魔法少女リリカルなのは SS

Southern Cross

♯.6 Pain









 これが憎いという感情なのだろうか。フェイトは思った。
 部屋は薄暗い。明確な明かりは無い。窓ガラスの外は虚数空間が広がっている。
 こんな力、無ければ良かった。
 プレシアはどうして魔力資質を消してくれなかったのだろう。
 リニスはどうして才能を伸ばすような事をしたのだろう。
 彼女達に咎などありはしない。あるはずもない。それは充分に分かっている。一年前に理解した。
 だから、フェイトは生まれ出た憎しみを自分に向ける事にした。
 才能が憎い。
 資質が憎い。
 あれだけ好きだった魔法そのものが、今はひたすらに憎い。彼を、クロノを奪い去ってしまった自分自身が、凄まじく、どうしようもないくらい、 殺したい程憎い。
 プレシアに一方的な断絶宣言をされた時のようになれればどんなに楽だっただろう。だが、今はそうは出来ない。心は憎悪に満たされ、空虚にはならない。
 なのはと出会う前のフェイトなら、もしかしたら自分の殻に閉じ籠もる事が出来たかもしれない。あの時の弱い心なら、母親という虚像に縋り付いていたあの頃なら 楽になれたのかもしれない。
 だが、今のフェイトは強くなってしまっていた。能力的なものではなく、心がだ。
 半年前。リインフォースと戦った時、フェイトは望んだ幸せがある夢を見た。優しいプレシアが居て、消えたはずのリニスが居て、居ないはずのアリシアが居て。
 微温湯のような居心地の良さがあるその夢から、フェイトは脱出した。現実の世界では、なのはやクロノ達が必要として、自分を待っていたから。
 そうして、”テスタロッサ”の名と決別した。
 それが出来る程に彼女の心は強くなっていた。
 その強い心が、今は諸刃の刃となってフェイトの心を深く傷付けている。

『才能のある君に、才能の無い僕の気持ちは分からない……ッ!』

 消える事無く耳に残っている彼の声。
 いつかリーゼ姉妹が言っていた。クロノは両親譲りで魔力量はそこそこあったが、才能は無かったと。だからこそ彼は努力に努力を重ね、圧倒的な技量を備え、 場数を踏み、最年少で執務官となった。AAA+指定の魔導師になった。
 それを、自分は踏み躙った。

『僕は無力だッ! デバイスを強化した所でどうにもならなかったッ! 魔力を使い果たして、無様に君に助けられたッ! 何が状況に応じた魔法の選択とその 応用力だッ! 所詮は魔力量だったんだよッ!』

 そんな事は無い。フェイトはそう言いたかった。彼女もなのはも、模擬戦闘ではクロノに勝った事が未だにほとんどない。フルドライブ――ザンバーフォームやエク セリオンモードを使用しても負けてしまう事が多かった。
 だが、模擬戦闘を始めた当初に比べれば遥かに勝ち星は多くなっていた。フェイトは単純にこの事実を喜んだ。
 自分はクロノの剣だ。なのはに誓った時と同様に、フェイトはクロノにも誓った。彼の行く手を阻むモノを、邪魔するモノを薙ぎ払う剣になる、と。
 クロノを守る為に強くなりたかった。肩を並べるくらいに強くなりたかった。だから、彼との模擬戦闘の勝率が上がって来た時は嬉しかったのだ。
 実際には、自分が彼の行く手を阻み、邪魔するモノになっていた事にも気付かずに。
 クロノはこう言った。
 君の親友を守れなかった。
 僕があの魔導師を殺した。
 僕に力が無かったせいだ。
 僕がアリサを殺しかけたんだ。
 違う。フェイトは心の底からそう思う。
 悪いのは自分なんだ。アリサを守れなかったのも自分だ。魔導師を殺したのは、暴走体を逃がしてしまった自分だ。力が足りなかったのは自分だ。
 だから――私が、悪いんだ。

