魔法少女リリカルなのは SS

Southern Cross

♯.7 Abhorrence









 嵐が過ぎ去った後のような静けさが室内に満ちている。
 無事な調度品がほとんど無い執務室で、ユーノは広域結界魔法の術式を構築していた。
 クロノも言っていたが、このビル内にはまだ社員が残っている。AAAクラスを超える魔導師達が本気で戦闘を行えば、街の一部が焦土と化す。鉄筋コンクリートと 建材の塊に過ぎないビルなど、すぐにでも瓦解してしまう。
 だが、構築した術式を制御解放しようとすると、必ず何かが妨害を入れて来る。脳の中を掻き回されるような猛烈な不快感。とてもではないが、術式の制御解放に 集中してはいられなかった。
 指向性のマジックジャマーだった。妨害する魔法の術式を限定する事で、より強力な効果を発揮する類である。

「用意周到だね」

 印を結ぶのを止める。術式の構築方法や展開図式を変更してみても駄目だった。結界魔法の基礎術式に反応するように設定されているのだろう。結界構築の妨害をして 何の意味があるのか理解に苦しむが、あの男の考えている事なんて理解したくもない。
 シグナムとヴィータが、クロノとレンと戦闘に入って数分が経過している。微かに聞こえていた戦闘の騒音も、今はまったく聞こえない。
 遠くに場所を移動している。少なくとも、ヴィータは下層で戦っていると見て良い。
 あの二人が負けるとは思えなかった。一対一でのベルカの騎士の強さは身を持って知っている。レンの方は素手でヴィータを吹き飛ばしていたが、それでも徒手空拳 である事に変わりはない。ならば、ヴィータに負ける要素は何も無いはずだ。
 問題は、あのクロノだ。シグナムを一撃で吹き飛ばし、彼女を追って消えた。

「援護に行かないと。なのは」
「え……」

 床の一点を見詰めていたなのはが顔を上げる。

「僕がシグナムさんの援護に行く。なのははヴィータをお願い」
「……うん」

 クロノ・ハラオウンという人間を知る人間なら、あのクロノを見てショックを覚えないはずがない。特に親しい――友達なら尚更だ。殺意を叩き付けられたのなら、 言葉のかけようもない。
 ユーノもそうだ。変貌したクロノが未だに信じられない。軽い浮遊感が思考を覆って、考えが巧く纏まらない。
 だから、ユーノは自分に言い聞かせる。
 これは現実だ。否定しようのない、拒否出来ない現実の出来事だ。
 クロノはデバイス暴走事件の首謀者たる技術者と結託し、時空管理局局員に攻撃を加えた。この事実が管理局に知れれば、彼は即刻執務官の権利と資格を剥奪され、 犯罪者と見なされるだろう。逮捕の理由には充分過ぎる行いを、彼はすでにしてしまっている。
 ならば、喩え無限書庫司書とは言え、時空管理局局員であるユーノは彼を止めなければならない。
 武装隊士官であるなのはもそうだ。与えられた役職の義務を果たさなければならない。
 彼が犯罪者となってしまったのだから。

「いける?」

 今のはのはを一人で動かす事に不安はある。だが、現状はそれを強制して来る。

「……大丈夫。シグナムさんとヴィータちゃんを助けよう、ユーノ君」

 それでも、なのはは気丈に答える。

「レイジングハート」
『All right my master』

 復唱したレイジングハートがバリアジャケットを生成する。赤い宝石が魔導師の杖となり、なのはの手に納まった。
 銃声が遠くから聞こえた。聴き慣れない乾いた音だ。立て続けに三発。
 二人は弾かれたように動いた。なのははアクセルフィンを発動させ、シグナムの連結刃が作った床穴へ飛び込む。ユーノは印を結び、術式を構築しながら部屋を 飛び出した。
 廊下はシグナムが破壊した建築材の破片でメチャクチャになっていた。埃が舞い、地震でもあったかのような風情だった。
 作られた穴を通り、ユーノはシグナムとクロノを追う。何度かそうしていると、今度は大きな床穴に出くわした。
 飛行魔法を使って飛び降りる。穴は五枚の床を破壊して続いていた。
 容赦の無い破壊の爪痕だった。
 どちらがやったのか分からないが、シグナムとクロノの戦闘はユーノが想像している以上に激しくなっている。
 コピー紙や家具、オフィス用品が落ちて来る縦穴を降りる。オフィスの一室に出た。人の気配は無い。
 周囲を警戒しながら視線を巡らせると、穴を見つけた。
 先へ進もうとする。その時だった。
 人の悲鳴が聞こえた。

