魔法少女リリカルなのは SS

Southern Cross

♯.11 Meteor









 敵、敵、敵。視界に入る動く影は、その九割が敵意と殺意を持ち合わせた敵だった。
 対策本部施設前は焦土となっていた。元々開けたビル群の間に急造されていた施設で、機能性を重視して周辺にはゆとりを持って建設、整備されている。それが今は 完全に瓦解してしまった。抉られたアスファルトは盛り上がり、場所によっては砲撃魔法の高温に晒された影響で融解している。数十メートル四方に無事な空間はなく、 倒れている人間の数はあまりにも多く、そして夥しい。
 街灯はほとんどが薙ぎ倒され、バチバチと放電を繰り返して健気に光ろうと努力をしていた。その傍らでは自動車が火災を起こしており、ビルに陰影を刻んでいる。 そんな光景が至る所で起こり、戦闘の喧騒と共に静まる事が無かった。
 細かな瓦礫を蹴散らして、ヴィータが荒々しい足取りで停止した。踏み締めたコンクリートの破片が魔力強化されたヴィータの脚力に耐え切れずに砕ける。
 荒い息をつきながら肩を上下させたヴィータは、油断の無い鋭い眼差しで周辺を索敵する。この戦場は動いている者の九割が敵――暴走体だ。さらに視界の利かない 深夜。明かりらしい明かりは無く、空は欝蒼とした分厚い雲に覆われていて月も星も何も見えない。ぱらついていた小雨が止んだだけでもマシと言える。
 こんな劣悪な環境だ。同士討ちも少なからず発生していた。それでも局員達が錯乱状態に陥らないのは、一重に発令所から励まし続けているエイミィの存在が大きかった。 そして何より、自分が傷付く事も厭わずに満身創痍になりながら遊撃役として戦っているヴィータとザフィーラの功績である。

「大丈夫か、ヴィータ」

 背を合わせるように合流したザフィーラが問う。軽装の騎士甲冑は所々が破れ、上半身は裸に近い状態だった。片腕の補助装甲も今は無い。

「……どうって事ねぇーよ」

 そうは答えるが、もちろん強がりだ。シャマルの治癒魔法で無理矢理塞いでいた全身の傷口が開いている。血液が足りないと脳のどこかで本能がうるさい警告を 鳴らしていた。
 だが、今は治療の為に後方で待機しているシャマルの下に下がる訳にはいかない。今の戦線はヴィータとザフィーラ、そして――。
 頭上を甲高い音を立てて何かが横切る。仰いで視線で追えば、凄まじい速度で投擲された何かが本部施設の外壁に衝突しているのが見えた。ぱらぱらと外壁の一部が 剥がれ、それらと一緒に衝突した何か――暴走デバイスに寄生されていた武装局員――が落下する。
 ヴィータは武装局員が飛んで来た方角に眼をやる。そこには外套のようなバリアジャケットを靡かせた初老の男性が佇んでいた。

「キリが無いな。今時兵糧攻めはなぞ流行らんぞ」

 現状の戦線は、ヴィータとザフィーラ、そしてこのディンゴによって危ういバランスの上で成り立っていた。
 第二投入部隊の武装局員の半数はすでに戦闘不能になっていた。その中でも動ける者の多くは施設内部にあるトランスポーターの防衛に回っている。施設前の広場 で百を超える暴走体の群れと正面切って戦っているのは、小隊長クラスの武装局員達とヴィータ達三人だけだった。もはや彼我戦力差を推し量るのも馬鹿らしい戦況だ。 優れた状況判断だとか突出した戦闘技術だとか、そう言った次元の話でも無くなってしまっている。
 守ろうとする者と侵そうとする者。この両者の単純な衝突に過ぎないのだ。
 敵は疲弊している三人に何の容赦もしない。そもそも容赦を知っている輩ならば、こんな理不尽で不公平な状況にはならないだろう。
 現れたのは三体。それぞれAAAクラスに匹敵する膨大な魔力を秘める恐るべき暴走デバイス達だ。

「もう慣れたっての」

 先陣を切ったのはヴィータだ。先手必勝とばかりに地を蹴り、瓦礫を踏み荒らして飛翔。ラケーテンフォルムを随時展開しているグラーフアイゼンを引っ提げて 一体へ猛然と突撃降下。一体は応えるように跳び、デバイスに魔力を凝縮した。無機物と有機物を強制的に融合させたような黒い塊の暴走デバイスは、鋼鉄をも一刀の 下に両断する鋭利な刃となる。
 空中で肉迫するヴィータと一体。交差際でヴィータはグラーフアイゼンではなく、回し蹴りを放った。敵顔面に直撃。嫌な音がして魔導師の口から大量の血と砕かれた 歯が吐き出される。ガクリと脱力した魔導師の身体は引力に引かれて地上に落下した。
 暴走体の本体は暴走しているデバイスだが、動いているのは寄生されている魔導師だ。魔導師の肉体に掛かる過負荷だけはどうにもならず、魔導師が戦闘不能になれば 暴走体はほとんどカカシと変わらない存在になる。
 暴走デバイスが何とか姿勢を立て直そうとするが、もちろんヴィータはそんな時間を与えてやる気は無かった。空中で回転して虚空を蹴り上げて追跡。敵が 地面に落下する寸前で本体の暴走デバイスを削岩機と化したグラーフアイゼンで破壊した。
 したたかに地面に叩き付けられた魔導師はピクリともしなかった。それでも呼吸はしている。ヴィータは横目でそれだけを確認すると大きな吐息をつく。
 ザフィーラとディンゴも同様に手早く暴走体を片付けていた。ザフィーラは激しい拳の打ち合いの果てにデバイスを砕き、ディンゴは得意の砲撃魔法の出力を絞って デバイスを撃ち抜いた。

