魔法少女リリカルなのは SS

Southern Cross

♯.11 Meteor









 もう見れないかもしれないと思った光景が、今、眼の前にあった。
 何もかもを忘れるように泣き喚くフェイトを、クロノが抱き締めていた。
 支えて、支えられて、二人はそんな風に互いの背中に手を回していた。

「……良かった……」

 なのはは心からそう思った。自分の事のように、いや、それ以上に嬉しかった。頬を伝って落ちて行く涙を拭う。でも次から次へと溢れて来て収まらない。
 傍らでは、ユーノがはやてに治癒魔法を施している。なのははすでに治療済みだったが、まだ腕の痺れが完全には取れていなかった。

「はやて、まだ痛む?」
「ううん、大丈夫。ちょい手が痺れとるけどもう平気や」

 だが、言葉とは裏腹にはやての表情は険しい。なのはを庇った時の衝撃は彼女の身体を好き勝手に痛め付けていたようだ。
 それでも、はやては微笑もうとする頬を止める事が出来ないようだった。

「フェイトちゃん達見てたら、何や身体が軽くなってく感じがする」
「……うん」

 解れかけたツーテールを揺らして、なのはは頷く。
 沢山のすれ違いや悲しい出来事とぶつかりながら、それでもクロノとフェイトはこうやってまた出会う事が出来て、想いを伝え合えた。
 フェイトの泣き声は止まない。背中を激しく上下させて、額を擦り付けるようにクロノの胸に埋めた頭を小さく動かしていた。ここ一週間あまりの溝を埋めるが如く。
 心から祝福してあげたかった。今すぐ側に駆け寄って”良かったね”と声を掛けてあげたい。でも、なのはにはそうする前にやらなければならない事があった。

「ユーノ君」
「どこか傷が痛むのッ?」

 即座にユーノが訊いて来る。なのははその言葉をそっくりそのままお返ししたかった。

「ユーノ君、どうして病室が出たの?」
「え! い、いや、それはその」
「出ちゃ駄目って言ったのに」

 なのはとはやての傷の治癒に奔走しているユーノだが、彼とて重傷者だ。血が滲んでいる両腕の包帯が何よりの証拠である。
 ユーノは答えに苦慮する様子で視線を宙に彷徨わせるが、はやてへの治癒魔法を忘れていない所がその人柄の良さを伺わせる。

「き、気になっちゃって……。廊下も騒がしかったし……」
「………」
「その……ごめん、なのは」

 観念したのか、ユーノは肩を落として謝罪した。彼も好きでなのはの言葉を無視し、病室から出た訳ではないだろう。ただ、なのはが心配だったのだ。
 自分の為に無茶をする少年が嬉しくて、なのははくすりと笑った。

「いいよ、もう。……来てくれてありがとう、ユーノ君」
「なのは……。うん」
「……私、もしかして一人?」

 二人に挟まれるような形になってしまったはやては、居心地の悪さを感じて苦笑するだけだった。
 つい数分前まで繰り広げられていた命のやりとりを忘却させる穏やかな時間。それは次の瞬間に無粋な呟きで破壊された。

「痛いねぇ」

 なのは達の視線が一斉に四つ角の一つに集中する。

「痛いよぉ」

 ぞっとするような声が、同じ言葉を告げる。治癒魔法を解除したユーノがなのは達の前に立ち塞がり、素早く印を結んで防御魔法の構築を始めた。

「痛てぇ」

 この屋上で悪鬼の如き声を発する事が出来る人間は一人しか居ない。
 敵は生存していた。二百五十キロオーバーの大型二輪駆動車に顔面を轢かれ、押し潰された挙句に数十メートルも引き摺られた。さらにそのまま押し潰されている。 並みの人間ならば頭蓋骨骨折の上に全身打撲で即死の怪我である。
 だが、彼は確かに生きていた。
 単車が動く。衝突の衝撃で壊れたらしく、部品がバラバラと脱落した。
 ゆらりと狂人が立ち上がる。車体をあろう事か片手で払い除けた。

「ひでぇよなぁ、マジで。反射防壁無かったら即死だったよ」

 狂人――レイン・レンが、顎を撫でながら首の関節を鳴らした。調子を確かめているのか、周囲に小気味の良い音が響く。
 どういう人体構造をしているのか、男は顔面にタイヤの痕跡を残しているだけで傷らしい傷はどこにも無かった。鼻血一滴も流れてはいない。
 にも関わらず、彼はこう繰り返す。

