、とても優しげに微笑んでいた。

「……それだけ強がりを言えれば問題無いな」
「強がりじゃねぇーよ!」

 あんな惨劇、もう絶対に起こさせない。その為ならば、どんな戦いでもしよう。どんな戦いでも。

「ゴキブリの事、アースラの連中にチクるぞッ! 烈火の将ともあろう者が油虫一匹にキャーキャー言ってたってなッ!」
「……それは止めろ。本気で。というか言いふらすな」

 そんなやり取りをしながら、二人は医務室を出て行った。





 to be continued.





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 □ あとがき □
 英文なんて嫌いですorz 英文に関しては突っ込まんで下さい(切実)。
 誤解ではないにしろ、半ば誤解してるクロノ君フォーエバー。






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