魔法少女リリカルなのは SS

Yagamiマガジン参加SS

ザフィーラとアルフ







 鐘が鳴る。
 飾り気が少なく、これと言った特徴が無い教会がある。外見は真っ白。シミ一つ無い綺麗な白だ。
 南の島にある小さな教会。それを連想すれば、想像は難しくない。そんな教会である。
 家族、友人、仕事先の同僚。今まで支えて来てくれた人間達に見守られながら、一組の男女が赤い一本の道を歩いて行く。
 歩調は緩やかだ。一歩一歩を噛み締めるように進んで行く。
 男女の行き先には、十字架に背を向けた牧師が佇んでいる。小脇に抱えた聖書と握った小さなロザリオが、牧師に厳かな雰囲気を与えている。
 ほのかな陽の光が、ステンドガラスを照らしている。職人の手によって丹精込めて製作された工芸品は、見事な色彩鮮やかな光で男女を祝福した。
 赤い道を歩き切った男女が、牧師の前で歩みを止める。
 牧師は微笑をたたえ、男女を見詰めている。

「指輪を」

 牧師の言葉に、白いドレスで着飾った少女が箱を持って来た。
 生まれたばかりの赤ん坊を扱うように、牧師は箱を受け取った。
 男女の目前で箱を開ける。中には二つの指輪が入っていた。
 シンプルなエンゲージリング。
 これを着け、誓いの言葉を結べば、男女は晴れて夫婦となる。支え、支えられ、苦楽を共にし、死ぬまで一緒共に過ごす事になる。
 男女は幸せそうに笑った。
 幸せの絶頂。この瞬間を超える至福は恐らく世の中には存在しないだろう。
 だが、その笑みは、次の瞬間に凍り付いた。氷解する事の出来ない氷になった。
 牧師が小刻みに痙攣を始めた。ゆったりとした黒い牧師服が、波に揺れる湖面のように動き回る。背中が歪み、陥没し、弾けた。
 布が舞う。
 凍ったのは男女の表情だけではなかった。教会内すべての空気が凍った。
 戦慄と絶句。そして騒然。
 前のめりに倒れそうになりながら、牧師は立っている。聖書とロザリオを床に落とし、エンゲージリングが納められた箱を握り潰し、病的な猫背になって男女を 見据えている。
 それで顔は微笑のままなのだから、もはや恐怖以外の何者でも無い。
 その顔が、乾いた音を上げて百八十度回転した。壊れた人形のように。油の切れた機械のように。
 悲鳴が響く。
 男女は逃げられない。眼には見えない拘束を受けている。
 家族が、友人が、職場の同僚が、今まで二人を支えて来た人間達が、果敢にも救出に向かう。
 牧師の笑みが変わる。口許を引き上げ、頬を歪め、眼を細める。
 再び、悲鳴。
 五分後。教会は血に染まった。



 ☆



 ザフィーラは思った。女性という生き物は誠に不思議だ。そう、例えるなら、どこに吹くか分からない気ままな風のようだ。その風に晒されている身としては堪った ものではないが。
 鳴海市でも有名な大型ショッピングモールの一角に、子犬フォームのザフィーラの姿があった。エレベータ横にある待合用のベンチにちょこんとお座りをして、何をする訳でもなく、 眼の前の光景を静観している。たまに大きな欠伸をして、眠そうに眼を瞬かせるが、それだけだ。

『暇そうだな、ザフィーラ』

 すぐ横。距離にして数センチ隣。そこから思念通話が来た。
 青い雑種犬を気取っているザフィーラの横には、苦笑を浮かべたクロノが座っていた。初夏を迎えつつある最近の気温に対抗する為、白いシンプルシャツという出で立ち だ。
 ザフィーラは憮然と答えた。

『暇そうなのではない。暇なのだ』

 クロノの苦笑が深みを増す。

『同意するよ。僕も暇だ』
『……常々疑問だったのだが、女という生き物は、何故こうも買い物が長いのだ』

 伏せをして、ザフィーラ。
 シャマルやはやての買い物に散歩がてら付き合う事の多い彼にとって、こうした待ち時間は慣れ親しんだ時間だ。だが、その度に思う。
 長い。とにかく、長い。
 そもそも服を選ぶのに、何故にそんなに時間が必要なのだ。暑いのなら半袖で薄手のシャツを選べばいいし、寒いのなら長袖で厚手のシャツを選べばいい。その上で 上着を引っ掛ければいいではないか。