「シャマル! そちらの状況は!?」

 ゴミ袋を投げるかのように、解放された魔導師達を施設入り口に無造作に投擲しながら、ディンゴが思念通話で訊ねた。

『比較的軽傷な方の治療は済みました。今十名程戦線に復帰します。ただ、重傷者は応急処置だけでは間に合いません』
「本局へ強制送還しろ。今三人そちらへ放り投げた」
『フェベルちゃん! 確認をお願いします!』
『は、はい! アストラさん、行きましょう!』
『いや、俺は応急処置が間に合わないって言う重傷者なんだけど……』

 慌しい上に緊張感に欠けた思念通話だった。しばらくしてシャマルが聞いて来る。

『ヴィータちゃん、ザフィーラ、大丈夫?』
「ああ、このジジイのお陰で何とかね」
「主と高町はどうされている?」
『レイン・レンと接触したと思うわ。思念通話が妨害されてて接続出来ないから』

 そんな会話の最中でも、ヴィータとザフィーラ、ディンゴの三人は迫り来る暴走体を倒し続ける。すでに何体倒したのか分からなくなっていた。身体が自分のものでは ないように重くなり、片手で軽々と操っていたグラーフアイゼンが両腕でなければ上がらなくなって来た。
 マリーから託された特注カートリッジも残り一発となった。
 ザフィーラの残されていたもう一つの補助装甲が過負荷に耐え切れなくなって砕けた。
 複数の暴走体に取り囲まれたディンゴが傷だらけになった。
 デバイス暴走事件の最後となるだろうこの大規模な暴走は、まさに地獄の様相を呈していた。シャマルの治癒魔法で戦線復帰した武装局員達も、次の瞬間には一人、 また一人と擱座し、倒れ伏して行く。Aランクの戦闘魔導師として選ばれた精鋭であるはずの彼らは、この戦場に於いてはあまりにも非力で脆い存在だった。
 数体の高位暴走体が獣の群れのように地を這い、ディンゴに襲い掛かった。彼が秘めている驚異的な魔力量に危機感を感じているらしい。
 四方八方から射撃魔法の応酬が来る。ディンゴはプロテクションで防御。弾かれた射撃魔法が黒煙となって纏わり付く。遮られる視界。機を逃さず、二体の暴走体が 頭上から迫った。

「――!」

 軽い助走を付け、ヴィータは一体目掛けて跳躍した。グラーフアイゼンの削岩機部分を敵デバイスに叩き付けて保持。もつれ合うようにして地面に落下した。硝子と コンクリートの残骸の上を転がる。騎士甲冑の無い両腕がたちまち裂傷だらけになる。

「潰せ! アイゼンッ!」
『ja!』

 甲高い金属音。デタラメに転がり続けていたヴィータと暴走体は、ヴィータが馬乗りになって停止した。深々とデバイスに突き刺さったグラーフアイゼンの削岩機部分 が高速回転をして、内部からデバイスを砕いたのだ。
 もう一体にはザフィーラが向かっていた。カバーし切れない魔導師の顔面を蹴り砕いて、魔力を凝縮した拳でデバイスを一撃する。木っ端微塵に破壊されたデバイスが 破片となってぶちまけられ、パラパラと焦土に降り注ぐ。
 ディンゴに集中砲火を浴びせていた暴走体達は、彼の強化された豪腕ですべて鎮圧されていた。だが、さすがに無傷とは行かなかったようだ。出会った頃には真新しい 状態だったそのバリアジャケットも、今では煤や血で汚れてしまっている。

「済まない、助かったぞ。紅の鉄騎。蒼き狼」
「……あんたに死なれたらおしまいだからな。だから助けた」

 ディンゴに見向きもせず、ヴィータは次の襲撃に備えた。
 はやてを殺害しようとした経緯を持つこの男と戦線を共にしなければならないのは、ヴィータには到底我慢出来るようなものではなかった。ザフィーラは何も語らないが 同じ思いを腹の底で抱えているはずだ。
 それでも何も言わず、そのフォローにまで回っているのはヴィータが口にした言葉が事実だからだ。

「しかし、指揮官不在というのは拙いな。武装隊も混乱している」

 遠くから勇猛果敢な咆哮が聞こえて来た。本部施設に侵攻しようとしている暴走体と武装隊が衝突しているのだ。

「俺が行こう。お前達はここを頼む」
「いや、待て」

 ディンゴの制止が入った時、それは起こった。
 本部施設の正面入り口、言わばエントランスホールとなっている場所から”何か”が飛び出して来たのだ。その勢いは大量の火薬で発射された砲弾に等しく、凄まじい 騒音を発している。否応無しに腹に響く重低音に、ヴィータは思わず耳を塞いで顔を顰めた。

「何だ!?」
「バイクか何かのようだが」

 何分遠い為に目視出来ない。
 施設から出たバイクらしき物体は、瓦礫だらけの地面に器用に着地した。バランスを保ち、ついでとばかりに二、三体の暴走体を後輪で殴り飛ばした。轢かれたような 形となった暴走体達はきりもみをして地面に叩き付けられる。
 その行動が周囲の暴走体達の注意を引き付けた。射撃魔法の一斉放射が始まり、鉄板すら簡単に貫いて破壊する魔法光がバイクの周りで激しく踊った。バイクはそれを 物ともせず、瓦礫を蹴り立ててアクセルターンを実行して疾駆を開始する。