『君が……君が悪いんだろうッ!』

 そう――私が、悪いんだ。
 フェイトの頭は異常なまでに晴れ晴れとしていた。すべてが一つの言葉に行き着くからだ。行き着いたその言葉に、フェイトは何の疑問も持たない。持てるはずが 無かった。
 ――悪いのは私――。
 まともは判断能力はもうどこにも無かった。視野が狭くなるとか、思考が鈍くなるとか、そんな次元ではない。家族や親友達に散々言われて来た”自虐性”が 彼女をどこまでも追い詰めて行く。
 どうすればクロノは私を許してくれるのだろう。
 どうすればまた私に微笑んでくれるのだろう。
 どうすれば。
 どうすれば……。
 どうすれば―――。
 立ち尽くし、何も無い空間を見詰める。答えは出なかった。でも欲しい。答えが欲しい。
 欲しい。
 欲しい。
 欲しい。
 欲しい。
 欲しい。
 欲しい。
 欲しい。
 欲しい。
 答えが、欲しい。
 でも、出ない。
 頭の裏が急激に熱くなった。

「あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 思い切り髪を掻き毟る。クロノが好きだと言ってくれた金の髪が瞬く間に引き裂かれて行く。
 膝をつく。引き千切られた髪がぼろぼろと床に散らばった。
 絶叫は嗚咽になる。涙は出なかった。悲し過ぎて出なかった。
 座り込んだ拍子に何かが床に転がる。窓から入って来る僅かな光に反射して、転がった何かが光った。
 バルディッシュ。
 フェイトは”鳴く”のをやめた。瞬き一つしない紅い瞳で金色の台座を見詰める。
 片時も離れず、ずっと支えて来てくれた鋼の相棒。リニスがフェイトに託した遺産。無機質にして心を秘めたデバイス。
 フェイトは彼を拾った。
 バルディッシュは何も言っては来ない。あの時、新しい自分を始めようと決めた時と同じように、ただ静かにそこに居る。
 クロノがどうすれば自分を許してくれるのか。その方法、手段はまだ分からない。どれだけ自問自答しても何も出てこない。
 そんな事も分からない自分を、フェイトは憎悪した。
 殺したい。自分を殺したい。彼を無神経に傷付け、守るなどと驕っていた自分を殺したい。
 だから、フェイトが次に取った行動は、彼女にとってみれば当たり前だった。



 ☆



 結局の所、話すしかなかった。

「………」

 誰も何も言わなかった。異様な空気が医務室を包み込む。
 クロノの離艦。その理由を、なのはとユーノはその眼で見て体験している。リンディが艦内通話を切った後、ユーノが堪え切れずに事の一部始終を全員に話していた。
 なのはが話すには、あの光景は辛すぎた。彼の頬を叩いた左手がずきずきと痛んだ。

「あの子……」

 リンディの呟きが静かに響く。
 誰も何の感想も言わなかった。その中で、唯一動く人影があった。
 両腕を包帯で包んだ女性、アルフだった。彼女は全員の視線を浴びながら医務室を出て行こうとする。
 ザフィーラが止めた。

「アルフ」

 肩越しに振り返った彼女の形相は怒気に溢れていた。怒気どころではない。殺気があった。なのははそんなアルフの表情を久しぶりに見た気がした。一年前、 初めて出会った頃、良く見かけた顔だった。

「どこに行くつもりだ」
「クロノを探す」
「探してどうする」
「ぶん殴る」
「その腕でか?」
「なら蹴り飛ばす」
「追うだけ無駄だろう」
「リンディ。あいつの魔力を追っかけられない?」
「アルフ」
「だってッ!」

 言葉を遮り、向き直ったアルフの瞳は、いつの間にか真赤になっていた。怒気も殺気も失った彼女は訴えるように叫ぶ。

「だって、だって……! やっと想いが通じたのに……! あいつ……! クロノの奴……!」
「落ち着け、アルフ」

 ザフィーラが手を伸ばす。アルフは荒々しくその手を払う。

「分かるッ!? フェイトが今日のデートをどれだけ楽しみにしてたかッ!? あんただって見ただろッ!? 買い物してた時の……フェイトの……顔……!」
「……ああ。見た」
「あいつだって幸せそうにしてた……。なのに、なのになんだよ!? ちょっとカッコつけられなかったからって、さよならって……! ふざけんなッ! ふざけんな クロノォッ!」
「アルフ」
「あいつにならフェイトを任せてもいいって思ったのに……! プレシアみたいな事しやがってッ……!」
「アルフ」
「うるさいッ!」

