根性戦記ラジカルアストラButlerS

序:自由待機プレイ ♯.7







 戦場はとても良好と言える状態ではなかった。高い天井に設置されたスプリンクラーから冷水が止め処なく放水され、磨き上げられた人造石の床は小川という有様だ。展示場は殆どが破壊され、展示、貯蔵されていた多くの高価な美術品は、廃品業者に引き渡すしか処分方法がない状態。事件報告書に被害総額を計上する作業に慣れているアストラは、無駄に蓄積された経験と鍛えられた観察眼を用いて、その額をどんぶり計算する。

「二十五万ガンプラってとこだな……! くそ、ダブルオーライザーのパーフェクトグレートを一体何個犠牲にすれば気が済むんだ!」
「そんなアストラさんにしか通用しない被害額の計算なんてしてる場合じゃないですよぉ!」

 脇に抱えたフェベルの抗議は、悲痛だった。人型質量兵器と女性執務官が、致死性の攻性魔法を、濁流みたいに行使していたであろう戦場に巻き込まれたような格好だ。これまで場数は踏めど、満足に身を守る手段も無いのだから、それは恐ろしいに決まっている。

「ガレリアン准尉! どうして……!?」

 ノリのままにハンドルを奪って突っ込ませてしまった。これは迂闊だったと、困惑するリーンを前に反省しておく。

「やらずに後悔なら、やって後悔だ。そいつがあれか、ジュエルシード盗んだ奴か、ロイド」

 アストラが顎で示した先には、ういんういん手足をバタつかせる蛙みたいな人型質量兵器が壁に埋もれている。同じ動作を繰り返しているところは、何となく微笑ましく愛嬌があった。

「まだ確認は取れていませんが、恐らくそうでしょう」
『機動歩兵型の質量兵器です。火力が非常に高く、無計画な正面突破は危険過ぎます』
「弾幕が牽制であり、本命でもあります。ただ他の攻撃機能は不明です。接近戦は不得意なのは、あの不器用さを見ていると良く分かりますが」
『あれだけの火力を備えた機体です。接近戦闘用の迎撃装備も搭載していると予測されます。しかし、欺瞞系魔法を行使して繊細な作業を行うようには思えません。ジュエルシード盗難事件と繋がっているのは間違いないでしょうが、可能な限り原型を留めて機体を停止させる事を推奨致します』

 油断無く投擲用ダガーのような魔力刃を何枚も構えるリーン。その胸元で揺れる突撃槍を類似縮小させたシルバーアクセサリが平坦な警告して注文をつける。
 一人と一機は現場と同様に頭から爪先まで水浸しだ。水を吸った黒髪が、文字通り濡れ羽根色になって緊迫した女性執務官の赤い頬に張りつき、風呂上りのような無防備さを披露していた。スプリンクラーの放水が冷たいのか、吐息は白く、戦闘機動という激しい運動を行った身体は彫ってているのか、顔は薄っすら紅潮している。
 筋の通った鼻の先から雫が落ち、浮き彫りになっている鎖骨に溜まっていた水は、息遣いの度に露出度の高い法衣型バリアジャケットの中を通って、しなやかな質感の大腿部をすぅーっと伝ってゆく。投擲型魔力刃を構える腕の角度的に綺麗で妖麗な腋が微かに垣間見えた。
 フェベルがもぞりと身じろぎをする。ふっくらとした苺色の唇をへの字にして、確定的な状況証拠が揃っているのに容疑を否認する痴漢に向けるような眼で、じっとアストラを見詰める。明らかに、疑惑の瞳。でも、一抹の不安もひっそりと漂っている双眸。

「アストラさんって、胸とか、やっぱり大きい方がいいんですか?」
「なるほどな! 大体分かった!」

 勿論大きい方がいいに決まっている、とは言わなかった。言えば、この蛙型質量兵器──人型というより、そう呼んだ方がしっくり来る形状なのだ──を制圧した後、この現場の事後処理がとてつもなく面倒になると本能が危険を囁くのだ。この手の処理は副官のフェベルの手腕頼りなのである。彼女の機嫌を損ねるのは建設的とは言えない。