「ジャックナイフターンの上にアクセルターンからの高速走行か。ふむ、なかなかやるではないか」

 ディンゴが感心していると、暴走体を薙ぎ倒しながらバイクが猛然とこちらに近付いて来た。
 ヴィータは反射的にグラーフアイゼンを構えようとした。

「……ハラオウン……だと……?」

 身構えながら、ザフィーラが茫然として呟いた。
 明かりらしい明かりは無かったが、それは見間違いではなかった。半ば暴走するような勢いでこちらに突っ込んで来る冗談めいたバイクを操作しているのは、今も尚 本局内の病院の隔離病棟に居るはずのクロノだった。しかもその背中には、なのはの手によって病室に軟禁されたはずのユーノも乗り込んでいる。手荒い運転なのか、 暗い視界の中でも彼が必死なってタンデムシートにしがみ付いているのが分かった。
 そんなユーノとは対照的に、クロノの肩を掴み、タラップに片脚を乗せて立ち乗車している長躯の女性は涼しげな顔をしていた。走行と近場で着弾した射撃魔法の 暴風が、女性の桜色の髪を鮮烈に舞わせている。激しい衝撃に晒されているというのに、女性は微動だにせず、むしろ鞭のような剣を振るって暴走体を仕留めていた。

「――シグナム――!」

 絶望的な戦闘中であるというのに、ヴィータは頬の緩みを止める事が出来なかった。熱くなる目頭を我慢する事が出来なかった。
 車体を横にするようにして、クロノ達三人を乗せたバイクがヴィータ達の前で停車した。遠くではクロノ達の乱入で体勢を崩された暴走体達へ、武装局員達が 雄叫びを上げて突進している。

「久しぶりと言った所か。しかし、酷い格好だなヴィータ」

 困った顔だが、彼女の声には喜びがあった。
 バイクを降りたシグナムがヴィータに歩み寄り、その頬に触れる。こびり付いている血をごしごしと擦って取ってやる。くすぐったさと懐かしさを感じて、ヴィータは軽く呻いて身じろぎした。
 熱くなっていた目頭から涙が溢れ出し、埃だらけの頬を伝って行く。

「紅の鉄騎とあろう者が……。泣くな、恥ずかしい」

 頬を掻いたシグナムは、その指で半ベソのヴィータの額を軽く小突いた。

「シグナム」
「ザフィーラ。無事か?」
「現状を無事と呼べるかどうか疑問だが、何とか。しかし、お前らしからぬ無茶をしたものだ。スクライア、そしてハラオウンも含めてな」

 エンジン音と響かせているバイクに跨ったままのクロノに全員の視線が集中する。
 そんな中で足音がした。周囲には耳が痛くなるような騒音が満ちている。なのにその足音はやけに大きく聞こえた。
 足音の主は盾の守護獣だった。打撲痕や擦過傷だらけの褐色の身体は、薄暗い視界の中では黒い塊にしか見えないクロノのバイクの前で止まった。
 気持ちの良いぐらいの音を響かせて、クロノの首が横に傾く。折れたのではないかと錯覚する程の勢いだった。

「アルフの分だ。とっておけ」

 ザフィーラはいつもと変わらない抑揚に乏しい声で告げると拳を収める。堅牢な暴走デバイスを破壊し続けて来た拳は血塗れだった。
 クロノはゆっくりと顔を上げた。唇を切ったのか、それともザフィーラの拳のものなのか、口許に付いた血を親指で拭う。手加減も勧告も無く殴られたというのに、 彼は柔和な笑みを浮かべていた。

「ありがとう、ザフィーラ」
「礼を言うのはまだ早い。正直、俺はこのままお前を殴り倒してやりたいが、今はその時ではない。お互いにやるべき事を今は済ますべきだ」
「……ああ、その通りだ」

 クロノは笑顔を消すと、その表情を引き締める。緊張感に満たされた顔は、ここではない別のどこかを見詰める為に横を向いた。
 二人の様子を見守っていたシグナムは安心したように吐息をつき、ヴィータに問う。

「ヴィータ。主はやてはどちらに?」
「あの白衣変態野郎が近くに居たらしくて、それを追いかけてなのはと一緒に……」
「なのはも!?」

 ユーノが悲鳴を上げる。

「レン……!」

 クロノが忌々しげに呟く。

「クロノ。あなたはテスタロッサを追って下さい。主はやてと高町と向かっている場所が同じなら、まだ間に合うはずです」
「ああ、そうさせてもらう!」
「僕も一緒に行く!」
「好きにしろッ!」

 クロノのバイクのテールランプが点灯する。輝く赤と黄色の警告色が場違いに目立った。巨大な車体からは想像も出来ない素早さで回頭を行い、針路を変更する。
 それを引鉄にして、気配を隠して接近していた暴走体が一斉に襲い掛かって来た。数は三体。内二体は硬質化したデバイスを得物にして飛びかかり、 一体は離れた場所で膝を付き、照準を定める狙撃手のように射撃姿勢に入っている。
 シグナムはヴィータの手を引いて後退しようとして、クロノはスロットルを絞ってバイクを発進させようとした。暴走体との距離はかなり近く、間に合うかどうかの 瀬戸際だった。
 それを間に合わさせたのは、デバイス特有の淡々とした電子音声だった。

