根性戦記ラジカルアストラButlerS

破:私が貴方を好きになったワケ ♯.9







「……わりぃ、クイントさん」

 こんな身勝手極まる道筋を、他者から嘲笑を浴び続けたこの哲学を、《素敵な生き方》だと賞賛してくれたのに。今は亡き恩師の忠告を無為にしてしまった。
 人間の中身を構成する心の骨子を変えずに、その行動を変える事で進む道を変える。恩師の言葉を少しでも理解していれば、この結果は変えられたのだろうか。
 見上げた天井には見覚えがあった。先端医療センターだ。何度か世話になっている経験から、アストラは現在地を速やかに看破する。意識は奇妙なほどに明瞭としていて、思考は雲の無い夏空のように晴れやかだった。身体と精神を弛緩させていた虚脱感も一掃されている。

『クイント女史の夢を見ていたのですか?』

 耳元で電子音声が囁く。どれだけの時間を眠って過ごしていたのか、果たしてアストラは分からないまま、長年の相棒に指を伸ばそうとして。
 左腕が無かった。
 一瞬の間。頭がその事実を承諾する。

「こりゃプラモデル作れねぇな」
『……ゲームも難しいでしょう』
「飯喰うのも一苦労だ。利き腕残ってるのは僥倖か、相棒?」
『あの状況下で生存している事が僥倖です、我がマスター』

 右足の感覚が鈍い。その存在を確認しようと上半身を起こそうとするが、上手く動かなかった。人類規格外とすら言わしめたアストラの体躯は、その意思に反して鉛のように鈍重だった。
 そうやって苦心した甲斐あって、アストラは自らの下半身を目視する。右足は健在だった。ただ、どれだけ動かそうとしても、反応が無い。神経が麻痺してしまったような感覚だ。
 強烈な射撃魔法に晒されたのだから、あるだけマシだと安堵するべきかもしれない。

「てめぇも無事で良かったな、アンスウェラー。第四分隊の連中は?」
『テイパー三等陸尉殿が軽傷。他隊員も同様です』

 なら左腕が無くなった事に遺恨は無い。むしろ、それで未来ある彼等が助かったのなら、胸を張れる。

『ご存知のようですが、現在地は先端医療センターです。我がマスターは首都航空隊所属ディンゴ・レオン三等空尉に救出され、センターに搬送。ラナ・フォスター医務官が執刀し、緊急手術。一時非常に危険な状態でしたが、六日で集中治療室から一般病棟に移り、その四日後となる本日午前十一時三十分に意識を回復されました』
「細けぇ報告あんがとよ。そっか、十日も寝てたのか。道理で尻だの腰だの痛ぇ訳だ」

 腰を擦ろうと身体に掌を這わせた時、奇妙な違和感に気付く。患者衣を捲って己の体躯に視線を巡らせると、答えは得られた。
 見慣れた身体に、見慣れない手術痕がある。それも大量に。しかも非常に大きい。

『詳細はフォスター医務官から説明を受けて下さい。以後、我がマスターの食生活は大きく制限されます。飲酒は不可能ですのでご注意下さい。無視した場合、下手を打てば生命の危機が再来します』
「グランセニックの兄貴と飲む時は俺だけジュースかよ。かっこわりー」
『彼をはじめ、多くの局員が我がマスターの見舞いに訪れています。こちらがリストです。回復の報告を行いますか?』

 眼前に仮想ディスプレイが投影される。カーテンの閉め切られた仄暗い病室内を、淡いコンソール光が灯る。天候は雨模様のようで、弱々しい雨音が聞こえた。
 ディスプレイには馴染みのある名前が連なっていた。同じ108部隊の同僚から、JS事件の首都防衛戦の時、肩を並べて共に戦った陸士部隊の分隊長や陸士達の名もある。

「回復メールくらい自分でするわ。っておいおい、ヴィータとスバルまで来てたのか。どうなった?」
『我がマスターが体調不良を自覚された時に懸念された事態が発生しました。紅の鉄騎には、我がマスターから直接連絡をされるべきです』
「まぁそれが筋かもしれねぇけどよ」

