魔法少女リリカルなのは SS

Southern Cross

♯.8 Rejection









 足元で水が跳ねる。水を吸った靴下は不快感の塊だった。
 なのはは走っていた。傘は差しているが、その意味はほとんど成されていない。

「フェイトちゃーんッ!」

 人気の無い道路に木霊した声は、雨音の中に消えて行く。
 ミッドチルダと同じように、海鳴市も雨模様だった。朝早くだというのに空は暗い。

「フェイトちゃんどこォッ!? フェイトちゃーんッ!」

 見慣れた住宅街を走る。だが、どこに行っても、どこを見ても、彼女の姿はどこにも無い。

「フェイトちゃん……!」

 あの話を聞かれてしまった。時空管理局提督としてのリンディの言葉も聞かれてしまった。
 一番聞かれてはいけない子に聞かれてしまった。

「どこに行っちゃったの、フェイトちゃん――」

 時折通りかかる通行人が、怪訝そうな視線をなのはに送る。
 フェイトの失踪を知ったなのはは、転がり込むように本局内の総合病院へ向かった。未だ意識の戻らないシグナムに会いに行ったのかもしれないという儚い期待は、 迎えてくれたはやての言葉によって破壊された。
 ――来ていない。

「フェイトちゃんッ!」

 雨脚が遠ざかる様子は無い。
 フェイトの転移魔法を確認した。思念通話でそう報告して来たエイミィの言葉に従って、なのはは海鳴市へ転移した。はやてやザフィーラも一緒に探してくれると 言ってくれたものの、不定期発生する暴走体への強力な予備戦力として、また、シグナムやヴィータが意識を取り戻した時の為にも、彼女達には自重してもらうしか なかった。

「なのはぁッ!」

 眼の前から茜色の髪の女性――アルフが駆け寄って来る。狐のような耳も、髪と同じ色の尻尾も、今は隠されていない。そこまで気が回っていないのだ。
 傘を差していない彼女は、すでに全身ずぶ濡れだった。

「アルフさんッ」
「そっち、居たッ!?」
「居ません……! アルフさんはッ?」
「こっちも駄目だ。どこにも居ないよぉ……!」

 歯を噛み締めながら、アルフは泣いていた。声を殺し、涙を雨で流し、泣いていた。

「エイミィッ! 本当にフェイトはこっちに転移したんだろうねッ!?」
『してるよッ! フェイトちゃんの魔力反応とバルディッシュの反応、二つともちゃんと確認したよォッ!』

 エイミィの絶叫が通信となって返って来る。完全に裏返ってしまった、喉を痛めつけるような金切り声だった。
 フェイトは病院には行っていない。この時点で彼女の足取りは完全に消えてしまった。だが、どこへ向かったのか、また何の為に外に出たのか、なのは達は誰 一人として思案する事無く答えに思い至った。
 クロノを探しに行ったのだ。執務官権限を剥奪され、犯罪者として管理局に追われる立場になってしまった彼を。
 だが、海鳴市にクロノが居るとは到底思えなかった。この街には彼のメリットになるような物が存在しない。自宅とも言うべきマンションはあるが、あるだけだ。 頭の回転が鋭い彼が、管理局に監視されている可能性のある場所に行くとは思えない。
 それでもフェイトは海鳴市に転移した。ならば後は探すだけだ。

「ちくしょう……!」
「なのはッ、アルフッ!」

 新たな声がする。振り向けば、ユーノの姿が見えた。
 フェイトの捜索はこの三人で行われていた。リンディの姿は無い。自身でも口にしていたように、時空管理局提督である彼女に、有事の状況下に於いて勝手に持ち場 を離れる事は許されない。それが大切な子供の為であったとしてもだ。
 そんなリンディを、エイミィは非難しなかった。声すらかけなかった。

「フェイト、見つかった!?」
「駄目だ、どこにも居ないよ……!」

 なのはの周囲は、すでに崩れていた。親友が、大切な仲間が、その関係そのものが、眼を背けてしまいたいと思うぐらいに崩壊していた。
 なのは自身も今は揺らいでいる。エゴイストと断言され、これまで自分がして来た事に疑問を持ち始めている。
 だが、状況は彼女にゆっくりと思案させる時間を与えない。高町なのはという十歳になったばかりの少女には、やらなければならない事が、考えなければ ならない事があまりにも多過ぎる。

