根性戦記ラジカルアストラButlerS

序:自由待機プレイ ♯.4







「本局から執務官、ですか?」

 渡された電子端末搭載のボードをタッチペンで操作しながら、フェベルが疑問符を打つ。
 場所は前線第一分隊隊長室。アストラの私物やら何やらで猥雑且つ雑多な雰囲気を醸し出していた室内も、先日彼が自主的に片付けて、今では理路整然とした立派な隊長室である。
 アストラは椅子の背もたれを軋ませると、後頭部で指を組んで天井を見上げる。これから処理しなければならない面倒事を思うと、軽い頭痛がする。

「おう。ナカジマ三佐の話だと、本日付でうちに設置される捜査本部の司法担当になるらしい。出向扱いで、事件解決までうちに居付くってさ」
「……何の捜査本部ですか? 思い当たる節が多過ぎてパッと出て来ないんですけど」
「何だお前。聞いてないのか?」
「はい。昨日一昨日とお隣の106部隊のお手伝いに行ってましたから」

 リス科を連想させる大きな瞳を瞬かせて、フェベル。

「そういやそうだったな。アンスウェラー、説明よろ」
『説明放棄です。分隊長としての責務を遂行して下さい、我がマスター』

 机上に置かれていた待機形態のアンスウェラーは要請を冷徹に拒否する。
 アストラは眉間に縦皺を何重に刻んで相棒を睨みつけると、面倒くせーと愚痴を挟みながら再び椅子を軋ませた。

「紛失したロストロギアを捜索する捜査本部」

 天井を見上げて思案顔になっていたフェベルが、あっと声を漏らす。合点がいったらしい。
 アストラは電子端末を操作して、彼女が手にしたボードに事件概容を送信する。仮想ディスプレイが幾つか投影され、件のロストロギアの名称や種別、その危険性等の情報が提示される。

「こういうのは、本当は本局の古代遺失物管理課の仕事なんだけどな。行方不明になったロストロギアは解析も封印処理も完全に終わってる代物で、民間に供与されていたもんだ。幾つかの研究機関で尻の穴まで調べられた後、クラナガンのルブール美術館で一般公開。で、紛失したらしい」
「アストラさん」

 あいっという擬音が聞こえて来そうな感じで挙手をするフェベル。

「んー」
「真面目に説明してくれるアストラが違和感バリバリーです」
「大張さんが作画やってるとメカだろうが人物だろうか一発で分かる。腰や太腿が異様に細くなって脚と胴体がスゲェゴツくなるの。でもね、グレート・ダ・ガーンGXの合体はあまりにバリ過ぎると思うんだ。原型ねぇよ!」
『古代ベルカ式作画もその意匠がありますね』
「そーそーこの前二期のTV版録画しておいたビデオテープ見つけてさ。金髪九歳児が斬艦刀振り回すところのムチャっぷりが格好良いの何の。DVD版だと大人しくなってるんだけどさ、俺は断固TV派だね」
「……すいません。ごめんなさい。申し訳ありません。真面目に説明してくれるアストラさんは至って普通です」

 フェベルが項垂れて肩を落とす。どーいたしましてとアンスウェラーと口を揃えたアストラは、好みの雑学を披露した影響か、弛緩させていた口調を少しだけ引き締めて本題に戻る。

「盗難されたかどうかは、今のところ不明。美術館関係者が闇ルートに流した可能性もあったけど、その線じゃ結局何も出て来なかった。向こうも関与は否定。捜査にも協力的だしな」
「ルブール美術館は、確か他にも幾つか危険性の無いロストロギアを保管してますよね。寄贈される物もありますし」