「痛い痛い痛い」

 関節鳴らしは首から手足に移る。それも数回で終わる。
 レンが歩き始めた。脚の先には抱き合うクロノとフェイトの姿がある。
 飛び出そうとするなのは。今あの二人の邪魔をさせる訳にはいかない。フェイトはもちろん、クロノも戦う力はほとんど残していないはずだ。 白いままの髪が雄弁にそれを語っている。

「なのは、待って」

 そんな彼女の手首を、ユーノが掴んで止めた。

「ユーノ君!」
「大丈夫」
「でも!」
「クロノを信じて。今のあいつならレンだってすぐに倒せる」

 いつも通りの柔らかな声音が断言をする。何よりも力強く、彼は続けた。

「クロノは負けないよ、もう。誰にも負けない。自分にもね」

 ユーノの表情には確かな自信があった。何よりも確信が秘められていた。
 彼はクロノを信じている。彼ならばレイン・レンを必ず打倒すると、そう思っている。
 なのはは息を呑み、レンの動向を見守った。
 映像再生機器のように”痛い痛い”と繰り返しながら、レンはクロノの背中へと近付いて行った。



 ☆



 精練された鋭敏な五感が背後の気配を感知した。いや、喩え鈍感な神経の持ち主でも、このどす黒い気配だけは分かるだろう。
 クロノはフェイトの髪をひと撫ですると、彼女の耳元で囁いた。

「ごめん、フェイト。少し離れてくれないか?」
「……やだ……」

 バリアジャケットに絡み付いている彼女の指から力が抜ける兆しは無い。額も胸に押し付けられたままだ。
 背後から迫るおぞましい気配を忘れて、クロノは一時の間、苦笑してしまった。現状を理解出来ないフェイトではないだろう。片時も離れたくはないようだ。

「それは僕も同じなんだけどね」
「………」
「ちょっと我慢してくれ、フェイト」

 震え続ける背中を支えるようにして、クロノはフェイトを抱き上げた。戸惑うような呟きが聞こえるが、そろそろ背後の気配が間近にまで来ている。苦情はひとまず 後回しにした。
 フェイトの体温を感じつつ、クロノは背後へと向き直る。

「久しぶりだねぇ、クロノ君」
「ああ、そうだな、レン」

 ほぼ無傷の狂人が立っていた。
 フェイトが脅えるようにクロノにしがみ付く。その様子に、レンの瞳に卑下な感情が宿った。
 視姦するような視線がフェイトとクロノに絡み付く。

「おーおー。さっきのトチ狂いぶりからは想像も出来ねぇヒロインっぷりだなぁ、人造人間」
「それ以上喋るな、レン」
「うわ、いきなりだなぁクロノ君。ちょっと前までは協力し合った仲なのに」
「協力? 君の場合、僕を利用していただけだろう」
「ほぅ、言うようになったもんだねぇ。あれだけ殺すとか何だの言ってたのはどこの誰だったっけ?」

 レンの声音が嫌らしくクロノの耳に残る。

「僕だな」
「飲み込み早くて助かるわ。ついでに”僕にはもう何も無い”って言ってたのは?」
「僕だ」
「いいねぇクロノ君。どうせもう執務官じゃないんだし、どっかの魔法学院の教授にでもなったらどうだい?」
「魅力的な就職先だ。給料も良いと聞く」
「だろう? いやぁ、やっぱり僕らは話が合うなぁ」
「そうだな。才能が無いという点に関しては、僕と君の見解はある意味で同じだった」

 次の瞬間、クロノとレンは阿吽の呼吸の如く、ほぼ同時に動いていた。
 レンが無造作に発砲した。銃声が鳴るよりも紙一重で早く、フェイトを抱えたクロノが音も無く跳ぶ。空中で身を捩り、なのは達の下へ駆けて行く。
 銃声が断続的に続く。レンが奇声を轟かせて大型ハンドガンの引鉄を引き絞る。いずれも回避。外れた過剰殺傷能力を秘める弾丸がコンクリートを穿つ。
 一発がクロノの背中を直撃した。だが、黒灰色のバリアジャケットに被弾はしない。紺碧の魔力防壁が圧縮展開され、大口径の弾頭を防弾した。
 凄まじい衝撃と痛みだ。歯を食いしばり、何とか顔に出ないように耐える。フェイトに無用な心配を掛けたくはなかった。