『Zero Shift.』

 ギリッ、という硝子を擦り合わせたような鈍い音がする。それは圧縮された空間が元に戻る異音。魔法の力によって強制的に変更された世界の理、法則が本来の正しい 姿に戻る音だ。
 極短距離転移魔法で高速移動を実現したディンゴが、飛翔していた二体へ体当たりを慣行していた。砲戦デバイスを盾として、巨大な砲弾となって暴走体を蹴散らす。 さらに補助魔法を詠唱。

『Gauntlet.』

 強化された腕力で一体の足首を掴み、頭上で高速回転。充分な加速力が付いた所で射撃魔法を発射しようとしている三体目へ投擲した。三体目はまともにバランスを 崩して空目掛けて構築していた射撃魔法を制御解放してしまう。派手な銃声が鳴り、無数の魔法光が闇夜を切り裂いた。

「早く行け! ハラオウン執務官ッ!」

 初老の怒声がクロノの背中を突き動かす。
 ステップを弾いてギアを叩き上げ、前輪が浮く程の急加速の下で発進。タイヤが地面を擦る嫌な音とゴムが焦げる臭いを残し、クロノとユーノを乗せた大型自動二輪は焦土のビル群の中に消えて行った。
 ヴィータはシグナムに手を引かれたまま、道路の奥に消えて行くテールランプの明かりを見送る。

「……あいつら、大丈夫かな?」
「ああ、大丈夫だ。彼らは強い。特にクロノは本来の強さを取り戻した。レンの一人や二人、今の彼なら容易に倒せるはずだろう」
「あの変態野郎が二人も居たら最悪だぜ。それにしても随分信用してるじゃねぇーか」

 口を尖らせるヴィータに、シグナムは苦笑する。

「何だ、嫉妬か? お前も少し見ない内にしおらしくなったものだな」

 ヴィータの顔が火が付いたように赤くなる。暗闇の中でもすぐに分かってしまう程のそれは見事なものだった。

『シグナム!』
「シャマルか。お前と話すのも久しぶりだな」
『何悠長な事を! あなたはまだ戦える身体じゃないの! 無茶しないで!』

 思念通話の向こうで、シャマルは容赦無く怒鳴り散らしていた。心配の気持ちよりも怒りの方が大きいようだった。 シグナムの治療に当たっていたのは彼女だ。シグナムの身体状態は誰よりも理解しているのだろう。

「この状況、無茶をするなという方が無茶だぞ?」
「無茶無茶!」
「そういう事だ、シャマル」

 暗闇の中から一体、また一体と暴走体が歩み寄って来る。覚束ない足取り。意思の無い瞳。蒼白い肌。火災と破壊された照明の明かりで照らされている暴走体の姿は 亡霊も同然だ。殺気も敵意も、すべてが曖昧模糊で霧のようだ。ただ、呆れんばかりの魔力による破壊魔法の気配だけは見抜く事が出来た。

『ああ、もう!』

 珍しく悪態をついたシャマルは、思念通話を一方的に切断。シグナム達が訝しむより先に彼女達のすぐ側に翠の魔法陣が生まれた。
 その中から浮き上がるようにして現れたのは、他の誰でもない。シャマルだった。
 眼の前のモノを蹂躙するだけの存在である暴走体の前にして、夜天の魔導書の守護騎士達が揃う。ほぼ全員が満身創痍だ。無事な箇所などどこにもない。前線に 出る事の無かったシャマルでさえ、度重なる治癒魔法の行使で魔力が半分を切っていた。

「何故出て来た、シャマル」
「あなた達の無茶を無謀にしない為よ」
「何か久しぶりだな、四人で前線って」
「懐かしみたくない思い出が多いがな」

 暴走体達が扇状に取り囲み、ゆっくりと侵攻して来る。こちらの出方を伺っているのか、仕掛けては来ない。腹の内を探るような気配が漂う。 ただ途方も無い魔力だけがヒシヒシと感じられた。一斉に解放されればひとたまりも無い。堅牢な高層ビルの一棟や二棟、簡単に崩壊してしまうだろう。
 突風が吹く。軽い地響きすら起こして、ディンゴが焦土の大地に着地した。小脇に抱えていた砲戦デバイスを槍の如く振り回し、腰だめに構えて周囲を威嚇する。

「どうやらお互いに挨拶をしている暇は無さそうだな、烈火の将」
「ディンゴ・レオンか。主はやてが色々と世話になったな」
「嫌味と皮肉は同時に言うものではない。分けた方が効果的だぞ」
「さすが年の功だな。覚えておくぞ」
「貴様の方が年寄りだろう」

 取り囲んでいる暴走体の数が肥大化して行く。武装局員達に比べれば、今ここに居る五人の魔力は段違いだ。警戒されるのも無理はなく、集中砲火を浴びるのはもはや 必然と言っても良い。
 シグナムは思念通話を戦闘区画全域の魔導師に接続する。

「これより私、特別捜査官補佐シグナムが臨時の指揮を執る! 各員死力を尽くし、己が守るべきモノの為に戦えッ!」

 思念通話は沈黙する。

「Bクラスの武装局員は総員本部施設まで後退! 本部施設、及びトランスポーターの防衛に回れ! Aクラス以上の者は我々と共に前衛を! 傷の深い者は無理をせずに 一時後退し、それぞれで治療を! 復帰出来る者は各自の判断で戦線に加われ!」