 せめて自分の意識が戻ってから来いというのだ。慌しい彼女がわざわざ出向いてくれた事には感謝をしなければならないが、言い訳も釈明も何も出来ないではないか。

『我がマスター』
「んー」
『何故、フェベルの安否は確認されないのですか?』
「枕にあいつの髪の毛付いてた」

 ひょいっと、アストラは件の髪を指で摘む。枝毛の無い綺麗な黒髪が、淡いコンソール光の中に浮かんだ。

『それがフェベルの髪である根拠は?』
「勘。で、あいつは今何してる?」

 勘ではあるが、確証があった。伊達にあの黒髪を何十回何百回と撫で回していない。髪には彼女の匂いの残滓があったが、感触で分かる。この髪は、紛れも無く彼女のものだ。

『我がマスターの看護中に精神的疲労から倒れ、現在別室で療養中です。我がマスターのアクセラレータ後遺症の事もすべて知らされています』
「……ヴィータ来た時、何かあったろ?」

 沈黙。鋼の槍の相棒は、黙秘をするように思考稼動を示す明滅を停止する。
 それが答えだ。辛辣な毒舌でマスターを翻弄する、この突撃槍型インテリジェントデバイスを伊達に十年以上相棒にしていない。
 自分が意識不明中にどんな事態が発生したのか。想像は簡単そうで難しかった。ヴィータは、アストラの身体の不調と重傷を自分の所為にしただろうが、それに対してフェベルがどう対処したのか、読み難い。

『我がマスター』
「なんだ?」
『これで、良かったのでしょうか?』

 それは、とても直接的な問い。でも、同時にとても抽象的な問い。

『先ほど申し上げましたが、こうして生存出来ている事だけでも僥倖です。フォスター医務官の高度な措置のお陰で、アクセラレータの後遺症の影響は、私の当初の予想よりもずっと少ない。それでも、貴方はもう戦えない。それどころか、長いリハビリを果たしても、補助杖無しでは自力歩行も危ういでしょう』
「高町が撃墜された時より軽そうだぞ?」
『高町教導官があの事故で負われた損傷の多くは外的なものでしたが、我がマスターは違います。損傷の多くは内側に集中している。また、本来なら左腕だけではなく、右足も喪っていました。フォスター医務官には土下座で感謝を表現して下さい』
「キモいとかで蹴り飛ばされそうだから却下」

 苦笑したアストラは、相棒を掌に乗せた。
 突撃槍を相似縮小したシルバーアクセサリーが、カーテンの隙間を縫って射し込む微かな光を弾き、鈍色に煌く。

「でも、あのヤブ医者には感謝してやる。こうやってお前に言いたい事が言えるから」

 ステイシス出現現場に急行するまでの間、彼には《ありがとう》を告げられた。でも、あの時には伝えられなかった言葉と感情がある。それを伝えてしまえば、戦えなかったから。それをこうやって面を向かって伝えられる事に、アストラはラナへの感謝を禁じ得なかった。

「使用者権限発動。固体識別名《アンスウェラー》の現使用者《マスター》アストラ・ガレイアンの登録を解除」

 マスター権限の解除。これで、この突撃槍型の知性ある魔導端末は自由となる。束縛する無能な使用者から解放され、その身を存分に活用してくれるマスターと出逢う事が出来る。
 アンスウェラーの連続稼動時間は非常に長く、超旧型に分類される言わばロートルだ。だが、《不屈の魂》や《閃光の戦斧》にすら負けない気高き魂を秘めている。
 この知性ある魔導端末は、まだまだ戦える。いや、これからだ。
 マスターが行く道を貫くこの槍には、もっと相応しい場所がある。
 これから精神の緩やかな壊死を迎えるだろう自分と托生するのは、あまりに惜しい。
 それなのに。この相棒はとても強情で。

『拒否します。そもそも、我がマスターは元々外部使用者《ゲスト》登録されています。私の本来の使用者《マスター》はオペル・ガレリアンです』

 さも当然のように現使用者の命令を無視してくれる。嘘までついて。
 機能が極々限定されてしまう《ゲスト》登録で、どうやってこれまでの戦いを乗り越えられたというのか。流石はこんな馬鹿なマスターに十年以上も付き合ってくれた魔導端末だ。