「ちッ――!」

 舌打ちを残して、レンは射撃を止めた。五連装シリンダーをスイングアウトして、再装填作業に入る。

「大した腕だ」

 被弾の衝撃でバランスを崩しながらも、クロノは危なげなく目的地に到着し、なのはの目前で膝を付いた。
 装填されていた弾頭は対魔力防壁処理が施されているらしく、衝撃は相当なものだった。魔力も見事に削ぎ落とされている。

「クロノ君、フェイトちゃん!」
「なのは、フェイトを頼む」

 そう言って、クロノはバリアジャケットを掴んでいるフェイトの指を解こうとした。
 これからあの狂った科学者と相対しなければならない。フェイトとずっとこうしていたいという逃れ様の無い衝動があったが、彼女を抱いたまま敵を打倒しようと する程、クロノは酔狂ではなかった。
 フェイトの指を解くには少し時間が必要だった。十本の細い指を解いた頃には、敵は弾丸の再装填作業を終えていた。
 ハンマーが下げられる音を背にしながら、クロノはフェイトの顔を覗き込む。そこには、不安で泣き出してしまいそうな表情があった。解かれた指を胸に抱いて、 込み上げて来る感情を我慢するように唇を噛み締めている。

「大丈夫だ。すぐに戻るから」
「本当に?」
「ああ」
「………」

 離れたくないのはクロノも同じだった。
 クロノは名残惜しげにフェイトの頬に指を這わせ、彼女に背を向けた。仕方が無いとは言え、心が痛んだ。

「なのは、はやて。済まないが謝罪は後にさせて欲しい」
「……謝罪なんて、要らないよ」
「そうや。あいつをシバキ倒したらそれでええ。それで、ちゃんとフェイトちゃんを守ってあげて」
「……ありがとう……」

 その言葉が強く背中を押してくれる。

「ユーノ、フェイトの怪我を見てやってくれ」
「任せて。君もあまり無茶するなよ」
「努力する」

 信頼し、頼りになる友の言葉に苦笑して、クロノは敵を確認した。
 敵は聖書型ストレージデバイスを虚空に漂わせながら、二挺の回転弾倉型拳銃で武装を済ませている。

「待っていてくれたのか?」
「あ〜。別に撃っても良かったんだけどさぁ、フェレット君が防壁張る気満々でよぉ。無駄になりそうだから控えた。小便臭い餓鬼共に使い過ぎてもう余裕無いんだわ」
「弾は計画的に使えと言っていたのは、確かに君だったはずだが」
「感情は数字、ロジックじゃ説明出来ない。人類が絶滅する前に解明される事を祈るよ、僕は」

 広い肩が竦められる。レンは溜め息を残して、大型の方の拳銃――レイジングブルの照準をクロノの額へと付けた。

「んでぇ、君はここに何をしに来たのかなぁ? まさか、僕に会いに来てくれた訳でもないよね?」

 レンの口調が僅かに上がる。恐らくは喜んでいるのだろう。どうして喜んでいるのか分からなかった。
 クロノは魔力防壁の準備を行いながらも、提げているデュランダルを構えようとはしなかった。

「もちろんだ。僕はフェイトを助ける為に来た」
「角砂糖を一袋、ありがとう。胸焼けして死にそうさ僕」
「なら撃てば良かっただろう」
「だから言っただろう? 残弾が少ないって。まだロッティンバウンドの影響が抜けてないのかい、クロノ君?」

 人を小馬鹿にした態度だが、その動作に無駄は無かった。踏み込んで重い一撃を浴びせる隙を見出せない。弾速に優れた射撃魔法も、速射能力に長けた砲撃魔法も、 術式を構築した瞬間に大口径の弾頭でこちらの詠唱を妨害して来るだろう。
 やり難い相手だ。ヴィータがほとんど何も出来ずに敗北した理由が分かる。なのはやはやてが苦戦を強いられ、尚且つ敗北してしまったのも頷けた。

「あのさ、君には聞きたい事が幾らかあるんだけど、聞いても良い?」
「答えられる範囲ならね」
「あ〜、大丈夫大丈夫。性癖とか初体験とか、そんな野暮な事は聞かないから」