 シグナムは返事を待たずに矢継ぎ早に指示を繰り出す。

「遊撃は我々守護騎士ヴォルケンリッターが務める! もうこれ以上暴走体の好きにはさせん! 誰も死なせはせん! 全員生きて本局に戻り、この狂った 事件に終止符を打つのだ! いいな!?」

 答えは思念通話と直接の聴覚、同時に聞こえた。半壊している本部施設が震えるような激しい歓声が響き、ビリビリと闇夜の空気が振動し、続いて嵐のような砲 撃音が立て続けに起こった。あちこちで電光掲示板のような眩い魔法光が舞い散り、裂帛の咆哮が戦闘の激化を伝えて来た。

「烈火の将という名は伊達ではなかったな」

 素直に感心するディンゴに、シグナムは鼻を鳴らす。

「リインフォースと我々内でのみ通っていた名も、随分と有名になったものだ」
「で、どっから突っ込む?」

 ヴィータが言った。彼女達を包囲していた暴走体達はすでに腰を屈め、いつでも飛び掛かれる体勢を整えていた。狙っているデバイスの数は多すぎて数える気にも なれない。

「他人に気を配れるのは我々だけだ。ディンゴ、不本意極まりないがあなたに背中を任せる」
「心得た」
「シャマル、全員に身体強化魔法だ」
「任せて」
「ザフィーラ、一定間隔で鋼の軛を。武装隊の防御はお前に一任する」
「承知」
「ヴィータ」
「何でも来いよ、リーダー」

 シグナムは暴走体の群れを見渡しながら、ヴィータの頭を乱暴に撫でた。

「暴れろ」
「――分かりやすいッ!」

 夜明けが近いミッドチルダの中心部に於いて、空前絶後の集団魔法戦闘の幕が切って落とされた。



 ☆



 向けられたのは黒い二つの銃口と殺気だった。
 テレビや映画の中でしか見た事の無い銃火器が、耳をつんざく銃声を発しながら怒涛の勢いで銃弾を吐き出す。フルオート射撃で発砲された弾頭が嵐のような弾幕 を生み出し、セミオートで連射されている巨大な単発弾が床を問答無用で砕き、なのはとはやてを激しく追い立てた。眩いマズルフラッシュが深夜の屋上を断続的に 明るくする。
 なのはは眼を細めながら走った。これまでも多くの危険な戦闘を掻い潜って来たが、銃火器を発砲されたのは初めての経験だった。射撃、砲撃魔法とは違い、引鉄に 力を込めるだけで簡単に人を殺傷出来る、人を傷付ける為だけに作られた無骨な鉄の塊。なのははそこに嫌悪感を抱かずにはいられない。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」

 レンは閃光のようなマズルフラッシュを前にして、正確無比な射撃を繰り返す。追い立て、追い詰め、確実且つ狡猾に狙って来る。狂った嬌声とはあまりにも対照的 な冷静な攻撃。防御と回避に集中しなければ瞬く間に蜂の巣にされかねない。

「ドンパチ映画も形無しやでこれッ!」
『マスター、夜天の王、可能な限り回避を行って下さい。レイン・レンが使用している弾丸には対魔法防壁処理が施されています。安易な防御では貫通されてしまう 可能性があります』

 なのはの集束という魔力資質、そして底無しとも言える魔力容量。この二つを考慮して、レイジングハートはこれまで回避という選択肢を取ろうとはしなかった。 そんな彼女が捨てたはずの選択を提示して来る。なのはは小さな戸惑いを覚えながら身を捩る。空いた空間を横一文字の掃射が抉った。

「なら安易じゃなければ……!?」
『止める事は可能ですが、かなりの魔力を消耗します』

 芳しくない返答。その直後、衝撃と閃光が襲って来た。散弾銃の単発弾頭が足元に着弾。細かな破片がばら撒かれ、頭がクラクラして視界が揺らいだ。
 殺気が来る。理屈ではない。こちらを狙う銃口を感じる。
 咄嗟に横に跳び、マシンガンの射線から逃れた。映画やドラマの中で聞くよりも迫力の無い乾いた銃声が鳴り響く。
 なのはもはやても攻撃に転じられる余裕がほとんど無かった。僅かな隙をつき、数回射撃魔法で仕掛けてはいたが、堅牢な敵の防御魔法の前に魔力の無駄使いで終わっている。
 豪雨のような弾幕から逃れるので二人は限界だ。それを掻い潜り、有効なダメージを与える事がどうしても出来ない。敵の防御魔法を撃ち抜くにはそれ相応の高出力 魔法の行使は必要だが、そんなゆとりはどこにも無かった。

『リロードの瞬間を狙って下さい。付け入る隙は現状そこだけです』
「はやてちゃん、出来る!?」
「もちろんや! 私が前に出るから、なのはちゃん宜しくね!」

 苛烈な弾幕の中、はやてがレンへ肉迫する。回避運動の為に保っていた距離を徐々に縮め始める。被弾の回数が増え、自動魔法防壁が発動。はやての手前で火花が 花火のように散った。

『目標の弾切れをカウントでお知らせします。夜天の王、近接魔法で敵を止めて下さい。マスター、その隙に砲撃を』
「了解や!」
「お願いねレイジングハート!」
『All right my master.』

 狙い澄ました射撃が来る。回避の難しい散弾だ。なのはは早々に回避を諦めて最大出力で防御魔法を行使。湖面に広がる波紋のように桜色の魔法陣が構築され、 人間を簡単に肉塊に変える弾丸を弾いた。