 アルフが叫んだ。充血した瞳を見開いて。
 ザフィーラは静かに彼女を見据える。

「主を支えるのが使い魔の務めなのだろうッ!」

 普段の寡黙さを一掃するような一喝だった。
 アルフは息を呑み、言葉を飲み込み、口を閉ざす。

「今お前がすべき事はハラオウンを追う事ではない。主を支える事だ。違うか?」

 アルフは俯き、頷く。

「ならば行け。ハラオウンは後回しにしろ。いざとなれば、俺が行って殴り飛ばす」
「……うん」

 踵を返すアルフ。その時、なのはが控えめに申し出た。

「私も、行きます」

 喩え部屋に入れなくても、顔を見れなくても、フェイトの近くに居たかった。友達として、彼女を支えたかった。

「……僕も行きます」

 側に居たユーノが挙手をする。
 二人を見たアルフの表情に安堵したような笑みが浮んだ。

「……ありがとう」
「艦長」

 いつもの柔らかな口調で、エイミィがリンディを呼んだ。

「行ってあげて下さい」
「……エイミィ」
「皆には私から話します。艦長はフェイトちゃんの側に居てあげて下さい」

 そう言って、エイミィは微笑んだ。
 リンディの顔には、艦長職に就いている時空管理局提督の表情は無かった。子を心配して止まない母親の顔になっていた。

「……ありがとう、エイミィ」
「いいえ。ホント、出来の悪い弟が居ると苦労します」

 リンディは苦笑してエイミィの軽口を受け取る。持っていたクリップボードを彼女に手渡すと、なのは達を見た。

「行きましょう」

 その時だった。抑揚の無い男性の声がしたのは。

『レイジングハートのマスター』

 思念通話だった。だが、ほとんど聞き覚えが無い声になのはは戸惑う。だが、通話相手が誰なのか、すぐに分かった。

「バル、ディッシュ……?」
『アルフ』

 彼は続けて呼ぶ。アルフもなのはと同様に戸惑いを露にした。
 マスターであるフェイトにすらほとんど語りかける事の無い鋼のデバイスが、今、なのはとアルフに思念通話を送って来ている。
 混乱に近い戸惑いを覚えながら、なのはは答えた。

「どうしたの、バルディッシュ?」
『我がマスターを止めて欲しい』
「え?」
『我は闇を切り裂く刃。マスターの道を作り出す光』

 何を言いたいのか、なのはにはまったく分からない。アルフもそうだった。彼のマスターを、フェイトを止めて欲しいとは一体どういう事なのだろう。

『我はマスターを守る刃。マスターを傷付ける刃ではない――!』
「傷、つける?」
『早く来てくれ。マスターの下に。早く』

 そこで思念通話は途切れた。
 戸惑いと混乱が合わさって恐怖になった。背中からじわじわと迫って来る身の毛もよだつ恐怖。
 なのはとアルフは同時に医務室を出た。矢のようにフェイトの自室へ走る。
 フェイトが何をしているのか。なのはには想像がつかなかった。でも、これだけは言えた。
 彼女を部屋に一人きりにしてはいけない。



 ☆



 彼との思い出に縋ろう。
 初めて頬に触れてくれた時。
 初めて手を握ってくれた時。
 初めて抱き締めてくれた時。
 初めて好きだと自覚した時。
 彼の”剣”になると誓った時。
 彼が好きだと言ってくれた時。
 沢山の思い出。でも、これから先、この思い出が増える事があるのだろうか。もしかしたら、もう無いのかもしれない。
 痛い。切り裂いた左の手首よりも、胸が遥かに痛い。

「私が――悪いんだ――」

 何の感情も含まれない呟きが唇からこぼれ落ちた。心に満ち溢れている言葉が勝手に出た。
 ベッドの上には、赤く汚れた金色の台座が鎮座している。
 赤いのはそれだけではなかった。
 白のシーツが汚れていた。

「――くろの――」

 壁にもたれ、力無く左手を投げ出す。そこがシーツと金色の台座を赤く汚染した原因。
 手首に刻まれたのは切り傷ではない。抉ったような深い傷跡があった。
 皮膚は引き裂かれ、血管が磨り潰され、肉が削ぎ落とされている。
 出血は酷い。痛みは酷い。火傷のような痛みがある。でも、そんなものは本当の痛みではない。電気信号で脳が騒いでいるだけに過ぎない。
 ココロのイタミに比べれば取るに足らない痛みだった。