 フェベルがボードを操作して必要な情報のみを摘出する。
 彼女の発言を、アンスウェラーが捕捉した。

『あのジュエルシードの小型縮小版と言える次元干渉型高純度エネルギー結晶体、通称リージェント・ダイヤ。古代ベルカ時代で栄えたとある王国の女王を処刑した時に使われた刃を、そのままアームドデバイスに加工したクィーン・デッド。管理局黎明期に次元空間を漂流していた石像の中に納められていた黒石マグナ・マーテル。ちなみにこのマグナ・マーテルは回収されてすぐに流出し、これを入手した次元犯罪者達は管理局の追跡を巧みに振り切り、捕まった例は皆無だ』
「無害なロストロギアってのは無いのかねぇ……。つーか、そのマグナ・マーテル? そんな危ねぇ曰く付きのモンを寄贈すんなよ、管理局」
『どれも解析と封印処理が完了しているようで、危険性は無いと判断されています。局も回収したロストロギアを永遠に管理保管していられる余力はありません。設備も人も、有限なのです』
「へぇへぇそうでございますね」

 口をへの字に曲げたアストラが席を立ち、備え付けの冷蔵庫から冷えた微糖缶珈琲を引っ張り出す。憧れの青年提督は無糖のブラックを愛飲しているが、舌もお子様なアストラにとって、あれは猛毒に等しかった。
 フェベルには練乳を入れた壊滅的甘味が売りの缶珈琲を投げ渡す。最大限に加減してやったというのに受け取り損ねた彼女は、冷たい缶をお手玉みたいに弄び、最後にはこつんと額にぶつけた。
 アストラは涙眼でおでこを擦る副官に苦笑し。ソファに腰を下ろしてブルトップを開ける。

「ルブール美術館はうちの管轄区画内にあるし、件のロストロギアは封印されてる危険度ゼロの骨董品。地上本部がうちに丸投げする材料は充分揃ってるわな」
「本局の古代遺失物管理課はどうなんですか?」
『今も言ったが、件のロストロギアに危険性はすでに無い。遺失物管理課は次元震を起こすようなA級指定遺失物の捜索に忙しい組織だ』

 つまり、この程度の事件に割く人員的余裕は無いという事だ。
 フェベルは不満そうに眉尻を持ち上げて、アストラの横に腰掛ける。

「忙しいのはどこだって一緒です。うちだって野良ガジェットの掃討任務で二十四時間勤務体制ですよ?」

 不機嫌そうに唇を尖らせる。アストラは気の無い相槌を打って微糖の珈琲を煽った。

「執務官を一人回してくれる辺り、そういう理屈は知ってるつもりなんだろ。うちの部隊が捜査官全員出払ってる事情は汲んでもらえたって事だ。関係者以外の第三者がブツを闇市場に出したとすると、司法関係の専門家がいてくれた方が色々助かる」
「まぁ、それはそうですけど。この資料だと、捜査本部の構成は陸士108部隊前線第一分隊のみで行えってあります。今までの情報から推察するに、ロストロギアの手がかりはゼロです。明らかに人手不足ですよ?」
『前線第二分隊は近日中に納品が決定しているデバイスの機種転換訓練で稼動不能だ。第三分隊が第二分隊の業務を引き継いで二十四時間勤務体制を実施中。第四分隊は組織されて間も無い新人ばかりで、第三分隊のバックアップに回っている』
「……つまり、人員増設は無い物強請りって事ですか……?」

 フェベルはブルトップを開けようとするが、カチンカチンと爪は取っ手を弾くばかりで上手くいかない。
 見かねてアストラが缶を奪い、片手で器用に開けてやる。恥ずかしそうに頬を赤めたフェベルが、廊下から聞こえて来る喧騒に掻き消されてしまいそうな小さな声で礼を告げて、舐めるように練乳珈琲を味わう。

『強いて言えば、現場での緊急事態という項目で医療魔導師を要請すればラナ・フォスター医務官を加える事が可能だ。幸い、彼女のデバイスも整備を終えて戻って来ている。戦力としても総合AAAの航空魔導師は非常に心強い』

 こうした任務で荒事になる可能性は低いが、闇市場に出回ってしまっている場合は強制捜査を執行せざるを得ない。そうなれば諍いの一つや二つは起こらない方がおかしい。分隊一つの戦力ではやれる事は極々限られている以上、不測の事態に備えて、医療魔導師を申請しておくのは保険としてむしろ当然だろう。
 そんな事は第一分隊責任者であるアストラも充分理解しているつもりだ。つもりだが、彼は顰め面で不愉快そうに缶珈琲を飲み干し、屑入れに空を放り投げる。