「元々俺には過ぎたデバイスだったんだ、お前は」
『それは認めます』

 衝き返される即答。本当に可愛くない奴だ。

「お前の剛性や魔力回路は、高町やフェイトクラスの出力にも耐えられる。フレーム強化もしてあるから、古代ベルカの騎士様とすら正面から打ち合える。そうだろ?」

 果たして、管理局に登録されているインテリジェントデバイスで、そこまでの無謀な運用に耐え得る頑健な魔導端末がどれだけあるだろう。

「アンスウェラー」
『はい』
「陸士108部隊前線第一分隊からの除隊を──許可する」

 アンスウェラーは何も言わなかった。

「今までご苦労だった」

 何も答えなかった。

「ああ。俺のデータは別に移しておいてくれよ? お前のストレージに突っ込んでる諸々、見つかると服務規定違反になるの多いし。それから俺が寝てる間に来てくれた連中のリストとかメルアドとかもな」

 何も告げなかった。
 眠気がやって来る。とても耐えられない強烈な睡魔が肩を叩く。
 アストラはベッドの脇にあった椅子にかつての相棒を置いて、ベッドに潜り込んだ。たったそれだけの事なのに、途方も無い疲労感に苛まれた。意識を手放した事すら自覚が無いまま、視界は暗転した。



 ☆



「古代遺失物ジュエルシードとステイシス。そういう繋がりだったのか」

 一通りの口頭報告が終わった後。ゲンヤ・ナカジマ三等陸佐は嘆息を残し、執務椅子の背凭れを軋ませると、同席している局員達を一望した。
 進行役のリーン・ロイド執務官。彼女の現場臨時補佐官としてのギンガ・ナカジマ捜査官。秘書としてのエル・アテンザ事務官。ステイシス邀撃任務に就いているディンゴ・レオン三等空尉。それから──。

「PT事件の際、全二十一個のジュエルシードの内、九つが消失しています。ですが、あくまでも推測です。虚数空間に落下したというのも実際に観測した訳ではありませんし、ユーノ──無限書庫司書長の話では、ロストナンバーが存在する可能性もあるそうです」

 滔々とそう語ったのは、豪奢な蜂蜜色の髪を腰の辺りで一つに結わえた女性だ。
 フェイト・T・ハラオウン。次元航行部隊所属の優秀な執務官で、数年前に試験運用された機動六課では法務担当として辣腕を存分に発揮した女性である。ディンゴを除いて、この場にいる全員とは古くから面識がある。
 この事件──ジュエルシード消失事件の担当執務官は現在もリーンだが、レイン・レンの尋問を終えた後、無限書庫司書長ユーノ・スクライア経由で事件概要を知った彼女側から協力要請があったのだ。
 リーンとしては、可能であればフェイトの力を借りたくはなかった。彼女に対するコンプレックスも無い訳ではなかったが、この心優しき同僚には返し切れていない貸しがある。それに、今回の事件は、フェイトには思い出さなくてもいい事まで連想させる事柄が多い。

「色々と済まねぇな、ハラオウンのお嬢」
「いえ。PT事件は、私が当事者でしたから。ジュエルシードの事も、他人事な気がしませんし。例の対魔導師用質量兵器の開発設計者がスカリエッティとレンなら、構うなって言われても構います」
「そう言ってくれると助かる。しかし、あのクソ野郎二人にはトコトン引っ掻き回されるな、管理局は」

 嘆息した三等陸佐が全員が感じている事を代弁した。彼の執務机上に展開されている仮想ディスプレイには、リーンとフェイトの見解を含めた報告書が投影されている。その内容は、二種類のステイシスと、そのステイシスを管制する人型ユニットに関する詳細な情報だ。

「しかし、まさか二種類のステイシスが存在しているとは思わなかったぞ」

 応接ソファに座ったディンゴが言った。その意見については、直接鎮圧任務に従事していたリーンも同感だ。

「古代遺失物として聖王戦争末期に創られたステイシスを元に、現代版質量兵器としてスカリエッティとレンが開発設計したステイシス。過去の対魔導師用兵器を再現する事が目的だったようで、センサー系統の脆弱性はそのままで本当に助かりました」
「でも、何で弱点を残すような真似をしたんでしょうか? 再現目的というのは理解出来るとしても、ステイシスのセンサーの弱さは酷いものですよ?」