「!?」

 断末魔の絶叫だった。声にならない声。だから、最初は誰のものなのか分からなかった。
 それを分かってしまった時、ユーノは脇目も振らずにシグナムとクロノを探した。

「シグナムさんッ! クロノォッ!」

 悲鳴はまだ続いている。

「シグナムさんッ!」

 猛烈に嫌な予感がした。

「クロノッ!」

 二人の人間が戦っている。殺し合いをしている。それで片方の悲鳴が聞こえた。なら、もう片方がそうさせている。
 つまり、そういう事なのだ。
 戦闘で出来た穴を通り、ユーノは別の部屋に出た。

「シグ――」

 喉を出かけた声が途中で途切れる。
 悲鳴が止む。
 ユーノは眼の前の光景が理解出来ず、声も無く呻いた。
 シグナムの背中が見えた。彼女は背中から突き出ている白い刀身に支えられ、宙に掲げられていた。

「―――」

 手甲は砕け、外套が破られ、傷だらけになっているシグナム。その身体に、剣が突き刺さっている。一本や二本ではない。それこそ、百を超えそうな数の剣が食い込んで いる。
 肩、背中、腕、脚、彼女の身体を埋め尽くさんばかりに剣がある。恐らく胸や腹にもあるのだろう。
 夥しい血液が流れている。蛇口から水が流れ出るような勢いだ。比喩ではない。足元の血溜まりは池となっている。
 その血を浴びているのが誰なのか、ユーノの位置からでは見えない。
 だが、誰かは分かった。
 シグナムが自らが作った血の池に投げ捨てられた。びちゃりという嫌な音と共に、長身の身体が文字通り血塗れになって横たわる。
 ぴくりとも動かない。
 突き刺さっていた剣が消えて行く。それがさらに出血を促した。
 髪や頬を返り血で汚した見慣れた少年が居た。

「なのははどうしたんだ、ユーノ」

 動かなくなったシグナムに一瞥もくれず、クロノが言った。
 ユーノは何も答えられなかった。洞窟内に反響する言葉のように、眼の前の事実が頭の中に響いて来る。
 シグナムが死んでいる。
 クロノが返り血を浴びて立っている。

「クロノ」

 停止しかけた思考に鞭を入れた。冷静になるように自分に言い聞かせる。脅迫すると言っても良い。
 それでも思考は麻痺を起こす。冷静になれず、悲しみと怒りが沸々と込み上げて来る。

「……なのははヴィータを助けに行ったのか」

 クロノが踵を返した。S2Uを払い、付着したシグナムの血液を薙ぎ払う。嫌な水音が鳴った。
 遠ざかる白髪の少年の背中。微かな足音。それらがユーノを戒めから解放した。
 踏み出して追おうとする。その時、掠れた呻き声がした。

「……シグナムさん?」

 ユーノの呟きにクロノの脚も止まる。
 シグナムの身体が揺れた。胸が激しく上下して口から大量の血を吐き出す。

「シグナム!」

 ユーノは身を翻した。暗闇の中、シグナムの容態を確認する。
 遠目から見ても分かったが、あまりにも酷い傷だった。百を超える裂傷からは冗談としか思えない程の量の血液が噴出している。それでも彼女は生きていた。
 無我夢中で胸の前で印を組む。虫の息よりも薄弱だが、シグナムは生きていた。治療魔法を駆使すればまだ助かる。
 擬似魔力回路を脳内に構築。口頭詠唱でさらに増幅を施す。

たえなる響き、光となれ。弛まぬ癒しの恵みを与えよ……!」

 淡い緑の魔力光が魔法陣を描き、シグナムを膜のような光が包んだ。
 フィジカルヒール・エクステンド。持続性のある即効性回復魔法だ。
 シグナムが再び吐血をする。何かを話したいようだが、込み上げて来る血液がそれを邪魔していた。

「喋らないで!」

 彼女の身体を押さえつける。バリアジャケットがすぐに血塗れになった。
 普通の人間ならとっくに絶命しているだろう。だが、彼女は守護騎士プログラムだ。身体を構成しているのは普通の人間とあまり変わらないが、生存能力、生命力 は並外れて高い。