「アルフさん、落ち着いて!」
「落ち着けるかぁッ!」

 近付くなのはを、アルフが腕を振るって威嚇する。水飛沫が飛び、なのはの頬を叩く。

「何で……何であんな奴探しに行くんだよォ、フェイトォッ!」
「………」

 膝を折ったアルフは路面を殴る。拳を打ち付ける。肌が裂け、血が飛び散る。

「この前もそうだ……。この前もこんな感じだった。フェイト、泣きながら走って出てって……!」
「……アルフ……」

 路上の雨が、アルフの拳の血を吸って行く。

「……同じだ。プレシアの時と全部同じだぁ……!」

 雨音は変わらずにそこにある。
 なのははアルフの背中を見ている事しか出来なかった。フェイトの魔力反応は、海鳴市に来た時点で途絶えた。バルディッシュの反応も無い。こちらの強制受信型 通信にも応答しない。連れ戻されるのを懸念しているのだろう。
 アルフの言う通り、状況はPT事件と何ら変わらない。フェイトの束縛者がプレシアからクロノに変わっただけだ。
 信じていたのに裏切られ。
 裏切られた事が信じられず。
 ただ、想い人を探して彷徨う。

「ちくしょうォッ……! フェイトォォォォッ!」

 アルフの慟哭は続く。雨の街に響き渡る。狼の遠吠えのように。

「……探そう」

 なのはは邪魔な傘を閉じる事にした。

「……どこを探すんだよ……」

 背を丸めたアルフが細い声で問う。

「どこでも。見つかるまで」
「………」
「……そう、だね」

 一言の弱音も吐かず、ユーノが頷く。

「僕はもう一度商店街を探すよ。それで駄目なら隣町だ」
「アルフさんは遠見市を探して下さい。もしかしたらあそこかもしれません」
「……あんたはどうするんだい」
「私は臨海公園に行ってみます」

 自分にとっても、フェイトにとっても、クロノにとっても、海鳴臨海公園は思い出深い土地だ。
 フェイトと幾度となく戦い、クロノと初めて出会った場所。
 もしフェイトがクロノを探すとしたら、あそこに向かう可能性がある。いや、高いかもしれない。

「アルフさん、探そ!」

 顔を上げたアルフがなのはを見る。その瞳に、なのはは言葉を失った。
 いつも自信に満ち溢れ、天真爛漫に笑っていた無邪気な瞳はどこにも無かった。ただ、縋りつくような視線を投げかけて来た。
 ――見放さないで。フェイトの側に居てあげて。あの子の手を握ってあげて。
 彼女は瞳でそう言っていた。
 なのはは頷こうとする。だが、すぐには頷けなかった。
 クロノを求めているフェイトを、自分は止める権利があるのか。一週間前、フェイトと同じように傷付いていた彼に辛辣な言葉を浴びせ、拒絶した自分がそんな事を していいのか。
 泣いている子に手を差し伸べても良いのか。
 その気持ちを無視して、その気持ちを押し潰してまで、手を差し伸べてしまっても良いのか。
 そんな権利が、自分にはあるのか。

「なのは、早く行こう」

 ユーノの声が、なのはの黙考を中断させる。
 アルフと視線が重なる。もう頷くしかなかった。

「……うん」

 自分自身の揺らぎが大きくなっていた。少しの衝撃で根底から崩れてしまいそうな程に。



 ☆



 胸が二つの感情でいっぱいになった。
 眼の前にクロノが立っている。髪は見る影も無く真っ白になっているが、見間違えるはずがない。
 もう会えない。会ってくれない。声も聞けないし、顔も見れないと思っていたクロノが、四、五メートル程先に立っている。

「くろの」

 嬉しかった。だから笑みがこぼれた。でも、笑みはすぐに消えてしまった。
 罪悪感。クロノを無神経に傷付け、酷い事をしてしまった事に対する感情。
 走って行きたい。
 抱き着きたい。
 頬に触りたい。
 鼓動を聞きたい。
 体温を感じたい。
 でも、自分にはそれが許されない。許さない。
 歪な葛藤。
 脚が動く。身体が前に出ようとする。それを必死に御する。