「――くろの――」

 ふと左手を見た。惨い形になった自分の手首。これで自分を殺す事は出来るだろうか。
 眠気が来た。狭くなり始めた視界が赤い手首を捉えている。
 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめん、なさい――。

「フェイトッ!」

 部屋の扉が蹴り破られる。通路の明かりが室内を照らす。
 現れたのはアルフだった。

「あるふ」

 その奥に居るのは、なのは。

「なのは」

 彼女の側に居るのはユーノ。

「ゆーの」

 そしてリンディが居る。

「かあさん」

 でも、一番居て欲しい人が居ない。

「くろの」

 それでも探した。フェイトは無意識に彼の姿を探す。重い瞼を何とか持ち上げて探す。
 でも、居ない。
 悲鳴が聞こえた。アルフとリンディが駆け込んで来る。何やら怒鳴っている。よく聞こえない。
 なのはは立ち尽くしている。ユーノもそうだ。どうしたんだろう。
 フェイトは荒涼とした眼で彼女達を見ていた。何故そんなに慌しくしているのか、まるで分からない。

「くろの」

 もう笑いかけてくれないヒトの名を呟く。もう意識は無くなりつつある。とても寒かった。だから温かい思い出に縋った。
 今日の記憶。
 今日の思い出。
 公園でお弁当を食べて、眠そうにしている彼に膝枕をした。夢心地のようだった。
 そうか、あれは――。

「ゆめ、だったのかな……?」

 フェイトの視界は闇に閉ざされた。



 ☆



 部屋には誰も居なかった。当たり前である。この部屋の主達はアースラに居る。当分戻っては来ないだろう。
 明かりも付けないまま、そして無言のまま、クロノは脚を引き摺るようにリビングに入った。
 誰も居ないリビング。
 一週間に最低一回はここに帰って来て家族と過ごす。多忙で思うように帰宅出来ないクロノとリンディが、アルフと二人きりになりがちなフェイトを 配慮して決めた取り決めである。義務教育を修めるまでは学業に専念したいと希望するフェイトは必然的にマンションで独りになってしまう機会が多かった。
 クロノが帰って来ると、フェイトが必ず居た。可愛らしいエプロンを付けて、忙しそうに、でも心の底から楽しそうに食事の用意をしていた。その笑顔がクロノは 好きだった。

「………」

 誰も居ないリビング。
 今朝あった温かさは無く、闇夜に満たされている。どこまでも空っぽだった。まるで今のクロノのように。
 そうだ。今朝まで、ここには暖かさがあった。少女の笑顔があった。
 真っ白のワンピースで着飾ったフェイト。
 本当に嬉しそうにしていたフェイト。
 出かけた遊園地で幸せそうにしていたフェイト。
 そんなフェイトの笑顔を、誰が壊した?
 誰でもない、自分だ。
 なのはに叩かれた頬が痛かった。全身に負っている怪我に比べれば小さな痛みだったなのに、酷く痛かった。

「………」

 無言は続く。言葉は浮ばない。でも胸には後悔しかなかった。

 大切な家族を、
 妹を、
 酷い言葉で罵り、
 拒絶した――。

 反芻される否定出来ない事実と感情。何も考えられなくなり、ただ茫然と暗闇の室内を眺める。
 テーブルの上で赤い何かが光った。
 次元通信を受信する電子ボードだった。どこからか通信を受信している。
 無視する事も出来たが、クロノは手を伸ばした。何故かは分からない。
 仮想ディスプレイが生まれる。現れたのは、白衣を羽織った細面の男性。

『お世話になっております。ゼニス社のデバイス設計・開発部門のレイン・レンです』
「……何の用ですか?」

 その笑顔に、クロノは苛立ちを隠す事が出来なかった。

『お疲れのご様子ですね。申し訳ありません』
「何も無いようでしたら切ります」
『あ。もちろん用がございましたのでご連絡をさせていただきました。どうかお切りにならずに。すぐに終わりますので』