「だが断る! あの野郎、検査だとか何だとかですぐに拘束しようとする! 逆に身の危険を感じるぞ、俺は!」
『我がマスター。ラナ・フォスター医務官は野郎ではありません。女性です』
「あれ? この前の健康診断じゃ異常無しだったんじゃないんですか?」
「知るか。とにかくパルパレーパの親戚を呼ぶのは反対だ。つーか分隊長権限で絶対に許さん!」

 憤然としたながら、アストラは執務机に戻る。フェベルの不思議そうな視線が背に突き刺さるが、何でもない様子を装った。
 アクセラレータの後遺症について、ラナ・フォスター医務官は確実に何かを掴んでいる。定期健診や健康診断を仕事が忙しい事に託けてすべて拒否し続けて来たというのに。
 直接何かを聞かれた訳ではないし、彼女も確信を得ている訳ではないのだろう。ナカジマ部隊長には何も報告していないようだ。無論、フェベルや第一分隊のメンバーにも何も伝えていない。
 それが彼女なりの気遣いなのか、医師としての配慮なのか、推し量る術は無い。しかし、これを考慮すれば、彼女には相談するべきなのかもしれない。アンスウェラーからもそれとなく薦められたが、何となく癪に障るので見送っていた。
 フェベルが釈然としない顔で机を挟み、アストラを見詰める。

「まぁラナさんもお忙しいので、そもそも要請しても無理かもしれませんしね」
「そういう事だ。で、話を戻すが、そういう事情から本局から来る執務官は貴重な戦力ってー事で、まぁ面倒かもしれんが受け入れするぞ」

 フェベルがはーいと不真面目な生徒の模範的口調で相槌を打ち、ボードに視線を落とし。思案時にする癖の一つのペン回しをタッチペンで披露し始める。
 これで缶のブルトップ一つ満足に開けられないほどに不器用なのだから、その手先がどういう構造になっているのか、割と不可思議だ。彼女の器用さは情報処理とそれに必要な技能に限定されていると、最近のアンスウェラーの見解である。
 ともすれ。本局から来る執務官は捜査を進める上では必要な人材だが、手放しには歓迎出来なかった。下らない縄張り意識を持ち出すつもりはなかったが、向こう側には時空管理局本局所属という一種の矜持がある。警察組織に置き換えれば、所轄と本庁という立ち位置になるのだ。これがなかなか厄介で、陸士部隊の局員を駒としか見ない連中もいる。

「執務官にゃそういうあからさまな輩は少ないけどな。フェイトみたいなのは珍しいけどよ」
『そういう事です。それに我がマスターは、本局所属の武装隊からの転属組であり、フェベルはあのアースラで研修をこなし、短期間ですが乗艦していた経緯の持ち主です。実績もある訳ですから、懸念する事態にはならないでしょう』
「だと言いんだけどな。まぁ何かありゃヴィータ経由で八神に連絡取ってフェイト辺り回してもらうわ」
『次元航行部隊次期執務官長最有力候補がこんな小さな事件の為に来るはずがないでしょう。彼女の伝手に頼るなら、ティアナ・ランスター執務官が経験の為にも適任かと』
「やだ。あいつ、昔の合同訓練の時に、この距離ならバリアは張れないな!を教えてやったのに、俺で試しやがったんだぞ!? ちょっとくすぐったいですって背中から撃ちやがって……! 痛みは一瞬だの間違いだろうが!」
『キャロ・ル・ルシエにアクセラレータを教えるだけに飽き足らず……』
「アストラさーん」
「何だよ!?」

 口論の怒声をぶつける。口を挟んだフェベルは、アストラから理不尽に睨まれてしまうのは慣れ親しんでいるので意を返さず、電子ボードの表面に返して投影されている映像を見せた。