「ロイド、相棒寄越せ! こっちは丸腰だ!」
「はい!」

 リーンが首に提げる為のチェーンを外した瞬間、今まで健気に機体を動かし続けた成果なのか、蛙型質量兵器の機体を拘束していた壁が土砂崩れを起こしたように崩壊した。よろめきながら、しかし、スムーズな機動でアストラ達に潰れた頭部を巡らせる。
 重厚な金属音。鋭い接続音。三人と一機に向けられる黒い銃口。
 掃射。
 爆音。
 濁流。
 飛び退いたアストラの軌跡を抉った対魔導師用の攻性射撃魔法は、バンパーに美少女を描いた一般車輌を蜂の巣にした。FRPのボディなんてダンボール以下だった。エンジンはズタズタに引き裂かれ、燃料タンクを破壊。衝撃で爆発する。
 爆風に煽られて脳天から頑丈な床に叩きつけられたアストラは、腹這いで潰れた蛙みたいに地面に落下した。激痛にのたうち回りながら、それでも身を呈して守ったフェベルと雁首揃えて悲痛な猛りを迸らせる。

「ああああああああ! ローンがまだ二年残ってるのにぃ!」
「あああああああああ! 長門有希がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 スプリンクラーの放水以外でも、二人の頬は濡れた。二人の頭上を放物線を描いたバンパーの破片がくるくると飛翔してゆく。ぐにゃりと歪んだそこには、カーディガンを羽織った小柄な少女の微笑みが──!

「こちとらただの質量兵器にゃ興味ねぇんだよ! 美少女型かガンダム型かライダー型がいるんだったら来いやぁ! あんまり調子乗ってると聖王教会の医療施設で栄養食食べさせんぞデク人形ぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!」

 再び掃射。号泣真っ最中のフェベルの尻を容赦無く蹴飛ばして射線から離脱したアストラは、茫然とするリーン目がけて突進する。追い縋る弾頭なんて眼中に無い。ところが濡れた人造石の床に思い切り足を滑らせて、前のめりに転倒。

「倒れる時も前のめりにィッ! ギザマゼッダイニユズザン!」

 憤怒と怨嗟が呂律を狂わせ、咆哮が識別不能の鼻濁音に変わる。
 魔力を集中。強打した顔面を足代わりに人体の限界を超えた跳躍。天井高くまで舞い上がった怒れる青年准尉は、獅子に組み伏されたシマウマみたいな顔をしているリーン・ロイド執務官の前に華麗な着地した。

「相棒プリーズ!」
「は、はい!」

 差し出された待機形態のインテリジェントデバイスを奪って身を切り返す。振り返った背後には、照準を改めてこちらに定めた瞬間という風情の蛙型質量兵器。防御魔法の構築展開が間に合うかどうかという時間を。

『Form up type berserk』

 アストラ・ガレリアン陸准尉はバリアジャケットの構築に賭した。
 超重量突撃槍型インテリジェントデバイスに登録されている専用防護服の術式が、中央回路に供給された微々たる魔力を糧として構築展開。血を連想させる紅光色の魔力光が憤怒に眼尻を吊り上げた青年仕官を内包。砕けた硝子が崩れ落ちるようにそれは弾ける。
 腰に外套を翻す、袖の無いラフなバリアジャケット。緩やかながら逞しい身体の曲線を、宵闇色の衣服はくっきり浮き彫りにし。そこに走る紅光色のコントラストは血管の如き様相。
 威圧的且つ攻撃的なその装いは、陸士部隊が定めるバリアジャケットの構築規定に明らかに違反しているもの。お行儀の良い主流防護服もアンスウェラーに用意されているが、今は他人の眼を気にするような時ではない。あれは襟が詰まっていけ好かない。
 槍身三メートル、本体重量三○キロの突撃槍を事も無げに振り抜いたアストラは、獰悪に口元を歪めた。
 蛙型質量兵器の銃口に集束していた夥しい魔力素が爆発する。