『これまた同意だよ。最近、母さんやフェイトと買い物に行く事が多いんだが、どうにも待たされる事が多くてね。そんなに暇でもないんだが』

 ちなみに、今日はかなりの大所帯で買い物に来ている。久しぶりに、というか奇跡的に全員の休暇が重なったのだ。八神家、ハラオウン家、高町家、月村家、バニ ングス家、その御付人。その数、実に二十人以上。
 荷物持ちは男子がジャンケンの元で決定。敗者は高町恭也と高町士郎とユーノ。勝者はクロノとザフィーラ。別にどちらでも良かったのだが、ゆっくり出来るの ならと、クロノはザフィーラと共にベンチで時間を過ごしていた訳だが、今のように暇を持て余してしまっている。まぁ、荷物持ちとして同伴したとしても、暇な 事に変わりはないだろうが。
 クロノが欠伸を噛み殺す。背もたれに肘をかけ、眠そうに眼を擦った。

『疲れているな、ハラオウン執務官』
『ああ。最近多発してる無差別殺人のせいで、睡眠時間が少なくてね』
『……結婚式場が狙われている、あれか』
『ああ。アースラの管轄じゃないんだが、オブザーバー的な役割で呼ばれてる。で、どういう訳か捜査まで手伝わされてる。レティ提督も人使いが荒い……』

 最近、ミッドチルダを騒がせている事件がある。結婚式場を狙った武力襲撃だ。被害者は全員死亡。死因は殺傷設定による攻撃魔法の直撃。特に新郎新婦―― 結婚式の主役たる人間の損傷具合が酷く、犯人の残虐性が伺えた。目的は未だ不明瞭で、犯行声明も無く、目撃証言も少ない。とにかく無差別に式場の人間を 殺害しているが、事件は結婚式場に限定して起こっていた。管理局ではこの点に着目し、無差別殺人として犯人の行方を目下捜索している。
 この事件のせいで、ミッドチルダのブライダル関連企業は軒並み右肩下がりで利益を下げている。経済打撃は意外と馬鹿にならない。また、市民からの怒りの声 も凄まじかった。何せ結婚式を狙って起こっている殺人事件である。至福の時を死を持って強制的に終了させるのだ。関係者でなくとも、憤怒を覚えてもおかしく はない。

『進展はあったのか? シャマルもこの件で何度か呼ばれていたが』
『ああ、彼女の検索魔法のお陰で多少は進んでるが……。どうもロストロギアが使用されてるみたいなんだ』

 無差別殺人にロストロギアを使用。ザフィーラの顔に強い険が浮かぶ。子犬フォームなので迫力はあまり無い。

『人間の殺害に遺失物を使用か。酷いものだな』
『過去に同じような事件は何回かあったが、今回は少々度が過ぎている。対策本部では、本当に人間の犯行なのかも疑ってる程だ』

 そんな物騒な会話を続けていると、アルフとフェイトが満面の笑みで戻って来た。二人揃って大きな紙袋を下げている。

「お帰り。終わったのか?」

 疲れた表情を消して、クロノは二人を迎える。

「ううん、まだ。もうちょっとかかりそう」

 残念ながら、女性の”もうちょっと”は当てにはならない。ザフィーラもクロノも、それを身を持って知っている。
 密かに肩を落とす二人には気付かず、フェイトはニコニコしながら紙袋を開けた。
 中から取り出したのは、黒のアウターシャツである。

「クロノ、夏用の上着とかあまり持ってないでしょ? 母さんと一緒に選んだんだ。どう、かな?」

 期待と不安が混ざった視線で、クロノを見詰めるフェイト。
 クロノは衣服に関しては無頓着である。私服も着る機会が少ないし、仕事中は執務官の制服だ。なので、服のセンスというものを理解していない。訊かれても 良く分からないというのが正直な感想である。

「最近背も伸びてるから、それに合わせてみたんだけど」

 上着を受け取ったクロノは、神妙な顔付きで身体に合わせて見た。少し袖が余ってしまったが、成長期の真っ只中にあるクロノにとっては丁度良い品物かもしれない。 デザインもシンプルで、好みは無いが、派手な物を苦手にする彼にはピッタリだろう。

「ああ、ありがとうフェイト。気に入った」
「ほんと? ……良かった」

 フェイトは幸せそうに微笑んだ。
 次にアルフが紙袋を漁った。こちらは主であるフェイトとは打って変わり、何やら邪悪な笑みを浮かべている。
 ザフィーラは密かに動揺した。こういう時のアルフは、決まってロクでもない事を考えている。