「出向予定の本局執務官さん……えっと、リーン・ロイドさんですか。こちらの方、私知ってますよ?」

 その時、扉が鳴った。失礼しますと凛とした声が聞こえて来て、すっと開いた扉から一人の女性が入って来る。
 執務官用の黒の制服。背に流れる長髪も黒。瞳の色も黒。全身真っ黒で、アストラは尊敬する青年提督をふと思い出した。
 一歩を踏み締める度にふわりと揺れる髪から甘い香りが室内に広がる。上品なそれは香水のもの。優雅な足取りでフェベルの横に立ったその女性──フェベルとの身長差から、ラナとそれほど変わらない長身だ──は、くつろいだ物腰でにっこりと微笑む。

「本日付で本局からこちらに出向となったリーン・ロイド執務官です。宜しくお願い致します」



 ☆



 リーン・ロイド。二十三歳。時空管理局上層部──正式名称は統合幕僚監部──を裏から支えている情報部最高責任者インヘルト・ロイドの孫娘。両親は共に管理局局員で優秀な捜査官を務めていたが、双方殉職している。
 両親譲りの高い魔力資質を持ち、管理局入局を果たしたのは十代の前半。当初は武装隊所属だったが、被疑者に対する著しい攻撃姿勢が問題となり、何度か謹慎や減俸処分を受けている。かなりの重傷者すら出しているので、普通に考えれば懲戒免職ものだろうが、伝説の三提督を裏から支援した情報部最高責任者の愛娘という事情がある為に最低限の処分に終わっている。
 デバイス暴走事件ではクラナガンに置いて地上本部防衛に従事。この頃からは病的なまでの犯罪者に対する悪感情は薄くなり始め、デバイス暴走事件を解決後数年で意思転換。執務官を志すようになり、無事その資格を取得。現在に到る。JS事件でも地上本部防衛に当たっている。
 使用魔法式はミッドチルダ式。一部近代ベルカ式を使用。飛行魔法も使用出来るが、陸戦魔導師として登録。魔導師ランクは陸戦AAA。
 装備デバイスは、元ストレージという風変わりなアームドデバイス『エアベルン』。近代ベルカ式の被験者だった事が原因らしい。

「親の七光り?」

 眼の前できつねうどんをホクホクと味わっているのは、ラナだ。その手元にはテンペストがちょこんと腰掛けて、自分用のミチュアな器にラナのうどんを分けてもらっている。
 読み上げたリーン・ロイドの来歴に対する感想は、実にラナらしくざっくばらんだった。身も蓋も無いとも言えなくもないが。
 フェベルは冷やし中華をちゅるちゅると飲み込み、首を横に振る。

「いえ。実績もちゃんと付随してます。担当した事件数は全部で二十五。未解決事件は無し」
「へー。そりゃ凄いわね」
「……何か機嫌悪くありません、ラナさん」
「執務官ってあんまり良い思い出無くてねー。ほらテンペちゃん、これ冷めてるわよ」
『ありがとですーあちゃちゃちゃあちゃちゃっあちゃほちゃー!』

 茹で上がったタコみたいに顔を真赤にするテンペスト。彼女の口にうどんの切れ端を詰め込んだラナはケラケラ笑い転げている。
 これは児童虐待でマリエルに報告するべきだろうか。最近のラナのテンペストに対する悪戯は些か酷い。
 薄眼のフェベルに気付いたのか。ラナは眼元に堪った涙を芝居がかった仕草で拭い、居住まいを正した。

「あんたんとこの隊長の所為でもー胃がガタガタで」
「それは大変ご迷惑をおかけしております。ほらテンペちゃーん」

 ベソをかくテンペストを手繰り寄せてハンカチで顔を拭いてやる。ここで号泣されて粉砕振動なんてされた日には食堂は壊滅だ。

「で。その実力も備えてる執務官が出張ってあんた達第一分隊が探すロストロギアって、なに?」
「多分ラナさんも名前だけは聞いた事あると思うんですけど……ジュエルシードです」
「十年以上前に発生しながら、未だに事件の情報開示がすべてされていないPT事件の引鉄ですね」