「生きていたのか。驚きだ」

 身を起こそうとするシグナム。噴水のような出血がそれを妨げる。

「シグナムさんッ!」
「……ユーノ、早く連れて帰ってやれ」

 疎んじる声だった。

「シグナム。これが今の僕の力だ」
「―――」

 クロノは握り締めたS2Uに視線を落とす。

「今の僕のすべてがこれだ。これを奪おうとするのなら、それは僕にとって敵だ」
「―――」
「もし管理局が僕を連れ戻そうとするのなら、僕は管理局の敵になる」
「敵って……!」
「そうだ、ユーノ。僕の存在を否定して、僕の力を否定するモノは全部僕の敵だ。……ああ、そうだな」

 己の言葉を実感するようにクロノは天井を仰ぐ。その表情に浮かぶ感情は、諦め。

「僕は……君達の敵になるんだな」
「クロノ――!」

 漠然とした危機感が募って行く。ユーノはそれに身震いさえ覚えた。発熱して背中に嫌な汗が流れて行く。
 身を低くして、彼は身構えた。シグナムを守るように横たわる彼女の前に立つ。

「敵は倒さないといけない。殺さないと……いけないッ!」

 振り返ったクロノは笑っていた。獲物を見つけた獣のような顔だった。
 危機感が戦慄に変わった瞬間だった。
 風が吹き、頬を撫でる。それと共に来た衝撃は、ユーノの腹部を殴り付けた。
 クロノの拳だった。
 肺の空気を吐き出せない。魔法発動のトリガーとなるトリガーヴォイスを紡げない。魔力を大量消費するが、完全な無詠唱で無理矢理行使した。
 魔法陣が床に生まれる。ユーノとシグナムが僅かに発光し始める。

「逃げるのか」

 無視する。もう、今の彼とは話したくなかった。
 なのはとヴィータを回収して、アースラに転移だ。

「レンの所へ行くのか」

 無視。

「行かせない」

 クロノも転移魔法の詠唱を行う。
 今の彼は強すぎる。なのはとヴィータ、二人がかりでも絶対に勝てないだろう。
 逃げるしかない。
 二人の少年は、ほぼ同時に転移魔法を発動させた。



 ☆



「ヴィータちゃんッ!」

 アクセルモードのレイジングハートを構えたなのはは、一階のロビーに駆け込んだ。
 ゼニス社はデバイス関連企業の中でも中堅に当たる。この本社ビルの規模もそれに似合い、大きくもなければ小さくもない。一階ロビーは一般的な吹き抜け構造で、 入り口側は前面硝子張りだ。壁は光沢を持つ大理石で出来ており、奥には受付カウンターと中二階に通じる階段がある。
 それらすべてが破壊されていた。無事な物は無かった。
 破壊の跡地に長身痩躯の男が立っている。羽織った白衣の所々には赤い斑点のような汚れが付いていた。
 レイン・レン。彼は小柄な少女の額を鷲掴みにし、宙吊りにしている。

「――ヴィータちゃんッ!」

 彼女は動かなかった。三つ編みは解れ、帽子は裂かれ、手袋も靴も無い。ほとんど半裸に近い酷い有様だった。
 主の同じように、グラーフアイゼンにも原型は無い。柄だけという無残が姿を科学者の足元で晒している。

「おや。少々遅いですよ、高町君」

 なのはを迎えたレンは、人懐っこい微笑を浮かべていた。
 踏み込もうとするなのはに、ヴィータが投げ飛ばされる。慌てて抱き留めるが、閉じた瞼に動く気配は無かった。

「ヴィータちゃん! ヴィータちゃんッ!」
「いやいや。結構頑張ってくれちゃいましたよ、その子」

 白衣のポケットからハンカチを取り出して、レンが口許を拭く。傷だらけの顔だったが、右の頬に大きな痣があった。

「アクセラレータを使った僕に一撃入れたのはその子が初です。結構効きました」
「……!」

 レイジングハートの先端をレンに向けた。
 歯を食いしばり、息を呑み、睨め付ける。

「……良い眼だぁ」

 レンが恍惚とする。

「人を恨むのは慣れましたか?」

 そんなの、分からない。知りたくない。

「……時空管理局武装隊士官として、あなたを……逮捕します」

 心の中で誰かが囁く。
 逮捕? 何を生易しい事を。エクセリオンモードで吹き飛ばせ。カートリッジを使って薙ぎ倒せ。こんな奴、生かしておくな。

「取り繕う事はありません。素直に”腹が立ったからブッ飛ばします”って言っちゃって下さい」

 その囁きの主は、もしかしたら眼前の男なのかもしれない。
 腹が立つというレベルではない。クロノの一件で忘れかけていた憎悪が音も無く舞い戻って来た。
 それでもなのはは理性で囁きを御した。