「原型留めて機能停止なんて半殺しみたいなオチで終われると思うなよぉ──!」

 掃射。
 大気を蹴散らして床を濡らす冷水を引き裂く魔力弾頭の濁流が、横っ飛びに回避機動に移るアストラを追う。スプリンクラーの放水と、質量兵器が薬莢の代わりに排出する魔力残滓と、建物のあらゆる破片が、溶け合い踊る最悪な視界の中を、青年仕官と女性執務官は全力で奔る。フェベルは黒コゲになった対有機生命体用コンタクトヒューマノイドが描かれたバンパーを盾にしてちょこちょこと割れた窓から外へ脱出した。

『非力な少女を無視して逃げ惑う男とは。情けない』
「嗚呼!? 俺は相手がどんな人類規格外野郎でも右手一本で喧嘩売って説教垂れる不幸な高校生じゃねぇんだよ! 況してや一方通行と書いてアクセラレータと読む最強最弱でもねぇ! 一生懸命と書いて、アツクナレータが俺の二つ名よ!」
『ならばその中二病的名称に従って非戦闘員のフェベル・テーターを守ってはどうですか?』
「俺は、俺の命がぁ……最も! 惜しいし! 大切なんだぁ!」

 頭の中でフェベルが涙眼で酷いですアストラさん! なんて両手を振り回して暴れた。無論無視。知った事か。戦闘に熟達した総合AAAクラスの魔導師が最大出力で行使するスティンガーレイを馬鹿みたいに連射して来る質量兵器相手に、自分以外の誰かの安全を確保しつつ立ち回るなんて、一体何の罰ゲームだ。

「どうしてフェベルさんを連れて来たんですか!?」
「ノリと勢いだ! 人生それで何とかなる!」

 罵声みたいな抗議を衝き返す大声も、敵の火力で掻き消される。
 とにかく視界が悪い。その上この火力。常套の突撃では正真正銘、蜂の巣にされるだけだ。
 声を上げての意思疎通には無理があるので、アストラは回避行動に没頭しながら思念通話を接続する。

『何かねぇか、このゲコ太かサベージか分かんねぇ質量兵器黙らす方法! スティンガーレイなんて地味な魔法とか砲撃で抜けねぇか!?』
『ゲコ太とサベージが何なのか理解に苦しみますが、かなり厳しいです! 確かにスティンガーレイは弾速と対防御魔法に秀でている以外に特筆すべきところはありませんが、これだけの密度で連射されては生半可な砲撃魔法では削られて相殺されます!』
『点が壁に勝るという訳ですね。それから我がマスター。スティンガーレイはハラオウン提督が信頼する射撃魔法です。かつてこれ一つでフェイト執務官を制圧した事もあるそうなので、舐めると痛い目を見ます』
『もう見てるわ! ついでにさもアッサリ納得してんじゃねぇ! とにかくこのままじゃジリ貧だ!』

 蛙型質量兵器が重たげに脚部を動かす。微かな地響き。肩の円筒型の部品が天井を仰いだ直後。そこから射撃魔法を制御解放する。垂直に発射された濃密な魔力弾頭は天井に達すると、光が屈折するように軌道を変えて天井で弾けた。数えるのも馬鹿らしい数に離散した魔力弾頭は、白銀の尾を曳いてアストラとリーンに一斉に降りかかる。

『スティンガースナイプの広域バリエーションと推測されます。回避不能』
「冷静な報告サンキューベリマッチィ!」

 二人は示し合わせたようにその場に踏み止まって防御魔法を構築。
 直撃。
 轟音。
 衝撃。

「っ──! 半端ねぇなおい!」

 脳が痺れて身体の隅々にまで倦怠感が行き渡る。対物設定にされた敵の攻撃魔法は、通常の殺傷性能に対象の魔力を削ぐ機能が付与されている。この不細工な質量兵器が、完全に対魔導師戦を前提にしているのは明白だ。何の装備も対策も施されていない陸士部隊では制圧出来たとしても二桁を上回る殉職者を計上する。何とかこの場で機能停止させる必要がある。