 静かな声に二人が振り返ると、そこにはリーン・ロイド執務官が立っていた。
 隊長室の時と変わらない穏やかな微笑み。知的な黒瞳と端麗な風貌。これで手にしているトレイに載せられているのは焼き魚定食なのだから、清楚な印象は木端微塵だ。アンバランスにもほどがある。

「お隣、いいですか?」
「は、はい。どうぞ」

 礼を告げた彼女は隣の席に腰掛けて、上品に箸を握り、頂きますと折り目正しく合唱。慎ましく食事を始める。
 ミッドチルダでは嗜好品の域にある和食をゆっくりと咀嚼する姿は、何だか妙に板に付いていた。こういうのを上手く言い表す四文字熟語があったはず。

「ほわぁーやまとなでしこさんですねー」
「あーそれです。良く知ってますね、テンペちゃん」

 テンペストが自慢げに胸を張る。リーンは眼を丸くして彼女を凝視した。

「これは、ユニゾンデバイスですか?」
「うちで預かってる、ちょっと変わったインテリジェントデバイスね」

 最近はどこかの分隊長の所為で変な事ばっかり覚えて大変だけど、と。そんな風にぼやいて。ラナはよれた白衣を正してだれていた表情を締めた。

「ラナ・フォスターです。本局所属で、現在陸士108部隊の医療班に出向しています。宜しく」
「リーン・ロイドです。奇遇ですね、私も本局所属でこちらに出向した身です」

 二人の挨拶を見届けて。フェベルが口を開いた。

「あの、リーンさん。PT事件って、なのはさんとフェイトさんが出会った、あれですか?」
「ええ、そうです。知っているのですか?」
「一応お二人とは小さな頃から交流があるので」

 これは偶然です、と瞳を瞬かせるリーン。聞けば、彼女も高町なのは達とは顔見知りらしい。特に執務官という役職上、フェイトとは何度か合同捜査をする機会があったそうだ。

「ジュエルシードがフェイト達とどう繋がっているかも聞いていますか?」
「全部って訳じゃないですけど、それなりには」

 今でこそ顔を合わせる機会こそ極端に減ってしまったが、なのは達が学生の頃はそれなりに親睦を深めていた。JS事件の折、陸士108部隊が機動六課と共同捜査を行う事になった時は不謹慎ながら嬉しく感じたものだ。
 そうした関係もあって、ジュエルシードという古代遺失物を巡る彼女達の複雑な馴れ初めも知っている。勿論事件の詳細に関わらない範疇で、だ。PT事件が局内での知名度と反比例して詳しい事件内容は非公開となっているのが、フェベルが首を突っ込まない原因の一つである。
 リーンは納得したように肯いて、お茶を啜る。

「ジュエルシードは使用者の願いを成就させる願望機……というのは古代文献に記されていたもので、実際にはそんな機能はありません」
「古代ベルカの民って、ロマンティストな奴が多かったのね。聖王のゆりかごはあれだったけど」

 肩を竦めるラナ。ちなみにJS事件では医務官ではなく戦闘魔導師として首都防衛戦に参加した彼女は、大量のガジェットや戦闘機人と一戦を交えている。

「ただのロマンティストだったら良かったんですけどね。種別は次元干渉型。高純度のエネルギー結晶体で、非常に不安定な存在です。願望機としても、使用者の深層心理下にある極めて感情的な衝動に反応して貯蔵されている莫大な魔力を糧に乱暴な手段で実現しようとします。本来の使用用途は今も不明だそうです」
「じゃ、りっぱなインテリジェントデバイスになってマイマスターをおたすけしたいっておねがいしたら、かないますか!?」
「……多分、あんまり良い結果にはならないと思うなぁ……」

 ラナとテンペストの話を聞いていてフェベルが思い出すのは、フェイトが語った仔猫の話である。拾ってしまったジュエルシードで仔猫の姿のまま巨大化したというのだ。
 その仔猫の二の轍を踏んだテンペストが、マイマスタ〜と満面の笑みで、粗暴だが根は心優しい赤毛の少女に突撃する姿を想像する。それはとても可愛いだろうが、仮にそれであの全方位振動粉砕超音波を発せられれば、一体どうなるか。
 脳裏に思い描いた壊滅的なフィクションに密かに身を震わせたフェベルは、気を取り直す為にリーンに言った。