「……話は……管理局で、聞きます……」
「そういえば、あなたはよく言っていたようですね」

 不意にレンが口を開けた。

「”話を聞かせて”。”話し合いで解決出来ないのか”。テスタロッサ君にも、ヴィータ君にも言っている」
「………」
「如何なる人間にも行動原理があります。テスタロッサ君は母だと信じた女性の為。ヴィータ君達は主の為。そう、誰かの為に彼女達は動いていた。だから、最初の内 には話してくれなかった。どれだけ親身になっても」
「何を言って……」
「テスタロッサ君に”話を聞かせて”と言った時、あの子はどう答えましたか?」
「………」

 それは、フェイトと二回目の出会い。話し合いで解決出来ないかと言うなのはに、フェイトはこう言った。
 ――話し合うだけじゃ、言葉だけじゃきっと何も変わらない。何も伝わらない――。

「僕の言う事、僕の気持ちは、喩え話した所で誰にも伝わりません。何も変わりません」

 そう告げるレンには、これっぽっちの悲壮感も無い。

「僕の気持ちは僕にしか理解出来ません。いや違いますね、僕は特別そうかもしれませんが、元々人間っていうのは他人の気持ちを全部理解する事なんて出来ないんで すよ。思いを分かち合うだとか、気持ちを共有するとか、そんなのただの綺麗事。他人を見下し、他人を助け、充実感と優越感に浸る。ま、そんなとこです」
「違う!」
「いいえ違いません」
「違う……絶対に違う! 私はフェイトちゃんと友達になりたかった! 辛い気持ちを、悲しい気持ちを分け合いたかった!」

 独りの辛さ、悲しさは、少しだけど分かるから。それを分け合い、友達になって、あの子の笑顔が見たかったから。本当のフェイトという少女が見たかったから。
 なのはは首を横に振る。そんな彼女に、レンは満面の笑みを向けた。

「エゴイスト」

 彼の口から出た言葉が理解出来なかった。

「……え?」
「テスタロッサ君はプレシア・テスタロッサの為にジュエルシードを集めた。ヴィータ君達守護騎士は、己が行いが犯罪であると理解し、主との誓いを破る事だと理解 しながら、それでも主の為に蒐集活動を行った。立派な事です。思わず涙がこぼれます」

 ハンカチで眼許を拭う仕草。

「でも、高町君。君は違う」
「ち、違わな……」
「君はぁッ!」

 大仰に両手を広げる。執務室の時のように、彼は演説体勢に入った。

「君は自分がそうしたいから動いた! 君はテスタロッサ君の境遇を知りましたが、知っただけでした。何もしない選択肢もあったはずだッ! なのにあなたは最後ま で首を突っ込んだ。気持ちを分け合いたい、友達になりたいなどという極めて自分勝手な理由でェッ!」
「―――」
「誰かの為ではなく、自分の為! 人間として極めて自然な行動原理! 他人の為にとか言っている奴が頭イカレてるんですよォッ! つぅーまぁーりぃー!!!」

 レンが床を蹴る。十メートル以上はあった距離が瞬く間に零になった。
 視界がレンの顔で埋め尽くされる。

「君は僕と同じなんですよ。……自分がしたいからそうする。邪魔するモノはご自慢の魔力で吹き飛ばす。なかなかのエゴイストですね、君は」

 否定したくても、もう出来なかった。フェイトの時、何度も思ってしまったからだ。
 友達にはなりたい。でも、フェイトは違う世界に住む人間であり、複雑な境遇にある。そんな子に無神経に接触したり、不用意な言葉をかけてしまうのは、返って彼女 を傷付けてしまうだけなのではないか。自分は単に、無神経で我侭な感情をぶつけているだけなのかもしれない。
 何もしない方が一番良い。それが最良の選択。
 なのに、そうはしなかった。フェイトと友達になりたかったから。笑い合い、気持ちを分け合いたかったから。彼女の境遇も状況も省みず、そう思い、そのまま 行動した。

「君はクロノ君を拒絶した」

 自分の肩を抱き締めるレン。総毛立つようなおぞましい光景だが、なのはの思考は緩慢になっていて何も思わない。
 拒絶した? 私が、クロノ君を?