 明らかに演技だろう。レンは空を見上げて思案するように唸る。

「君ってさ、結局何がしたかったんだい?」
「………」
「誘ったのは僕さ。でもさ、それに乗ったのは君だ。確かに僕には目的があった。君を暴走デバイスの司令塔にするつもりだった」

 そんな所だろう。クロノは苦々しくそう思った。
 あの時のクロノと接触するメリットが、レンにはほとんど無かったはずだ。そうした理由でも無い限り、この狂った科学者が動く事は有り得ない。

「途中までは巧く行ってたのにさぁ、そこのフェレット君が余計な事してくれちゃってさ。魔法資質無いよ同盟の僕達を引き裂いたんだよ?」
「いつからそんな同盟が出来たんだ?」
「今」

 間髪入れずの即答だった。

「で、君は正義のヒーロー面で戻って来た。あれだけ仲間を殺そうとしたのに。ねぇ? フェイトちゃんだってあんなにズタボロにしたのに」
「……そうだな」
「あのさぁ、君って本当に何がしたいの? 別にいいよ、僕の所に戻って来ても。S2Uが無ければ氷結の杖を改造してやる。基本性能はそっちの方がダントツだから、 多分凄い事になるよ」

 レンの声はどこまでも自然体だった。何よりも気楽である。どこか近場にでも遊びに誘っているかのようだ。
 それに応えるつもりもなかったが、クロノも気取ろうとはしなかった。

「せっかくの誘いだが、断らせてもらう」
「………」
「僕には過ぎた力だった。君には悪いが、あの力は僕には必要無い」

 クロノは瞳を伏せる。
 そう、あんな力は必要無いのだ。あらゆるモノを蹂躙して破壊出来る”だけ”の力は、喩え持つ者が誰であろうと過剰な力でしかない。
 レンの雰囲気が、何よりも声音が一変する。

「ざけんな童貞」

 悪魔すら戦慄させる眼差しがクロノを射抜く。

「せっかくやったのによぉ、あの力。S+だよS+? 君があの時発揮した最大魔力数値はS+に匹敵したんだよ? 君はそれを捨てるってのか?」
「ああ。僕が欲しかったのはあんなのじゃない」
「あれだけ欲しいって言ってた癖に。大した鞍替えだなぁ。僕、超裏切られたって感じ?」

 レンは一度言葉を切ると、疲れた表情で問うた。

「じゃあさぁ、結局どんな力が欲しかったんだい?」

 自分が渇望した力、望んだ力。それは一体何だったのか。
 クロノは瞼を開け、レンを静観する。

「次元世界のすべての人達を救える力が欲しかった。それが無理だって、不可能だって、ずっと前から分かってたのに、僕はそんな力が欲しかった」
「だったらまた僕の所に来いよ。デュランダルならSSだって夢じゃねぇぞ?」
「だから言ったろ。僕には過ぎた力だって。僕には……あまりにも大き過ぎた」
「意味分かんねぇ」
「君には一生分からないだろう。分かってもらおうなんて思っちゃいない」

 クロノは懐から黒いカードを抜く。

「力なんて要らない」
「は?」
「才能なんて要らない」
「何言ってんだ、君」

 黒カードに飾り気は皆無。紅い宝石を中央に設えているだけだ。装飾品や優雅さからは駆け離れたその外見は、一種の機能美を見る者に与えている。

「大切な人と、その人を守れるだけの力があれば……それでいい」

 レンは笑わなかった。不機嫌そうに眉を顰め、眼を細め、頬を歪めただけだ。
 過剰殺傷の弾頭を発射するレイジングブルのバレルが震え始める。

「僕は、僕の大切な人を脅かす敵と戦う」
「だったら君はもう誰も助けないって訳だな? あの人造人間以外、誰が死のうが知った事じゃないって、そういう事だよなぁ?」
「違う」
「都合良過ぎ。それじゃあさぁ、今までと変わんねぇじゃん。才能無い君には絶対無理だよ?」
「………」
「どうするんだよ、次元世界とあの人造人間、どっちかしか助けられねぇ状況になったら」
「その時は」