「はぁ〜いザフィーラちゃ〜ん。お洋服ですよ〜」

 紙袋から出て来たのは、子犬用の散歩着だった。視線を釘付けにするような蛍光色は、すでに”警戒色”である。背中につけられているダラけたクマのワンポイント が何とも憎らしい。というか、人を小馬鹿にしているとしか思えない顔をしている。
 もちろん、ザフィーラは震えた。色んな意味で。

『アルフ。何だ、そのふざけた服は』

 思念通話で問うと、アルフは子供をあやすような口調のまま答えた。

「散歩に行く時に着るお洋服ですよ〜。可愛いでしょ〜?」
『………』
「はぁ〜い、それじゃ着ましょうねぇ〜」

 値札は剥がしてあるらしい。アルフは意気揚々と、何故か指をわなわなとさせながらザフィーラを抱えようとする。
 ザフィーラは慌ててクロノの膝の上に逃げた。

『誰がそんなふざけた服を着るものかッ』
「ありゃりゃ。気に入らなかったんですかぁ、ザフィーラちゃ〜ん」
『その頭の悪い喋り方は止めろ……!』
「何を震えてるのかなぁ〜、ザフィーラちゃぁ〜ん」
『誰が震えるか!』
「よちよち。怖がらなくてもいいよ〜」
『だから、誰が怖がるものか! 人の話を聞けッ!』

 その途端、アルフの邪悪な笑みが凶悪な笑みに変貌した。口を三日月型にして、瞳を怪人のように輝かせ、ルパンダイブよろしく飛翔する。

「観念しろ」
『ハラオウン執務官! 救援を!』
「クロノ。あの、良かったら一緒に見て回らない?」
「そうだな。まぁ、このままここに居ても暇なだけだし。構わないよ。荷物持ちくらいはやるさ」
「に、荷物持ちなんて、そんなの良いよ。……ありがと、クロノ」

 女性に対する感想を共有していた執務官は、恥ずかしそうに顔を赤めている少女と共にウィンドゥショッピングに行ってしまった。
 ザフィーラは慌てて追いかけようとするが、その首根っこを、折れんばかりにアルフが掴む。

『ぬぐぅッ!?』

 苦労して後ろを向く。アルフの眼光鋭い眼が見えた。

『待ッ――!』
「往生しな」

 子供が戯れに虫の羽を千切るように、アルフは笑った。
 もう駄目だ。盾の守護獣は死を覚悟する。別に命の危機は無い。ただ、誇りの危機なのだ。そう、色々な意味で。
 主はやて。どうかお許し下さい。というか誰か助けて。
 その願いを、天は聞き入れた。

「ザフィーラー、おるかぁー? って、アルフさん、何やってるんですか?」

 車椅子で現れたはやてが、不思議そうにアルフとザフィーラを見ていた。

「ザフィーラちゃんにお洋服を着せてようとしてるの」

 ええ。ですから助けて下さい。ザフィーラはふるふると首を振って、心の中で懇願した。
 はやてはその懇願を真っ先に黙殺した。

「おお! ええなそれ! さすがアルフさん!」
「でしょでしょー!」
『主!?』
「はやては前脚持ってて」
「了解やー」

 動物愛護団体が見れば卒倒しそうな光景が展開される。
 前脚を引っ張られ、後ろ脚から服を着させられている雑種の子犬。悲惨ながら、色んな意味で微笑ましい光景である。

『主! どうか、どうかお気を確かに! 私を探しに来られたのではないのですか!?』
「あ、そうやった」
『ぬお!』

 思い出したように手を打つはやて。結果、ザフィーラはアルフに後ろ脚を持たれ、宙吊り状態になった。

「レティさんから連絡が入ったんや。手伝って欲しい事があるって。アルフさんもや」
「へ? 私も?」

 やはり主は救いの神だった。



 ☆



「ごめんなさいね、休暇中に呼び出したりして」

 レティ・ロウランが椅子から立ち上がり、入室者を迎え入れた。
 本局内にある会議室の一室である。特別な設備は無く、どこにでもあるような部屋だ。学校の視聴覚室を連想させる作りである。
 部屋の中央には、正方形を作るように配置された長机があり、そこに置かれた椅子には多くの局員達がすでに座っている。捜査官が二名と武装隊士官が五名、その他 装備課等の人間の顔がある。
 空気はどこか重々しく、ぴりぴりとした緊張感が漂っていた。

「お気遣い無く。問題ありません」

 皆を代表して、シグナムが言った。
 呼び出されたのは、八神はやてとその守護騎士四名。さらにクロノ、リンディ、アルフの合計八名だ。フェイトやなのは達には、そのまま買い物を続けてもらっている。