「回収されたジュエルシードは、貯蔵されていた魔力を時間をかけて別に移されたおかげで危険性は無くなって、民間の研究施設に提供された話ですよね?」
「ええ。魔力の運用システムとして精巧に創られていた為に、研究機関や管理局と繋がりのあるデバイス関連企業から供与の話が持ち上がったそうです」
「耳が早いわね、そういう連中は」
「管理局の技術でも模範すら難しい物が多いですからね、ロストロギアは。企業としては特許の影響を受けない技術力の塊な訳ですし、欲しがるのは無理もありません」

 手元の味噌汁を物憂げな表情で見下ろして溜息をついたリーンは、顔を上げて口調を改めた。

「三つのジュエルシードが民間の手に渡りましたが、その内の一つがJS事件の首謀者ジェイル・スカリエッティの手に渡り、試作型ガジェットの主動力にされました。これの駆逐には機動六課も手を焼いたそうです。そちらの方も無事に回収、管理局で厳重にチェックされ、再び封印処理されています」
「つまり、今回紛失したジュエルシードは、その時に民間に貸し出された二つの内の一つって事?」

 ラナが眼を細める。

「そうです。内一つの所在と無事は確認済みです」
「管理局に戻した方がいいんじゃないの?」

 JS事件も数に入れれば、ジュエルシード盗難はこれで二度目だ。残る一つに対して暢気に管理を民間に任せたままというのは、賢い選択とは言えない。

「常識的に考えればそうなんですが、管理局が民間に供与しているロストロギアの保守管理はすべて本局の遺失物管理課が担当しています。現状、あそこに一度完璧に封印処理がされて民間にも貸し出されているロストロギアについてどうこうする余力はありません」
「本当に末期よね、この組織の人材不足」
「ジェイル・スカリエッティの拠点跡地から発見された、彼が蒐集したと思われるロストロギアは非常に豊富です。しかも、どれもが聖遺物クラスで、調査には聖王教会の立会いが必要。猫の手も借りたい状態のはずです」

 さもなければ、いくら管轄内だったからと言っても、陸士部隊に行方不明になったロストロギアの捜索を一任するはずがない。
 だが、ジュエルシードもかつては非常に危険な指定遺失物であった事に変わりはない。あの小さなエネルギー結晶体は、下手をすれば次元世界の一つや二つを簡単に飲み込める規模の次元震を起こす事も可能だったのだ。
 リーン・ロイド執務官は、それを熟知しているようだった。

「ぞんざいな扱いをされていますが、ジュエルシードは、一度は大規模な次元震を発生させた危険なロストロギアです。今回の事件発生を受けて、無限書庫に改めてジュエルシードの資料請求を行いました。あそこの責任者がジュエルシードを発掘したスクライア一族の方らしいので、精度も質も充分に期待出来るでしょう」
「では、事件捜査はその資料が届き次第ですか?」
「いえ。時間を浪費する訳にはいきませんので、別の筋から当たってみるつもりです。ガレリアン准尉の許可は得られましたしね」

 アストラの許可。確かにこの事件の責任者は彼だ。その事実に、今更ながらフェベルは恐怖に近い悪寒を感じる。
 果たしてあの男に、警備も管理も厳重な美術館から紛失してしまった指定遺失物の行方を捜査するなんて、本当に出来るだろうか。特にデリケートさを要求される訳ではないが、いつもの荒事処理とは別次元の問題だ。こういうのは部隊の捜査官が数名の部下を連れて臨むべきだ。間違っても前線分隊に回すようなものではないと、フェベルは思う。ナカジマ部隊長には一体どんな思惑があるのだろうか。あの子煩悩な三佐の事だから、何かしら裏があるのだろうが。