 黒いカード――父の遺産に魔力を流し込む。

「僕はフェイトを選ぶ」

 その言葉と決意に躊躇いも後悔も無かった。

「僕にはなのはのような魔力は無いし、はやてのようにロストロギアを制御出来る程の才能も無い」

 父の遺産が淡く輝く。クロノの魔力を糧として、メインシステムが起動する。

「僕に出来る事、守れる人は限られてる。だから僕は大切な人を――フェイトを守る。そう……決めた」


 ――L4U、起動。


 虚空に投げ出されたカードは、次の瞬間に閃光を発した。
 大気が鳴く。閃光と共に解放された魔力は渦を巻き、紺碧の風となった。
 魔力の風は一つの意思に従うように徐々に形を成して行き、一つの魔法陣の形――帯状魔法陣を作り上げる。明滅を繰り返すミッドの魔法書式が書き連ねられた それは、クロノの身体をヴェールの如く包み込んだ。

『Operating check of the system has started.』

 L4Uが起動アナウンスを告げる。微かだが、聞き覚えのある男性の声だった。

『The magic circuit mechanism confirmation is in good condition.』

 電子加工されている上、発音が聞き取り難い。それでもクロノは誰の声だったかと必死に探った。

『All organization emergency compulsion connection. 』

 記憶の片隅に探したモノはあった。

『Condition all green. 』

 ――父だ。

『Love for you Gat Ready.』

 空手だった右手にずしりと重い手応えが来た。金属を握り締めている感覚。だが、その手触りはとても暖かかった。
 身体が軽くなる。力が、魔力が、想いが溢れて来る――!
 帯状魔法陣が薄くなり、空へ昇るように消えた。
 魔力の風が収まり、大気が静まる。何事も無かったかのように、屋上は穏やかな夜風に吹かれていた。


 その風が、”黒髪”を揺らして行く。


「……父さん……」

 艶を感じさせる本来の黒髪を感じながら、クロノは呟く。
 L4Uという名を持つ魔導師の杖は、S2Uを何ら変わらない形状を誇っていた。先端部位に装備された魔力石の色まで、何から何までS2Uだった。
 だが、一瞥で分かる違いがある。それは色だ。漆黒だったS2Uに対して、父の形見たるこの杖は白銀だ。それ以外は、排熱ダクトとしての機能を持つブレード状 パーツが左右に装備されている点を除けば、まさにS2Uの生き写しと言えるだろう。

「ありがとう」

 起動時に発生した魔力の風は、間違いなく父のものだった。それが今、クロノの全身を循環し、消耗していた魔力を完全に満たし、L4Uの魔力回路を活性化させている。
 その恩恵が髪の色だ。色素が抜け切って白髪になっていた髪が、本来の艶のある黒髪に戻っていた。
 バリアジャケットも変化している。手甲が無骨さを増し、脚にも補助装甲がある。フォルムはほぼそのままだが、腰には紅いベルトがあった。

「やるぞ、デュランダル」
『OK boss.』
「力を貸してくれ、父さん。……いや、L4U」
『Yes my son.』

 二対に白銀の杖を振り翳す。

「レイン・レン。あなたを逮捕する」

 宣言が茫然とクロノの準備を見守っていた狂人を我へと返させた。

「寝言は寝て言って欲しいねぇ。君はもう時空管理局執務官じゃないんだよ? 本来は第一級犯罪者で、お情けで第二級特殊犯罪者にしてもらってる、それはそれは ご立派な次元犯罪者様だ」

 いつもの癖で言ってしまった。自分はすでに管理局に関するあらゆる権限、役職を剥奪されている。”逮捕”という言葉を使い、その 意味を行使する事は今のクロノには出来ない。何よりも相応しくなかった。

「ああ、そうだったな」

 クロノは逮捕に変わる言葉を探そうと思ったが、その必要は無かった。
 口が勝手にこう言った。

「あなたをブッ飛ばす」

 L4Uの先端をレンに突き付けて、クロノは静かに宣言した。
 今度こそレンは笑った。狂ったように哄笑を上げた。

「無理だよぉ〜クロノ君〜ッ! 僕の防御魔法は対ミッド式に特化してる! 破るにはそこの餓鬼共のデバイスのフルドライブが必要不可欠! ついでに直撃でも なけりゃ突破は無理! まぁ、さっきの合体砲撃と自爆突撃は結構ビビったけどさぁ!」
「シグナム達を警戒していたのはそのせいか」
「そうさぁ〜! ベルカ式は近接特化だ。僕との相性がすこぶる悪い! だからサッサと潰そうと思ったんだよ! 僕の魔力防壁は鉄壁! 君程度の魔力じゃ、何本 デバイス持っても突破は無理だぁ! 不可能だぁ! 確率ゼロパーセントだぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 クロノの姿が余程滑稽に見えるのだろう。レンは哄笑を止めようとはしなかった。