「暴走体に身体も心もズタズタにされていた所に、それはそれはご立派な正論をぶつけた」
「だ、だって、クロノ君、フェイトちゃんに酷い事……」
「そして君はクロノ君に酷い事を言った」

 そんなつもりはなかった。

「クロノ君に聞きましたよ」
「きょ、拒絶してなんか……!」

 支えなきゃいけないフェイトを、クロノは拒絶した。罵倒した。傷付けた。だから、だから私は――。
 なのはの額に、レンが指を突き立てた。

「……クロノ君だって、痛かったんですよ」

 冷え切った声だった。

「クロノ君らしくない? 君はクロノ君の何を知っているというのですか? ええ?」

 レンの顔が歪んで行く。歓喜と憤怒と哀れみ。それらが混ざり合い、狂気の表情を演出する。

「虫唾が走る。吐き気がする。いい加減にしろよ餓鬼が。良い気分になりたいからって、善人面して他人助けてんじゃねぇぞコラ」
「わ、私は……!」
「認めちまえ。エゴイストだって。そうしまえば楽になる」

 その時、風が起こった。

「なのは伏せてッ!」

 少年の声。
 なのはは動けない。意思も身体も完全に麻痺してした。にも関わらず、彼女は上半身を折った。
 ヴィータだった。傷だらけの半裸の少女が、なのはを庇うように押し倒したのだ。

「ほ?」

 不思議そうにするレンの顔面に、ユーノ・スクライアの爪先がめり込んだ。潰れる悲鳴。歯が折れる音。白衣の長身が揺れ、踏鞴を踏む。

「二人とも、無事ッ!?」
「見りゃ、分かる、だろ……」

 吐血しながら、ヴィータ。駆け寄ったユーノはマントを彼女にかける。

「逃げるよ」
「……クロノ……君、は?」

 辛うじて、なのははそう訊けた。

「シグナム、は……どうした、んだ……よ」

 ユーノは答えなかった。
 だから、クロノ・ハラオウンが答えた。

「殺し損なった」

 膝をつき、ヴィータを抱きかかえようとしているユーノの後頭部に、無骨な金属の塊が突きつけられる。
 金属の塊はS2Uの先端。そして、それを持っているのは、全身を真赤にしたクロノ・ハラオウン。

「殺し、損なったって……どういう、こと、だよ……」
「そのままさ、ヴィータ。カートリッジ六発分の魔力をぶつけても死なないなんて、どうかしてる」
「おい……スクライア。シグナム、どうなったんだよ……。なぁ、スクライア……!」

 やはりユーノは答えない。微かに首を動かして、肩越しにクロノを見据える。
 なのはは、ただ脅えた。何が怖くて、何が恐ろしいのか、もう何もかもが分からないが、脅えた。

「転移……魔法……!」

 魔法陣が生まれる。
 クロノは動かない。ユーノ達の撤退を見逃すつもりらしい。

「僕はもっと強くなりたいんだ。次に来る時はフェイト辺りを連れて来てくれ。なのはと一緒に」

 まるで友人を遊びに誘うような口調だった。

「そしたら手応えのある殺し合いが出来る」
「……馬鹿……野郎……!」

 喉を振り絞り、掠れた声でユーノが言った。
 程なくして、転移魔法が発動し、なのは達はロビーから消えた。
 転移の直前、なのはは思い至った。
 血塗れの凄惨な少年の横顔。
 こうしてしまったのは他の誰でもない。
 ――自分なんだ。





 to be continued.





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 □ あとがき □
 読んでいただきましてありがとうございました。♯.7 Abhorrence終了です。
 最後のレンのなのはに対する言葉や考え方は、友人と話していて何となく出て来たものです。色々と何やら言われそうですが、後半辺りでなのはの答えというか、そう いうのが出て来ると思います。ケチョンケチョンに否定してますが、なのはが嫌いな訳ではなく、大好きです。出番が少ないのはあれですが…orz ちなみにこの俺の 考え方そのものが否定されそうですが、個人の考え方、捉え方なので、違和感を感じた人はスルーして下さいませ。
 次回から坂道転げ落ち再開。

 2006/7/04 改稿




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