「レティ。何があったの?」
「例の無差別殺人事件に進展があったの」

 リンディの質問に、レティが答えた。

「それで、解決まで一気に行けそうだったんだけれど、そこで問題が出ちゃって」
「問題?」
「ええ。今から説明するから、席に着いてもらえるかしら」

 リンディは頷くと、はやて達を連れて空いている席へ座った。ちなみにザフィーラはすでに子犬フォームではなく、人型になっている。子犬用の散歩着は危うい所で 着ずに済んでいた。
 彼女達の着席を見届けると、レティは手元の書類に眼を通しながら、一連の事件の概要を説明し始めた。
 これまでの事件の経過。殺害された被害者の状況。その共通点。殺害に使用されたと思われる魔法の種類。現場の状況。目撃者の証言。
 用意されていた書類の中には、粗い解像度だが、被害者の遺体の写真が添付されていた。はやてが顔を顰めるが、何とか書類を読み進めて行く。

「現状は以上です。何か質問は?」

 クロノが挙手をした。

「クロノ・ハラオウン執務官」
「これまでの捜査で、犯人はロストロギアを使用し、犯行に及んでいると判明しています。これに関しては?」
「そこからが、今日ここに皆さんに集まってもらった理由になります。資料の最後のページを見て下さい」

 室内に紙が擦れる音が響く。

「武装隊特別捜査官補佐、シャマルさんにご協力をいただきまして、事件現場に残されてた魔力残滓から、犯人が事件に使用した全魔法情報を調べました」

 全員の視線がシャマルに移動する。彼女は恥ずかしそうに身を竦めた。
 最後のページは、凄まじい文字量に埋め尽くされていた。魔力残滓だけで使用された魔法の種類や効果を捜査するのは難しい。喩え補助魔法に長けたシャマルと言えど、 完全に解明するのは無理難題だったのだろう。
 アルフが渋い顔をして書類を読み始めるが、すぐに諦めた。説明を求めるようにレティを見詰める。

「結論から言えば、犯行にロストロギアは使用されていません。ロストロギアそのものが犯人です」

 レティの発言に、全員が顔を見合わせた。徐々にざわめき立つ。
 そのざわめきを、クロノが止めた。

「ロストロギアが犯人?」
「ええ。魔力を原動力に駆動する魔導兵器。これまでも同質のロストロギアがいくつも発見されています。クロノ君、あなたが二月に回収した魔導兵器があったでしょう?  あれと同じよ」

 今年の二月。クロノは総勢六十体以上の機械仕掛けの機動歩兵を小規模ロストロギアとして回収している。だが、輸送途中で突然起動し、最終的には全機破壊して 事無きを得た。
 一機一機の戦闘能力は大した事は無かったが、攻撃魔法に対しては恐ろしい耐性を持っており、対魔導師戦闘を前提にして設計されていた。後々の調査で判明した事 だが、魔導師を狩る為に開発された一種の殺傷兵器であるらしい。

「ただ、今回はあの時の物とは比較にならない性能を持ってるみたいだけれど」
「つまり、強い、と?」
「シャマルさんに調べてもらった魔力残滓と、使用されたと思われる魔法の構成、構築レベルから、魔導師ランクに喩えるならAAA+。対魔導師用の装備を搭載 していると思われるから、下手をすればもっと手強いわね」

 再び室内が騒然となった。AAAですら、管理局保有の全魔導師の五パーセント未満なのだ。それを超えるAAA+判定で、尚且つ対魔導師用の装備をしているとなる と、その危険性は相当なものだ。

「それで、その魔導兵器を止める方法は?」

 捜査官の一人が訊いた。

「破壊するしかありません。機能を保ったまま捕獲出来る程、簡単には出来ていないでしょうから」
「それはそうだが……。だが、どうやって破壊するんだ?」

 捜査官の疑問は、ある意味もっともなものだった。問題の魔導兵器の駆除そのものはそう難しくはない。会議室内の人間で言えば、クロノやシグナム、ヴィータ 辺りが総出で攻撃を仕掛ければ、むしろ容易に駆逐は可能だろう。
 だが、一見すれば簡単そうに思われるこの方法だが、配布された事件資料を最後まで読み進めれば、そうも言えなくなって来る。
 ヴィータが不思議そうに訊いた。