「………」

 無言のまま、クロノは黒に戻った髪を靡かせ、レンへ歩み寄って行く。
 右手に持つはL4U。
 左手に持つはデュランダル。
 身に纏うは黒灰色の法衣。
 そして背負う感情は魔導師にあらず。
 知らず知らずに内に身体が発熱していた。フェイトを抱き締めた時に消えたはずの熱が、再び全身を魔力と共に巡り始め、最後には腹の底に集まって行く。
 クロノはレンの眼前で止まった。真っ直ぐにその濁った瞳を見上げる。

「……何か企んでいる眼だな」

 哄笑が止まる。

「あなた程じゃない。と言っても、僕に出来る事なんてたかが知れてるが」
「そうだろそうだろ。だから僕がロッティン――」

 男の言葉が止まる。

「僕直々に教授してやる」

 クロノが、その口にL4Uの先端のねじ込んだからだ。

「は? あ?」
「魔法戦闘は魔力値の大きさだけですべてが決まる訳じゃない」

 L4U起動時に身体に流れ込んで来た魔力が、登録されている魔法の種類を伝えてくれていた。
 補助、防御魔法の種類はS2Uよりも豊富だ。機能もそれらの魔法の操作の為に調整されており、高い汎用性と機能性を秘めている。

「必要なのは」

 攻撃魔法の類は登録数がS2Uよりも少ない。だが、どれもがクロノが慣れ親しんだ術式と基礎が同じだった。さらに多くの派生系と多機能性を兼ね揃えている。 数種類を組み合わせるだけでも敵を圧倒するに充分な火力を得る事が出来るだろう。

「状況に合わせた応用力」

 持ち主の技量に大きく依存する杖だ。S2Uのように質実剛健とは言い難い所がある。
 だが、使いこなす事が出来れば、十数年前に設計された旧式とは思えない性能を発揮するストレージデバイスだ。

「そして」

 登録されている数の少ない攻撃魔法から、信頼の厚い一つを選定して術式を構築する。S2Uよりも遥かに滑らかで、より素早く詠唱する事が出来た。
 その速度は、レンすら対応出来ない程だった。

『Blaze Launcher.』

 亡き父の電子音声がトリガーヴォイスを入力する。
 ブレイズキャノンを高出力化させた砲撃魔法――ブレイズランチャーを零距離発動。
 凄まじい爆音。視界を遮る一瞬の閃光。そして衝撃。
 レンは文字通り悲鳴すら上げられず、派手に回転して地面を転がって行った。殺傷設定であれば、いくらこの狂人でも即死だっただろう。
 硝煙を上げるL4Uを振りかぶり、クロノは叫んだ。

「的確に使用出来る判断力だ! 一回ブッ飛ばされるだけで済むと思うなよ、クソ野郎ォッ!」

 似合わない悪態を残し、クロノは雄々しく跳躍した。





 to be continued――!





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 □ あとがき □
 読んでいただきましてありがとうございました。
 クロノの決意が人によってはあれかもしれませんが、言葉にはしていないものの、”人間、大切な人一人を守るのが精一杯だろ?”という自前の考えが出てます。 劇中はやてが”皆を助ける”と言ってますが、それはそれ。これはこれ状態。
 このままラストバトルへと雪崩れ込みます。最後の”to be continued”に”!”が付いてるのは、この話を書き終えた後の俺の感情だったり。
 クロノの変化は予告編には出していなかったL4Uの機能(機能と言うには違いますけど)です。ちょっとだけ変わったバリアジャケットはAsエピローグの二十歳 クロノのものです。SCでのクロノは十五歳で身長が結構伸びてる(正式な身体設定がなのはには存在していないのであれですが、大体百六十くらいかな?)という 便利設定なので、まぁ馬子にも衣装の感は拭えませんがあのバリアジャケットを着ていただきました。まぁ、あれはバリアジャケットというよりも管理局の上位職の 戦闘服っぽいですけど(三期の十五歳フェイトが白いverの服着てるっぽいですし。
 では次回も。








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