「くっそ。マジでフェベル連れて来たの後悔して来た……!」

 幸いにも敵はこちらに釘付けだ。外に出た彼女の身に危険が及ぶ可能性は低いと見ていいが。しかし、それも希望的観測である。そもそも──。

『リンカーコアの有無で目標を選定するタイプなら、魔力資質を持たない民間人にはほぼ無害と思われますが、それ以外に対しては無差別破壊兵器です。市街地に出す訳にはいかないので、ここが絶対防衛線かと思われます。四の五も言っていられません。原型を留めたままでの目標の確保は諦めましょう。このままでは民間人に大量の死者が出ます』

 主の懸念を滔々と語るデバイス。その通りだ。こんな無差別大量破壊兵器を表に出す訳にはいかない。そもそもこれだけの騒ぎを起こしている。警報装置もへったくれも無い。今頃は近隣の陸士部隊に通報が届いているはずだ。危険だから近付くな、なんて警告をしている暇もこちらには無い。

「おいロイド! あんたAAAクラスだろ! 何かねぇのか!?」
「高町教導官の砲撃魔法なら蹴散らすのも容易でしょう! そもそもAAAだって万能じゃないんです!」
「あのヤブ医者と同じ事言うなよ頼りにならねぇなぁ! 誰かあの最強かーちゃん呼んで来いクソッタレェ! 金髪美女執務官でも可! とにかく主人公クラス連れて来いやぁ!」
『では潔く白旗でも振りますか?』
「お断りです!」

 リーンが右手を一閃させる。回避行動中の無茶な姿勢から投擲された魔力刃は射撃魔法の応酬を掻い潜って質量兵器の肩──スティンガーレイの銃口付近に集中する。敵の頑健な対魔導師戦用装甲を貫くには、あまりに脆弱だった刃達は、かつんと装甲に刃先を突き刺すだけに留まり──。

「ブレイク!」

 リーンが指を鳴らした直後に爆発する。高性能指向性爆薬に匹敵する燃焼ガスが刃の中で弾け、敵の装甲の内側に殺到した。六砲身を束ねた回転連射式の銃口が根元からぐにゃりと歪んで、質量兵器の右腕が肩口から吹き飛ぶ。

「もう一発──!」

 リーンが返す身で左肩の六砲身を狙うが、敵は己の損害も無視して背部に搭載した迫撃砲を稼動させる。対防御魔法の術式が組み込まれた魔力弾頭の絨毯爆撃。今度あれを撃たれれば、この建築物そのものが保たない。

『我がマスター』

 分かっている。知っている。口頭詠唱は敵の爆音じみた射撃音ですべて押し潰されてしまったものの、すべて構築済みだ。後は締め括るべき撃発音声を入力してやれば術式は完成。制御解放もされる。正直最近の自分の身体状況を鑑みて使うのは逡巡を挟んでしまうが。

「先にする後悔は後悔じゃねぇ。そいつはただの躊躇だ。濁流の中の石橋だって、崩れるかどうかは渡って見なきゃ分からねぇ! アクセラレータ──!」
『──HEATS Gear First 【Double】Gat Ready GO』

 人体を戦闘に最適化する魔法が行使される。身体が一斉に批難の軋みを上げて、外圧効果のある専用バリアジャケットを不服げに膨れ上げる。戦闘に必要なすべての筋肉の肥大化は刹那。不必要な臓器と細胞はすべて強制仮死状態に。火花さえ散らす勢いで加速度を上げた神経電流を身体中に循環。毛細血管が弾ける。こめかみから流血。頬を伝う赤い体液。
 それを舐め取る事が、この極限身体強化魔法の完成を祝福する儀式。
 微かな倦怠感が意識に不躾な介入をして来る。最近になって第一段階で感じるようになったこれが、アストラは気に喰わない。