 そう言って肩を竦めたのはエル事務官だ。彼女の疑問はもっともで、リーンもレイン・レンから直接答えを聞かなければ首を傾げ続けただろう。

「どんな機械でも弱点が無ければ面白くない。その設計思想で再現したそうです」

 意味不明な夢想主義というべきか。ともあれ、その設計思想があったからこそ、現在もステイシスに因る被害は最小限に抑えられている。

「あの変態科学者共の頭の中身なんぞ理解出来るか。ロイド嬢、純正ステイシスと現代ステイシスの機体性能差は?」

 唸るように問うゲンヤ。

「現代版の方が高いです。今のところ、十日前にガレリアン准尉が遭遇した機体が確認されている唯一の現代版ですが、運動性が顕著に強化されていて、飛行だけではなく、空戦すら可能と思われます。恐らくガジェットW型の技術を流用したと思われます。空戦ランクは推測でAクラス。原型機が陸戦型だったので航空魔導師には及びませんが、陸戦魔導師には脅威です。また魔力炉の出力強化や銃器管制システムの調整も行われているらしく、単純な火力だけでも現代機は原型機を凌駕しています」
「その上、接近戦用ブレードも装備ですか。JS事件の時、これが量産されていたと思うとぞっとしますね」

 ギンガが眼を細める。仮にそうなっていた場合、《聖王のゆりかご》の攻略戦は更に激化していただろう。ステイシスがスカリエッティの趣味嗜好の範囲に留まっていた事には感謝せねばならない。

「便宜上、原型機をこれまで通り《ステイシス》、現代機を《アンサング》と呼称します。機体の見分け方法は、左肩の武装ハードポイントに通信ユニットが増設されている他、細かなディテールが異なります。通信ユニットは、当初強力な火器の類と思われていましたが、残骸解析の結果、管制機とのデータリンク装置である事が判明しました」

 リーンが仮想端末を操作し、壁に大型のディスプレイを投影する。スクロールされる情報群はゲンヤの手元に浮かぶ報告書のものと同じだ。
 その中から、リーンがレンから得た情報を元に蒐集したデータがある。
 スクロールが止まる。その項目は《非人格型戦闘機人をベースとした質量兵器管制機》。
 ディンゴ・レオン三等空尉が眉間に縦皺を刻む。

「これが敵の指揮官機か。ナカジマが引き取った《ナンバーズ》とやらとは違うのか?」
「JS事件で敵主戦力として機能した戦闘機人《ナンバーズ》は自我を有する自律タイプですが、ステイシスとアンサングを管理する管制機には自我がありません。機械的な自律行動は可能で、駆体の構造に大きな差異は無いと思われます」

 リーンの説明を、共同捜査を行ったフェイトが引き継ぐ。

「現在のところ、この管制機は確認されていません。ギンガ、管制機に関する情報は?」
「各陸士部隊に捜査協力を仰いでいますが、有益な情報は何も」

 眉尻を下げるギンガ。その報告はリーンにとって予想の範疇だった。
 アストラが遭遇したアンサング以降、あの質量兵器達は一機も確認されていない。非常警戒態勢が敷かれたまま、ミッドチルダは不気味な沈黙の中で梅雨を迎えている。この中で先日判明したばかりの質量兵器管制機を発見しろ、という方が無理難題だ。
 そもそも、リーンが無茶な真似をしてレイン・レンを尋問しなければ、この戦闘機人型管制機の存在そのものが捜査上に浮かばなかった。
 それに。件の管制機は非常に強力な隠蔽機能を所持している。

「レンの話ではIS等を装備しておらず、直接的な攻撃機能は殆ど無いものの、AAAクラスの欺瞞魔法に匹敵する非常に優れた機体隠蔽機能が搭載されているそうです」

 それは、例の美術館でリーンがはじめてステイシスと遭遇した時、アンスウェラーと協議していた犯人像の技能と合致する。
 高位欺瞞魔法を行使出来る魔導技術と、それに対応したデバイスを所持し、古代遺失物の危険性を知りながら蒐集するコレクター。マスターとしてのスカリエッティは軌道拘置所の中だが、この現実を正しく咀嚼出来る機能は管制機には無いだろう。