「………」

 ぎゅっと唇を結び、水浸しのワンピースの裾を握り締める。
 クロノはずっと立っている。その表情には何も無い。絶望するぐらいの無表情だ。髪とは違って、黒いままの瞳にも何も浮かんでいない。
 道端に転がっている石でも見るような視線。それが何よりもフェイトの脚を止めていた。

「フェイト」

 彼が呼んでくれる。でも何て答えていいのか分からない。
 どうしよう、どうしよう、どうしよう。
 裾と一緒に握り締めたバルディッシュが痛かった。

「その手、どうしたんだ?」

 クロノの視線がフェイトの左手に移る。
 自傷の痕を隠す為に巻かれていた包帯は、雨風に晒されて、まるで雑巾のように薄汚れていた。

「な……なんでも、ないの。ちょっと、ころんだだけ……」

 左手を腰の後ろに隠す。この傷痕を見たらクロノは何て言うだろうと何度か考えたが、こんな醜い手を見せる事なんて出来るはずが無かった。

「そうか」

 クロノの眼から興味が消える。無関心な黒い瞳がフェイトを見詰める。
 彼は気だるい声で続けた。

「それで、どうして君がこんな所に居るんだ?」
「……くろのを……さがしに、きたの……」

 そして話を聞く。シグナムを攻撃した理由、管理局に背を向けるような真似をした訳を訊ねる。
 喉を鳴らす声がした。

「僕を殺しに来たんじゃないのか、フェイト?」
「……え?」
「僕は君を裏切ったんだぞ? 君を傷付けたんだぞ? 僕が憎くないのか?」

 フェイトは素直に困惑した。自分がクロノを憎む? そんな馬鹿な。有り得ない。好きで好きでどうしようもないだけだ。

「にくくなんて、ない、よ。わたしは……くろのが、すき……」

 クロノが少し驚いたように眼を見張る。
 気恥ずかしくなって、フェイトは蒼白い頬を赤めた。

「ありがとう、フェイト」

 クロノが笑っていた。
 さらに頬が赤くなる。だが、次の彼の不可解な言葉に、フェイトの感情は止まった。

「手間が省けたよ」
「……て、ま?」
「ああ。君一人じゃ物足りないけど、眼の前に来られたんじゃ僕も我慢出来ない」

 言葉の意味が飲み込めず、フェイトは茫然とクロノを見詰める。
 クロノが右手を眼の前に掲げた。その人差し指と中指に挟まれているのは、紅いタロットカード。

「フェイト。死んでくれ」

 散歩に誘うような気軽い声だった。
 耳が聞こえなくなった。でも、それは錯覚だ。
 眼が見えなくなった。でも、それは錯覚だ。
 声が出なくなった。でも、それは錯覚だ。

「もしそれが嫌なら、僕と全力で殺し合いをしてくれ。僕の強さの糧になってくれ」

 現実を否定しようとする心が生み出す、ただの錯覚だった。
 顕現を果たしたS2Uが路面を打つ。石畳を砕いた機械仕掛けの魔導師の杖は黒ではなかった。紅かった。杖の先端から長柄の末端まで、赤いペンキを被せたような 紅色をしている。長柄と先端部位を連結させている部分には、大型のリボルバーシリンダーが内蔵され、その無骨な外見を露出させていた。
 異形となったS2Uは、しかし、フェイトの眼にはほとんど入らない。

「非殺傷設定を解除した戦闘訓練はやった事が無かっただろう」
「え……あ……」
「いきなり実戦だが、僕と違って、才能のある君なら問題は無いさ。そうだろう?」

 赤と黒の法衣が彼の身体を包む。原型はそのままなのに、色だけが違うバリアジャケット。

「君も構えなよ」

 S2Uの先端が向く。カチャリと金属音が鳴る。
 初めて出会った時と同じだった。場所も。彼の構えも。その眼も。
 空っぽになった心のどこかで、白紙になった頭の片隅で、フェイトはようやく理解した。