「くぅ……!」

 防御の上からでも硬い何かで殴られているような衝撃が来た。そして重い。魔力が削られたのを実感する。

『カウントスタート。3』

 衝撃から何とか立ち直り、なのはは飛行魔法を行使。同時に跳躍して一気に空を駆け上がる。

『2』

 同じように飛行魔法を行使したはやては、氷の上を滑るようにして弾幕を捌き、確実にレンとの距離を無くして行く。

『1』
「クソ餓鬼共がぁッ! さっきの威勢はどうしたコラァッ!」

 重なる二つの銃声の中でも、男の怒号は気持ちが良いくらいに通っていた。
 なのははアクセルフィンで鈍重な回避運動を取りながら、砲撃魔法の術式を構築、展開した。刹那に被弾。歯を食いしばって耐える。
 はやてが浮いていた脚を床に付ける。一瞬だけ身を屈め、右手を握り拳にした。

『0』

 フルオートで九ミリ弾頭を掃射していたサブマシンガンが乾いた金属音を響かせて沈黙した。
 まずははやてが動いた。一足で敵の懐まで踏み込み、魔力を凝縮させた拳を突き出す。同時に魔法発動のトリガーヴォイスを入力。

「シュヴァルツェ・ヴィルクングッ!」

 放たれた近接魔法は、かつてなのはの防御魔法すら力任せに打ち破った強力無比の拳。

「舌噛みそうな名前だなぁおいッ!」

 そしてそれを受け止めたのは、防御魔法陣を展開した靴の裏だった。
 上半身を投げ出すように繰り出したはやての拳を、レンは踏み潰すようにして脚で受け止めたのだ。成長期すら迎えていない少女の小柄な身体の前に、白衣を 着た狂人の長躯はまさに壁そのものだった。
 衝突している拳と靴が紫電を撒き散らして輝く。大気が震えて破片や細かな瓦礫が吹き飛んだ。

「つぅ――!」
「温ぅいんだぁよォォォッー!!!」

 残弾がまだ残されているショットガンの銃口がはやての額に押し付けられる。防御は出来ても衝撃は中和出来ない。間違いなく首の骨が粉砕される。
 なのはは飛び出して救出に向かいたいと叫ぶ身体を捻じ伏せ、カートリッジをロード。硝煙の香りを微かに感じながら、なのはは展開済みの術式を制御解放した。

「はやてちゃん離れて!」

 複雑な紋様が描かれた帯状魔法陣が翳されたレイジングハートの先端に現れ、それに庇護されていた光が輝度を高める。
 電子音声でトリガーヴォイスが入力される。

『Divine Buster Extension.』

 魔力の圧縮が臨界点を突破する。閃光が煌き、桜色の光が放出された。
 銃声の残響を蹴散らす砲撃音を引き連れて、砲撃魔法がはやてともつれ合うように衝突しているレンに牙を向く。
 非殺傷設定である上に端麗な砲撃だが、その威圧感は圧倒的だ。無垢な者ならば感嘆とするだろう。だがしかし、魔導に触れた者ならば、そこに封入されている 冗談めいた魔力と攻撃力に間違いなく度肝を抜く。
 はやてはギリギリまでレンの足止めを行い、寸での所で近接魔法を強引にキャンセルして離脱する。唐突に拮抗者を失ったレンは姿勢を崩した。ディバインバスターの 閃光はすぐそこまで容赦無く迫っている。
 直撃。後退したはやてと砲撃を撃ち終えたなのはが同時にそう思った時。

「舐めるなぁッ!」

 男は床を砕かんばかりに右脚を突き立て、崩れていた姿勢を立て直した。左脚に魔力を集中、解放し、それを反動として跳躍。直撃寸前だったディバインバスターの 先端をあろう事か蹴り飛ばした。
 一直線に伸びていた閃光が法則を無視するようにひしゃげた。有り得ない方法で強制的に針路変更をさせられた砲撃は勢いを減速させ、金網のフェンスを食い破り、 そのまま何処へと消えて行く。
 防がれたり、回避された事は今まで何度もあった。だが、こんな方法で無理矢理弾かれたのは始めてだった。
 眼を見張り、幾つか選定していた次なる行動に移れないなのは。はやてもほぼ同じようなものだった。レイジングハートすら沈黙を余儀なくされている。
 レンは水流の如き流れのある動作で着地をすると、弾切れを起こしていたサブマシンガンの弾倉を破棄して駆け出した。白衣の裾を払い、ベルトにねじ込んでいた 予備マガジンを二本の指で引き抜き、乱暴に再装填する。

「ガラ空きガラ空きガラ空きィィィィィィーッ!!!」

 レンの疾走は驚異的な速度だ。幾ら魔力による身体機能強化を行っているにしても、人類とは思えない瞬発力。
 そんな敵に、はやては意識を向けるのが遅すぎた。息を吹き返したサブマシンガンのフルオート射撃に晒される。シュベルトクロイツに内蔵されていた管制機能が 自動的に魔法防壁を展開して防御を行うが、対魔導師戦闘用の処理が施された九ミリ弾頭は問答無用ではやての魔力をごっそりと削った。さらに着弾の衝撃は十歳の 少女にはあまりにも酷だった。