「今回の事件は、JS事件前のスカリエッティが、ジュエルシードのロストナンバー、またはPT事件に於いて消失したと思われているジュエルシード捜索の為に特殊な戦闘機人を開発し、これを投入した事に端を発します。発見後は質量兵器管制機としての機能を行使し、管理局を牽制しつつジュエルシードを回収するつもりだったのでしょう」
「そうなると、随分と昔から動いていた事になりますね、管制機とステイシス達は。JS事件の時には全く動いていなかったようですけど、何故でしょう?」

 エルのそんな疑問には、フェイトが答えた。

「予備戦力として確保していたみたいね。ナカジマ三佐が引き取ったナンバーズ──チンクの話では、管理はスカリエッティではなく、クアットロが行っていたそうだよ」
「JS事件時、クアットロは最終的に聖王のゆりかごの管制を行っています。八神一佐率いる首都航空隊や高町、ヴィータ両教導官を同時に相手にしていたような状況でしたので、そちらまで手が伸びなかったのではないかと思われます」

 その辺りの詳細に関しては、ナンバー4クアットロを直接尋問するしかないだろう。だが、あの戦闘機人はナンバーズの中で最も管理局に対して非協力的だ。レイン・レンのようにはいかないし、JS事件自体、終結から数年が経過している。裏付けを取る必要はあるが、性急ではない。
 今解決しなければならない問題は、別にある。

「事件の概要は理解出来たが、今後はどうするのだ?」

 ディンゴの質問に、リーンは静かに溜息をつく。
 ジュエルシードにロストナンバーがあるのかどうかは分からない。消失した九つのジュエルシードも、現存は希望的観測に過ぎない。可能性があるというだけで、それが現実になる事はほぼゼロだ。虚数空間に落下したモノの回収に成功した事例は、リーンが知る限り、無い。

「ステイシスとアンサングの邀撃はこれまで通り、ディンゴ提督達首都航空隊にお任せします。私はジュエルシード捜索本部の担当執務官として、管制機の確保を行います」

 ステイシス邀撃任務は首都航空隊が引き継いでいるが、ジュエルシード消失事件の捜査は今も陸士108部隊前線第一分隊が担当している。その法務担当の執務官として、リーンにはこの任務を完遂させる義務がある。
 譬えアストラ・ガレリアンが戻らなくとも。譬えフェベル・テーターが復帰しなくても。

「ルブール美術館からジュエルシードを強奪したのは管制機と判断して良いでしょう。速やかに管制機の機体を確保し、あるべき場所にジュエルシードを戻します」

 その宣言に、ディンゴは力強く首肯し、席を立つ。

「了解した。では私は部隊に戻る。ステイシス対策で教導官を呼んでいるのでな。何かあれば連絡する」
「はい。ステイシスもそうですが、アンサングには注意して下さい」

 ディンゴの航空砲撃魔導師としての技術と経験を考慮すれば何の心配も無いが、レンの話では、アンサングは管制機とデータリンクを果たす事で、センサー系統の脆弱性をある程度緩和出来るらしい。更に機体間で情報統制すれば、優秀な一個のユニットとしての機能を発揮する。アンサングの総数は多くはないようだが、仮にあの対魔導師用質量兵器がユニットとなった場合、譬え首都航空隊の精鋭部隊でも甚大な被害を蒙るだろう。それだけは避けたい。
 だからこそ、管理機の確保は最優先だ。

「フェイト。多忙な貴女には頼み難いのですが」
「勿論お手伝いします。さっきも言いましたが、他人事のしない事件ですから」

 笑顔で肯く同僚の何と心強い事か。しかし、同一の事件に対し、捜査に当たる事の出来る執務官は限られている。フェイトの助力を請うのは、本当に行き詰った時か、後が無くなった時だ。
 ともあれ、ここからが正念場だ。
 アストラとフェベルが退院するまでに、この事件にはケリをつける。






 Continues.

 複線の回収と再配置。ボチボチ話は次へ。










inserted by FC2 system