「ヤブ医者に相談するべきかなぁ……!」

 人間の身体性能のそれを遥かに凌駕したアストラ・ガレリアンは、足元に転がっていたコンクリートの破片を発射態勢に入っている敵へ蹴り飛ばすと、跳躍。蹴散らされた飛沫が波のように周囲を叩く。
 蛙型質量兵器へ突撃したアストラは、背から迫る『自分が蹴り飛ばした破片』に反応して、こちらの速度に対応出来ない敵の顔面へアンスウェラーを放つ。確かな手応え。穂先が二つの頭部センサーの中央を穿ち、容易く串刺しにする。後頭部から生えた穂先が構造物の部品を臓物のようにぶち撒ける。
 鋭敏になった神経が背後に驚愕の気配を感知する。喩えリーン・ロイド執務官が優秀な執務官でAAAクラスの魔導師であったとしても、身体強化増幅魔法を過剰詠唱したとしても得られない身体機能を容易く手中にした今のアストラは、充分な驚きに値する存在だ。
 相棒を引き抜き、装甲を足場に跳ぶ。遅れて飛来した破片が穿たれた風穴を埋めるように敵顔面を直撃した。堪らず後退する蛙型質量兵器の全身を──。

「百を超えし処刑の刃。咎人を砕け──!」
『Cold dagger Execution Shift』

 敵の絨毯爆撃と正面から撃ち合いが出来る弾幕──投擲用ダガーの魔力刃を帯状魔法陣付きで構築していたリーンが、アームドデバイス・エアベルンの撃発音声を以ってすべてを全自動投射。百を超える闇色の刃は無防備な質量兵器の前面を覆い尽くすように敵装甲を喰らい──。

「てめぇのドタマは俺が穿つ──!」

 落下したアストラがアンスウェラーで質量兵器の潰れたみたいな頭部を頭頂部から穿ち、正真正銘叩き潰し──。

「業火を以って贖罪を成す!」

 追加入力によって百の刀身が起爆。泡のように爆ぜる灼熱の炎は瞬く間に質量兵器を包み込み、その巨躯を飲み込んで、黒煙の中に嚥下した。



 ☆



「被害総額はアストラさんの予想を大幅に上回って百二十万ガンプラでした」
「何もかもそうだろ♪ 罰の悪い事情にはいつも〜蓋して〜食わせ物のリアル〜♪」
「……その主題歌、何か今のアストラさんにピッタリです」

 こめかみに脱脂綿をペタリと貼った青年仕官は、何食わぬ顔で昨日届いたばかりの定価五桁を行くパーフェクトグレート・ダブルオーライザーを組み立てに余念が無い。完全に没頭している。陸士部隊の分隊長室は、スミ入れや繋ぎ目消しは勿論、詳細な塗装や工具を用いた各所のプロポーションの微調整も含め、本格的なプラモデル制作現場と化している。
 全開まで開けられた窓からは常に新鮮な空気が流れ込み、塗料の匂いを速やかに換気していた。射し込む斜陽がポカポカと執務椅子を嬉々として軋ませるアストラの背を見守る。
 そんな何でもない、陸士108部隊の前線第一分隊分隊長室の、いつもの光景──。