 淀みの無い営業口調。相変わらず違和感を感じてしまう笑顔。本心を言いながら、真実は言わない声。
 男の存在すべてが、纏わり付くようにクロノの思考を麻痺させて行く。

『……資質というのは怖いですね』

 麻痺が硬直になった。
 男の笑顔がより彫を深めて行く。

『提案がございます。聞いていただけますでしょうか?』

 レイン・レンは深くは語らない。だが、先の一言で充分過ぎた。
 どうして知っている? 何故知っている? そんな言葉は出なかった。
 立ち尽くすクロノの沈黙を肯定と受け取ったのか、レイン・レンは饒舌に続けた。

『補助OS”ロッティンバウンド”に次ぐ、我が社のデバイス強化ツールのテストモニターをご依頼したいと思います』
「強化……ツール?」
『はい。まだテスト段階ですので扱いは少々難しいと思いますが、クロノ・ハラオウン様ならば必ず使いこなせると思います』

 無駄だ。クロノはそう思った。喩えどんなにデバイスを強化しても、使用者の魔導師に問題があっては抜本的な戦闘能力向上には繋がらない。補助OS”ロッティン バウンド”を導入した初戦闘で、クロノはそれを死ぬ程痛感させられた。
 拒否しようとする。そんなクロノの反応を予測していたようにレンが声を上げた。

『ちなみに、その新しいデバイス強化ツールは魔力の瞬間発揮出力を大きく向上させるものです。正確には外部から一時的に魔力を供給するというものですが』
「……ベルカ式カートリッジシステム……?」

 他にも色々ある。リーゼ姉妹達も魔力を保管出来る装備を闇の書事件の時に使っていた。

『似て非なるモノですね』

 レンが口を閉ざした。
 迷いが生まれてしまった。”ロッティンバウンド”の術式管理と出力増幅に瞬間発揮出力向上のツールが備われば、それで充分に戦闘能力の補完は効く。それを操作 し切る自信もクロノにはあった。Sランクの暴走体には通用しなかった”ロッティンバウンド”によって強化された魔法だが、それなりに制御する事は出来た。
 リーゼ姉妹の下で一からやり直すよりも、それらの外部装備で強くなる方が何倍も早いはずだ。
 それに、喩え鍛え直したとしても、フェイトやなのはに追いつけるはずがない。凡人が天才と肩を並べる事は出来ないのだ。

「………」
『如何なさいますか?』

 答えはもう決まっていた。
 それから数分後、クロノは自室で準備を終えた。S2Uの調整に必要な道具をバックパックに詰め込み、着替えるだけという準備だった。
 人の生活の匂いがしない部屋をクロノは見渡した。一週間に一回帰って来て、眠るだけの寂しい部屋だった。
 そんな室内にも、写真というものはあった。
 机の上に二枚の写真がある。一枚はフェイトが養子になった時に撮った家族写真だった。リンディ、クロノ、フェイト、アルフの四人がそれぞれの笑顔で映っている。 エイミィも入ろうと皆で言ったのだが、彼女は遠慮した。
 そしてもう一枚は、フェイトとクロノの二人しか映っていない写真だった。
 恥ずかしそうに手を握り合っている微笑ましい兄と妹の写真――。
 クロノは一瞬だけその写真を見て、すぐに部屋を出た。

 感情を御せずに大切な妹をなじった自分に、この写真を見る資格は無い。

 クロノは迷いの無い足取りで、ミッドチルダに通じるトランスポーターへ向かった。
 これから先、一体どうなるのか。
 自分がした事はもう自覚している。アースラには戻れない。リンディやなのはには顔向け出来ない。

 フェイトには、もう会えない。

 今はただ強くなりたいと願った。
 すべては無力の自分が悪いのだ。
 強くなりたい。
 力が欲しい。
 その為ならば何だってしよう。
 自分には、もう帰れる場所は無いのだから。
 待ってくれている人も、もう居ないのだから。





 to be continued.





 続きを読む

 戻る







 □ あとがき □
 読んでいただきましてありがとうございました。リストカットフェイトです。そしてバルディッシュが喋る。小話のせいで真面目な台詞を喋ってる彼に筆者の俺が 違和感を感じるorz
 では次回で。

 2006/5/13 誤字脱字修正
 2006/7/03 一部改稿




inserted by FC2 system