「あぅ――!」
「はやてちゃん!?」

 しなやかに飛翔したレンが、その加速と余勢を乗せてはやての防壁を蹴り砕いた。耐え切れずに吹き飛ばされ、少女の身体が床を二転三転する。止まる様子も 起き上がる気配も無い。
 レンがショットガンを無造作に向け、発砲する。発射されたのは、至近距離ならば大口径ライフルにも匹敵する破壊力を保有する対猛獣用の弾頭だ。はやての 身体を三回以上は破壊出来る過剰殺傷物である。
 なのはは瞬間加速に優れるアクセルフィンを発動。白い靴が四枚の翼を羽ばたかせ、少女に音速を超える速度を与える。
 はやてがフェンスに背中をぶつけ、ようやく止まった。その前方に立ち塞がったなのはは、最大出力で防御魔法を構築。ショットガンの弾頭を防御する。
 湿った土を積載した麻袋で殴られるような鈍い痛みが全身を貫く。痺れる腕。削ぎ落とされる魔力。それでも防御魔法陣は弾頭を受け止めた。ひしゃげた金属片が 足元に転がる。

「はやてちゃん、大丈夫!?」
「な、何とか……! ありがと、なのはちゃん!」

 金網に身体を預けるようにして、はやてが立ち上がる。
 なのはは親友の無事を確認すると、レンに視線を戻した。カートリッジをロードして次の猛撃に備える。

「涙ぐましい庇い合いィィィッ! ス・テ・キ・ン・グゥッ!!!」

 レンは悠悠自適にショットガンに専用弾頭を詰め込んでいる。フォアエンドを口で前後にスライドさせ、装薬を装填した。
 なのはは首筋を流れて行く汗を感じながら、眼前の男の打倒手段を模索する。彼の戦闘能力は直接見た訳ではないが、あのヴィータがほぼ何も出来ずに敗北を喫している のだ。苦戦を強いられるのはもちろん想定内だが、それでもはやてと共闘する以上は何とかなると楽観的に考えていた。

『マスター。ひとまず回避を。魔力と同様に敵の装備は有限です。弾切れを狙えば砲撃のチャンスはあります』
「……その前に私達の魔力が尽きちゃう」

 はやてを庇って防御したショットガンの衝撃は、手の痺れとなって生々しく残っている。魔力の減衰具合も予想以上だ。

「なのはちゃん、私がもっかい前に出る。何とかあいつを止めるから、その時にまたお願いね」

 再び握り拳を作りながら、はやて。もちろん危険過ぎる提案だ。未だ操作が完璧ではないにしろ、シュヴァルツェ・ヴィルクングを脚の裏で防御して見せるような非常識 な敵だ。元より接近戦闘に於ける技量も経験も雲泥の差がある。こちらが勝っているのは単純な魔力のみだ。
 接近しての戦闘では勝ち目がどこにもない。加えて敵の回避、防御性能は突出している。フェイトやシグナムクラスの近接戦闘の使い手が居てくれれば、なのはも はやても得意とする後方支援、中距離砲撃の距離を保つ事が出来ただろうが、生憎彼女達はここには居ない。
 相性は本当に最悪中の最悪だった。敵は何一つ攻撃魔法を行使せず、防御と強化の魔法のみで、後は己が肉体と銃火器のみを武装としているというのに。
 どうする。考えている時間が無い。敵はすでにリロードを終えている。次の瞬間にでもこちらを殺しにまっしぐらに襲って来る。
 削りに削られ、半ば尽きた思案の時の中で、なのはは言った。

「――はやてちゃん、アレ、行こう」
「アレ?」

 キョトンとしたはやては、すぐになのはの言葉の意図を掴んで眼を見張った。

「で、でもアレはまだ完成してへん! ぶっつけ本番であいつ相手にやるのは――!」
『いえ、回避も防御も至難のアレならば、レイン・レンに対して有効な打撃となるはずです』

 冷静なレイジングハートの意見に、はやては反論出来ずに口を閉じる。

「作戦タイムは終了か、小便臭い餓鬼ども」

 気だるげな動作でレンが一歩一歩近付いて来る。その背後には、ほの暗い憎悪が闇夜に紛れて沸々と溢れていた。なのはとはやてに向けられているのは、納められる 事の無い塊のような殺意と憎悪、苛立ち、そして二つの銃口だ。
 鍛えられた屈強な戦闘魔導師ですら、悲鳴を上げて後ずさりをしても恥ではない空気。そんな中、今年で十歳になったばかりの少女二人は敵を迎え撃つように脚を 前へ踏み出していた。

「レイジングハート、エクセリオンモ−ドッ!」
『Drive Ignition.Excellion mode standby ready set up.』

 空薬莢を排出して、レイジングハートが杖から黄金の槍へと変形する。

「シュベルトクロイツ、壊れてしもたら、その時はごめんなッ!」

 操桿を掴み、杖の重量を振り回すようにしてボルトアクションを行う。
 レンは興味深げに眼を細め、脚を止めた。

「何か面白い芸でも見せてくれるのかなぁ?」

 床に走る桜と白銀の魔法光。その末に描かれたのは、呼吸をするかのように淡く輝くミッドとベルカの魔法陣だ。
 これからなのは達が行使する魔法の規模はかなりのものだ。かつて試行錯誤の為の訓練中に、訓練室の強固な防御結界を完膚無きまでに破壊した経緯がある。 その時はクロノに多大な迷惑を掛けたものだ。何せ場所がアースラの訓練室ではなく、本局内にある本格的な施設だったのだから。
 槍となった相棒を握り締める。