 クロノは私を殺そうとしている。


 私の死を願っている。


「……構えないのか?」

 どうして殺そうとしているのか。どうして敵と見なされているのか。

「……くろのは、わたしが……にくい、の?」

 辛うじて、そう訊く事が出来た。
 長い長い、どこまでも長い一瞬。

「さぁ」

 本当に。彼は心の底から本当にどうでも良さそうな声で言った。

「ただ、君は僕を脅かす存在なのは間違いはない。だから……憎いのかもしれない」
「……や、やだ」

 顎が震えた。

「きらいになってもいいから……にくまないで……」
「………」

 嫌いになられるのはまだ良い。憎まれるより、疎まれるよりずっとマシだ。
 憎まれるのは嫌だ。かつての母のように捨てられるのは、もう、絶対に――。

「いやぁ……!」

 クロノの顔に険が浮かぶ。

「じゃあ戦おう。僕に憎まれたくなかったら、殺し合いをしよう」

 クロノが前に出る。
 フェイトが後ろに下がる。

「やめて」
「駄目だ」
「なんでもするから」
「なら殺し合おう」
「それはいや」
「矛盾してるな」
「ゆるして」
「無抵抗の君を殺して意味が無い。僕は強くなれないんだよ」
「くろの」
「バルディッシュ。君のマスターが危険に晒されているぞ?」
「おねがい」
「……うるさいよ、フェイト」

 S2Uの先端に光が灯る。初めて出会った時と同じように。
 スティンガーレイ。

「―――」

 ずしゃりと人が倒れる音。路面に金髪が転がった。
 フェイトが水浸しの路面に沈んでいる。俯けになって這いつくばる。

「ぁ……」

 脚が痛かった。手で探ると、浅く切られているのが分かった。クロノの殺傷設定の魔力弾頭が掠めたのだ。
 顔を上げる。すぐ近くに立っているクロノの顔を仰ぎ見ようとした。その視界を、S2Uの紅い先端が埋めた。

「今のは威嚇だ。次は当てる」

 魔力を感じた。懐かしさすら感じる彼の魔力だ。
 フェイトは言った。

「なんでもするから」

 失笑が返って来た。

「だったら戦ってくれ。殺し合いをしてくれ」
「いや」
「なら」

 感じた魔力が光となる。
 眼前で殺傷設定のスティンガーレイ。即死だ。
 フェイトは動かなかった。動く気力なんて、身体のどこを探っても無かった。心を振り絞っても出て来なかった。

「死んでくれ」
『Defensor.』

 無感情な声と無機質な声が重なった。
 スティンガーレイの発動とバルディッシュの魔法防壁発動は、僅かな差でバルディッシュの方が速かった。防壁に接触したスティンガーレイは射出距離が短かった為に 充分な加速を得られず、圧壊。凝縮されていた魔力があらゆる方向にぶちまけられた。
 爆発と黒煙が周囲を支配する。雨風を蹴散らし、大気を振るわせた衝撃は、フェイトの身体を木の葉のように吹き飛ばした。
 着地出来るはずがなかった。路面に叩き付けられる。呻き声一つ出ない。三回目のバウンドで加速が途絶えた。さらに二メートル程転がった後、ようやくフェイトは 止まった。
 ピクリともしないフェイトの右手には、デバイスフォームに変化したバルディッシュの姿があった。





 自動展開防壁ディフェンサーで防ぎ切れるような破壊力では無かった。最大出力で構築したが焼け石に水だ。だが、防壁を貫通しなかっただけ マシだと言える。
 バルディッシュの主――フェイトに動く気配は無い。

『主』

 電子音声で呼びかける。
 反応は無い。
 それでも呼びかけ続ける。

『立って下さい、主』

 黒煙が消える。魔力の残滓が周囲を漂う。
 水を踏む音がした。
 緩慢な足音。

『主!』

 その音が近付いて来る。
 フェイトが手を動かす。小刻みに身体を震わせながら、ゆっくりと身を起こして行く。
 膝立ちをしたフェイトの眼前で水の足音は止まった。

「何もせずに死ぬつもりか?」

 フェイトの視界をクロノの魔力光が支配する。
 再び衝撃。ディフェンサーが間に合わない。
 少女が路面を滑る。ワンピースが破け、アクセントのリボンが千切れ、肌が裂けた。