「いつもじゃないですおかしいです! 私は流されませんよ、この情景描写に!」
「何訳分かんねぇ事言ってんだ? つーかさ、最近思ったんだけどよ。何かお前、ブラックスミスのリサに似てるよなぁ。特に三巻以降の。あのアニメ、すげぇ良いシーンに限って何故かセシリーの尻が際立つんだよなぁ。話無視してそっちに眼と意識が奪われてしまうぜ。腋と乳といい、あれ絶対確信犯だ。素晴らしいよムスカ君」
「知らない人の名前が沢山飛び交ってます! 脳内で勝手な閣議決定しないで下さい痛々しい! というかいやらしいですアストラさん! それから! 私の車弁償して下さいよ本当に!」
「んなキレんなよ。どうせペーパードライバー一歩手前の癖に。まぁ何だ。悲劇の殉職を遂げた長門有希に関しちゃ昨日提出した被害・損失備品に突っ込んでおいた。後は隊長の采配に任せる」
「ナカジマ三佐に直談判に行ってきます! 午後の業務はアストラさんが勝手にして下さいね! あーでも鑑識の報告ががががが!」
「俺はガンダムにはなれない……独りじゃ何も出来ない……!」
「する気無い癖にィ!」

 無力を悔やむ馬鹿隊長の顔面にノート型の愛用電子端末を正確なフォームで投擲したフェベルは、バタバタと分隊長室を飛び出してゆく。眉間に突き刺さる薄い高分子金属を毟り取りながら耳をそばだてると、ずるべたーん! とか、すてーん! とか、派手な騒音を蛙が潰れる鈍い悲鳴が聞こえた。
 凶器と化した電子端末をソファに放って、アストラは黙々とプラモデル製作に戻る。
 あの人型改め蛙型質量兵器の戦闘の翌日。ルブール美術館は陸士108部隊によって封鎖され、前線第一分隊と一部の後方支援用人員が状況検分や鑑識作業に従事している。アストラ達三名は傷の手当ての後に簡単な事情聴取。
 それを終えたリーン・ロイド執務官は残されていた監視カメラの映像から美術館側に抗議交じり説明を求められたが、あの質量兵器の出所も含めて、攻勢を強めて噛み付いている。盗難に合ったジュエルシードと対魔導師用を前提に設計されたとしか思えない蛙型質量兵器の因果関係の調査は、これからだろう。捜査本部はこのまま細々と継続させると、口頭報告の時にゲンヤ・ナカジマ三佐が言っていた。通常業務と平行して、しばらくはあの黒髪執務官と仕事をこなす事になりそうだ。
 アストラに蹴飛ばされた尻に痣を作っただけで終わったフェベルは、事後処理その他諸々でご覧の剣呑っぷりだ。ローンが残っていた彼女の愛車をアストラが己が嗜好が赴くままに塗装を弄くり、且つ完膚無きまでに破壊してしまったのだから無理も無い。

「うーむ。流石の俺も後ろめたさを感じずにはおられんな」

 集中出来ない上に気分も乗らない。アストラは溜息をついて額に触れる。乱雑に貼られた脱脂綿は慣れ親しんだ肌触りだ。
 医務官として部隊長を超えた権限を行使出来るラナ・フォスターに待機命令を出された以上、現場は部下達に任せるしかなかった。アンスウェラーも徴発されて手持ち無沙汰。だからこそこんな慌しい時にプラモデル制作に精を出している訳なのだが。
 取り敢えず昨夜まで収集していた情報でも纏めようかと、制作途中のプラモデルを箱に戻して電子端末を立ち上げた時。ノックも無しに扉を開けて、長身の女性が白衣を翻して閉塞感のある分隊長室に上がりこんで来た。

「よーヤブ医者。眼つきが徹夜明けって犯罪者みたいだぞ。ていうか人相がまるっきり木山先生になってるぜ。くろのさんが描いてくれた顔にしろよ、ちっとは可愛げが出る」
「相変わらず訳分かんない独り事。ホント、そういうところ子供そのものね。子供は嫌いよ」
「何だ、分かってんじゃねぇか」
「はぁ? とにかくそのオタ的発言はやめて。頭痛くなる。ちなみに今のあんたはチンピラみたいな顔よ。……窓、閉めなさい」