「私はこれからガレリアン准尉とルブール美術館に行きます。可能であれば准尉の副官のテーター一等陸士にも同行をお願いしたいのですが」
「はい。勿論一緒に行きます。あ、フェベルで大丈夫です。テーターは呼び難い名字ですから」
「では、フェベルさんで宜しいですか? 私もリーンで結構です」
「じゃ、リーンさん。改めて宜しくお願いします」

 握手を交わす。細面で華奢な淑女の執務官は、しかし、やはり戦闘魔導師だ。掌の皮は硬質な手応えがあり、見た目よりもずっと大きな印象がある。
 フェイトの同僚だった事もあるが、何となく、リーン・ロイドという人間に対して興味が湧いて来た。だからこそ、一つ懸案事項がある。
 アストラの分隊長としての壊滅的手腕に絶望して、単独捜査をした方がマシだと言い出さないか。そんな事が、今から気になって仕方がなかった。





 continues.





 以下パロディの出典元。

 □大張
 アニメーターの大張正己氏の事。メカニカルデザインや監督も幅広くこなす。ダンクーガのデザイン時を十代で務めた。勇者シリーズやドラグナー等が代表例。デッサンや設定画を無視してとにかく格好良く見せる独特のパースが特徴的で『バリっている』等と言われ、後の世代に影響を与えた。ドラグナーOPverはカルト的人気。アダルトアニメの監督も何本か務めている。

 □グレート・ダ・ガーンGX
 伝説の勇者ダ・ガーンに登場する最強勇者ロボ。分離した第二の勇者ガ・オーンがダ・ガーンXの脚部と上半身に強化パーツとして合体して完成する。
 GXバスターやGXバルカン等、主役勇者ロボの中でほぼ唯一射撃武装を主兵装にし、接近戦はあまり得意ではなかった(ブレードも一応あるにはある。最終回で唐突に使用しようしている)。
 最強武器自体射撃という主役勇者ロボは割と多いが、射撃武装主体はこのグレート・ダ・ガーンGXのみ。
 登場当初こそ圧倒的火力で敵を駆逐していたが、話が進むにつれ、主役メカであるにも関わらず敵のインフレについていけず、最終回辺りは殴られっ放しだった。負けるシーンがとにかく多い勇者ロボ。相手がある意味勇者シリーズの中で最強だったので無理も無い。ちなみに諦め易い、弱気等、割と勇者として及び腰な面もある。

 □二期のTV版
 なのはAsのテレビ放送版の事。DVDで修正を加えられる前のものなので意外と貴重。特にAsだとDVD版の修正が一部顕著過ぎてテレビ版の『良い意味でのハッタリ』が消えているので若干の不満の声も。As8話のシグナム、As12話のフェイトが良い例。

 □ルブール美術館
 フランスにあるルーブル美術館から。リージェント・ダイヤは実在のもの。その他二点に関してもあるような無いような。元を辿るとデバイスレインが元ネタ。

 □この距離ならバリアは張れないな!
 仮面ライダー剣(ブレイド)に登場する伝説の銃使いライダー、仮面ライダーギャレンの最後の名言。強力なバリアを張ってギャレンラウザーの銃弾を弾くギルファアンデットに対し、捨て身の零距離射撃を決行した際に言われた。
 放送終了から五年近くが経過しつつある中、今だにあちこちで見かける地味なネットスラング。

 □ちょっとくすぐったいぞ
 仮面ライダーディケイドの主人公、仮面ライダーディケイドの決め台詞の一つ。平成仮面ライダーを変形させる時に用いられる。

 □痛みは一瞬だ
 仮面ライダーディケイドのライバルライダー、仮面ライダーディエンドの決め台詞の一つ。使用用途はディケイドの『ちょっとくすぐったいぞ』と同じ。ディケイドの出番を喰わない為の配慮か、登場して数回しか使われていない。

 □パルパレーパ
 勇者王ガオガイガーFINALに登場したソール11遊星主の一人。医者の格好を見た筋骨隆々の大男。最初にラナをパルパレーパの親戚と言い出したのは産みの親ことチャティさん。





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