「やるよ、はやてちゃん、レイジングハートッ!」
「ええで、なのはちゃん!」
『Yes my master.』

 男は血走った眼を獣の如く剥き出しにして、両腕を広げた。

「来いやぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 魔法陣の回転速度が爆発的な加速力を持って上昇する。描き込まれている幾何学模様的な術式書式が目視出来ない。溢れる魔法光はヴェールのようになのはとはやてを 包み込んだ。

「N&H全方位砲撃コンビネーションッ!」

 ソフトウェア的にもハードウェア的にもベルカ式魔法に専用化されたシュベルトクロイツが、はやての最大魔力放出に軋みを上げた。構成材が震えて過負荷に 耐え忍ぶように紫電を吐き出し、装甲剥離が始まる。
 はやて専用に作られた特注のストレージデバイスが自壊してしまう程の魔力放出で現実空間に顕現・維持された魔法現象は濃霧だった。どこからか現れた雲のような 濃い霧が深夜の屋上を滑り、そして支配して行く。それなりに見通しの良かった視界が瞬く間に黒灰色に包まれた。数歩先すら視認出来ない。
 微かにレンの動揺が伝わって来た。銃撃が来る。霧の中でマズルフラッシュが踊り、濃霧に渦が穿たれる。だが、銃弾は二人の脇を擦り抜け、 見当違いの空間を抉るだけだった。
 はやての魔力を総動員して生成された魔力によるこの霧には三つの付随効果が秘められている。目標の視覚、感覚に干渉してその機能を麻痺させるのも一つだ。 二つ目は僚軍の魔法効果を底上げする補助魔法的な機能。そしてもう一つは、砲撃魔法を反射する魔力粒子を大量に含んでいるという事だ。

「空間攻撃――ニブルヘイムブラストッ!」
『Blast shot!』

 限界まで集束された砲撃が放たれる。先程までの派手な大規模砲撃ではない。圧倒的な弾速を誇るレーザー砲のような研ぎ澄まされた収束砲だ。それを魔力回路を 満たしている魔力が尽きるまで、まさに掃射の如く連射する。カートリッジが連続でロードされ、数十発もの桜色のレーザーが濃霧を切り裂き、深い渦を残して 敵へ駆けた。
 レンの悲鳴。煌びやかな魔法光が濃霧の向こうで跳ね回った。回避と防御に徹しているのだ。

「レイジングハート! 次弾弾道計算!」
「シュベルトクロイツ! もうちょい頑張ってなッ!」

 はやては眼を伏せると、中破しつつある相棒を掲げた。内蔵されている管制システムが散布されている魔力粒子の総数と位置を把握して演算。はやてはそれに従って レンを包囲するように魔力粒子を操作、移動させる。
 レンを取り囲んだ砲撃魔法を反射する魔力粒子は、回避、或いは弾かれたなのはのレーザー砲撃を一斉に反射した。まさに硝子に反射する光となったレーザー砲撃は、 まったく予測の出来るあらゆる方向からレンを襲撃する。

「ぬあああぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 なのはは空になったマガジンを放り捨てると、マリーから渡された装填数十二発のダブルマガジンを叩き込み、さらに弾速、貫通性能に長けた砲撃魔法を行使する。
 薄暗い視界の中を魔法光が飛び交う。まるで妖精が戯れているかのような錯覚を覚えるその光景は、光学を応用したイルミネーションの如き鮮烈さがあった。

「粒子位置固定――弾道予測、完了! なのはちゃん!」

 はやての叫びに、なのははレイジングハートにカートリッジを二発連続ロードを命じる。複雑な術式を半ば感覚で構築し、両脚で床を踏み締めた。足元で霧が舞う。

「ACS、アクセルチャージャー起動! ストライクフレーム!」
『All system open.standby ready.』

 四枚の巨大な翼が広がり、暴力的な揚力が発生した。生成された先端の刃をはやての計算結果に基づき、敵の方角へ向ける。
 切っ先の遥か先では、レンが聞くに堪えない悪態をつきながら数十発ものレーザー砲撃を凌いでいた。反射魔力粒子ははやての操作で巧みに誘導させ、レーザー砲撃を 反射し、レンに退避させる事を許さない。

「エクセリオンバスター・ACS! ドライブッ!」

 そこには付け入る隙がいくらでもある。
 纏わり付くような濃い霧を吹き飛ばしてたなのはは、白い尾を曳きながら、レイジングハートと共にレンへ突撃した。





 to be continued.





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 □ あとがき □
 読んでいただきましてありがとうございました。
 なのはとはやての隠し玉として、合体技を出しました。技的には非常に地味で強引な合体技。元ネタは田村ゆかり繋がりで、勇者王ガオガイガーの天竜神の ”光と闇の舞”。レンと相対する時に何かやりたいなと思っていて、なのはがキャストオフするとかありました(笑)。チェンジデーモン! ただ高機動は ソニックフォームがあるので却下。ゴテゴテに何か付けるぐらいなら勝手な合体技の方が面白かったのでこんな感じに。地味極まりないのですが、これはこれで 気に入ってます。まぁ名前に捻りが無さ過ぎて微妙なのですが(汗)。はやてが北欧系だったのでニブルヘイムブラストとなりました。いや、フェイトとの合体 技がカラミティブラストだったので、じゃあレイダーブラスト? フォビトゥブラスト? 等とふざけた名前を想像してみたりもしたのですが。
 レイジングハートのカウント部分を書いていて、1の次にライダーキック! と付けたかった俺はそろそろ駄目なのか。
 では次回も。

 2006/11/13





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