 有無を言わず。是非も問わず。執務机に身を乗り出したラナが言った。
 彼女に化粧っ気に乏しい風貌で凄まれるのは、慣れている。その剣幕も。険悪な雰囲気も。剣呑を潜ませた口調にも。半ば喧嘩友達に等しい間柄だからこそ、冗談で成立しているところもある。敷かれた一線。気圧とまではいかない。跨げば、それは本気。
 今のラナは、それを飛び越えている。今すぐにでも胸倉を掴んで、元槍型の口の達者なインテリジェントデバイスを眉間に衝き立てかねない感情を、彼女の全身から燻らせている。
 その理由と、何となく察して。面倒だなぁと気怠げな物腰で窓を閉める。言われるままに扉も自動閉鎖する。
 それを確認するなり、ラナは単刀直入に口火を切った。

「アクセラレータを使用禁止にしなさい。今後一生」





 Continues.





 以下パロディの出典元。

 □単位ガンプラ
 初期のガンプラは一個辺り平均三百円だったので、一ガンプラ=三百円という事で、単位『ガンプラ』が生まれた。生みの親は漫画家の島本和彦先生。

 □ダブルオーライザー
 機動戦士ガンダム00の二期に登場する00ガンダムに支援戦闘機オーライザーが合体した、劇中最強のガンダム。分身どころか機体が量子化したり、結構ぶっ飛んだ行動をやらかした。
 パーフェクトグレートはガンプラを代表する1/60の超精密プラモデルの事。内部構造を作って装甲を貼り付ける精緻さ。ダブルオーライザーのパーフェクトグレートは一個二万六千円でパーツ数は実に千以上。

 □倒れる時も前のめりにィッ!
 勇者特急マイトガインに登場する災害救助勇者ロボ、ガードダイバーの死に際の台詞。子供を守る為に敵部隊に蜂の巣にされた漢勇者ロボ。

 □ギザマゼッダイニユズザン!
 仮面ライダーBLACK(RX含む)の名言の一つ。BLACKを演ずる倉田てつをの滑舌がお世辞にも良好ではなく、鼻濁音だらけに聞こえてしまう。

 □相手がどんな人類規格外野郎でも右手一本で喧嘩売って説教垂れる不幸な高校生
 とある魔術の禁書目録の主人公、上条当麻の事。

 □一方通行と書いてアクセラレータと読む最強最弱
 とある魔術の禁書目録のもう一人の主人公、アクセラレータの事。

 □一生懸命と書いてアツクナレータ
 ニコニコ動画に於ける松岡修造の事。

 □ゲコ太
 とある魔術の禁書目録のメインヒロイン(?)で、とある科学の超電磁砲の主人公、御坂美琴が好む蛙型マスコットキャラ。

 □サベージ
 フルメタル・パニックに登場するソ連製AS。過酷な運用条件下でもオペレータを決して裏切らない堅牢性はもはや健気なレベル。

 □何もかもそうだろ♪ 罰の悪い事情にはいつも〜蓋して〜食わせ物のリアル〜♪
 機動戦士ガンダム00の第二期の2クールまでの主題歌のサビ。

 □ブラックスミス
 アニメ化されたライトノベル「聖剣の刀鍛冶」の事。

 □リサ
 ブラックスミスのヒロインの一人。健気な金髪幼女。

 □セシリー
 セシリー・キャンベル。ブラックスミスのヒロイン兼主人公。自称「私は頭が悪い!」と断言する、理想を諦めない徹底した負けず嫌い。巨乳だったり衣服が妙にエロい所為で、アニメではナチュラルなエロさを発揮する。
 が、そのアニメ版は色々端折ってしまっていた為、とあるエピソードでは物凄い乱暴者、エゴイストになっていたり。原作を読まないと誤解されそう。

 □木山先生
 木山春生。とある科学の超電磁砲に登場する大脳生理学の研究者。通称残念美人。色々薄倖な人。アニメ版では上条先生と共に出番が増えて感情移入がし易い。

 □子供は嫌いよ。
 木山先生の劇中での発言。その嫌いな子供が好きになり、とある行動を取ってしまうのですが……。




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