「―――」

 悲鳴も呻きも無い。フェイトはただ、丸めた身体を冷たい路面に横たえるだけだ。
 再び近付いて来るクロノの足音。それを聞きながらバルディッシュは思う。

 何故だ。何故この子ばかりがこのような目に合う。想い、慕い、愛する人間から傷付けられる。

 そして自身を呪う。

 夜を切り裂く戦斧となり、闇を貫く戦槍となり、敵を断つ戦鎌となり、これまで彼女を支えて来た。創造主リニスの思いを引き継いで来た。
 だが、彼女は支えを必要としなくなった。自分の脚で立ち、自分で考え、自分の為に二本の脚で歩き始めた。自分はそれに合わせ、思いを貫く巨剣となった。
 なのに彼女を守れない。思いを貫く為の助力どころか、支えてやる事すら出来ない。

『立って下さい』

 この無力感。
 この罪悪感。
 この悲愴感。

『主』

 バルディッシュ。フェイト・T・ハラオウンを支え、その思いを貫く為のインテリジェント・デバイス。
 高分子素材と数多の魔力回路で構成された鋼のデバイス。
 彼は泣いた。何も出来ない自分を呪い、後悔し、己を憎悪した。
 どうしてあの時止めなかったのか。弱々しく、覇気の無い笑顔を浮かべた主を止めなかったのか――!
 ――足音が止まる。





「……どうして何もしないんだ?」

 その声が、空っぽになってしまったフェイトの心を揺らした。
 壊れた人形のように、フェイトは起き上がる。
 泥水を浴びたワンピースは灰色になっていた。

「……くろのが……すき、だから……」

 もうそれしかなかった。
 ぼやけた視界にクロノが映る。
 少し離れた所で、S2Uを構えるクロノが見える。

「ふざけるな」

 一蹴だった。クロノはフェイトの言葉を何の感慨も含まれていない声で拒絶した。

「くろの」
「もういい」

 玩具に飽きた子供のように、クロノの眼から表情が消えた。
 S2Uの先端に再び魔力が集中する。それは、半ば思考途絶にあるフェイトを、さらに絶望に突き落とした。
 構築された術式は砲撃魔法。属性は火。呼称名ブレイズキャノン。

「なのはのバスターには勝てないけど、それなりの威力はある」

 スティンガーレイとは比較にならない魔力の渦が発生する。名も術式もすべて同じだが、解放される魔力量は尋常ではない。従来のブレイズキャノンとは比較に ならない火力を秘めているだろう。
 雨に打たれている頬を、一滴の涙が伝って行く。

「……なんでも、するから……おねがいだから……やめ、て……くろの……」

 ブレイズキャノンの術式が完全に構築、展開された。凝縮された爆発的な熱量が巨大な球体となって維持されている。紫電を撒き散らし、大気を焼き、飲み込んで 行く。
 暴発寸前の危険な砲。

「フェイト、もう一度だけ訊く。僕と殺し合いをしてくれないか? 僕が強くなる糧になってくれないか?」

 何度問われても、フェイトは一つの答えしか持ち合わせてはいない。そう、喩え殺されてたとしても――。

「……ぜったいに……いやぁ……!」

 涙が滲み、血が滲んだ声。

「なら君をこの場で殺して、なのはと戦う。彼女も君と同様に拒絶するかもしれない。そしたら、僕は同じように彼女を殺す。それでも?」

 それでも――!

「いやぁッ!」
「じゃあ、これでさよならだ。ばいばい、フェイト」
『Blaze Cannon.』

 トリガーヴォイスが入力される。
 周囲の大気を激しく掻き鳴らし、制御から解き放たれた暴力的な熱量は、濁流のようにフェイトを襲って――。
 撃発音が僅かに聞こえた。

『Round Shield.』

 肌を焼く熱の中、フェイトは見た。白いバリアジャケットの背中を。
 濁流が止む。蒸発していた雨が水蒸気となって辺りに満ちた。
 水蒸気が晴れて行く。

「君か」

 弾みを加えた声でクロノが呟く。
 座り込んだフェイトの前に、高町なのはが立っていた。両腕を広げ、立ちはだかっていた。

「――やめて――」

 S2Uを構えるクロノ。
 撃たれたフェイト。
 庇うなのは。
 三人は、三人が始めて出会った時とまったく同じ光景を、同じ場所で再現していた。





 to be continued.





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 □ あとがき □
 読んでいただきましてありがとうございます。まだ続く。フェイトの落下はまだ続く。トドメがまだ、残っている。

 2006/6/16 誤字修正
 2006/7/06 改稿
 2006/10/23 改稿




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