「別にブッ壊すのは難しくねぇーだろ? あたしやシグナムなら楽勝だぜ?」
「ヴィータ。最後のページに、この魔導兵器が使用する魔法が書かれている。読んでみろ」

 ザフィーラの言葉に、ヴィータは顰め面で書類に視線を落とす。が、二秒で止めた。

「駄目。読めない」
「私も正直良く分かんない……」

 アルフがおずおずと挙手をした。クロノは額を掌で押さえ、苦心する。馬鹿にするのではなく、本当に呆れた声で言った。

「アルフ、ヴィータ。君達はあれだけの魔法を行使しておいて、これが分からないのか?」
「うるさい小粒坊主」
「魔法ってのはこう、ガァーってやって、ドバァーって決めるもんだろ?」
「……君達にまともな返答を期待した僕が馬鹿だった」

 項垂れるクロノに変わって、レティが説明をする。

「分かり易く説明するわね。この魔導兵器――便宜上、”クィーンデッド”と呼ぶけれど、このクィーンデッドは強力なマジックジャマーを搭載していて、 こちらの魔法を阻害して来るわ」
「マジックジャマー?」
「構築した術式を制御展開する時、思考にノイズを走らせる妨害装置の事だ。強力な物になるとバリアジャケットすら生成出来なくなる」

 クロノが甲斐甲斐しく補足する。

「バリアジャケットが作れなくなるって事は、騎士甲冑も?」
「ああ、当然だが生成出来ない」
「続けていいかしら? ……予測の範囲を出ないけど、クィーンデッドのマジックジャマーは、持続系魔法の妨害をして来ると思われるわ。クロノ君が例えで出した バリアジャケット、騎士甲冑は生成出来ないと見ていいわね」
「防護服抜きで戦闘になる訳か。危険過ぎるな」

 シグナムが呟く。防弾ベスト無しで戦場に行くようなものだ。

「その通り。バリアジャケットだけじゃなくて、一般的な防御魔法も使えないわ。対してクィーンデッドは、現場に残されていた魔力残滓から、超強力な防御魔法を 随時展開していると予想される。物理的な衝撃では恐らく突破は不可能な程の、ね」
「……あたしのギガントでも?」

 どこか不満そうに、ヴィータ。彼女が行使するベルカ式魔法は、物理的破壊力に図抜けている。それでも突破出来ないと言われれば、彼女の自尊心も面白くはない。

「データで見れば、最大出力なら突破可能かもしれないわね。ただし、そうなると周囲の被害が甚大ではないわ。犯罪を取り締まる私達が犯罪者になってしまう」
「とすると、エターナルコフィンや」
「我がシュツルムファルケン」
「私のラグナロクも駄目やな」

 昨年の闇の書事件を終結させた極大破壊魔法が軒並み使用不能という事態だ。スターライトブレイカーやプラズマザンバーも言うに及ばずである。

「旅の鏡も、恐らくはマジックジャマーの影響を受けると思われますから使えません」

 シャマルが肩を落とす。有機物、無機物に関わらず、魔法を使用するというモノには、原動力たるリンカーコアが存在する。魔導兵器も例外ではない。だが、元々 旅の鏡は転移魔法の一種だ。お世辞にも攻撃向きな性能はしていないし、持続性魔法として、マジックジャマーに真っ先に妨害されてしまうだろう。
 アルフが苛立つように言った。

「ならどうするんだい? こっちは派手に攻撃出来ない。向こうはこっちの魔法を邪魔しながら攻撃して来る。どうしようもないじゃないか」
「ええ。だからあなたに来てもらったの」

 レティが満足そうにして、不敵に笑った。その笑みは、予想通りの答えを出して来た生徒に微笑みかける、教師のそれと良く似ていた。
 アルフは驚いて自分を指差した。

「私?」
「衝撃で突破出来ないのなら、防御魔法のプログラムに割り込みをかけて、防御魔法そのものを破壊すればいいのよ」
「なるほど。アルフのバリアブレイクなら……」
「そ。周囲に被害を与えずにクィーンデッドの防御魔法を無効化出来る訳」

 室内の視線が、今度はアルフに注がれた。

「やってくれるかしら、アルフ?」





 正直、アルフは戸惑った。
 防御魔法の術式に割り込みをかけ、内面から破壊するバリアブレイクは、確かに目標の防御魔法が強固になれば強固になる程、その効果を発揮する。実質、破壊出来ない 防御魔法は無い。
 だが、強固な防御魔法はその術式が複雑だ。割り込みには時間がかかるし、その間に攻撃を受けてしまえばどうしようもない。魔導兵器――クィーンデッドとやらの 攻撃力がどのくらいかはまだ分からないが、資料を見る限りでは並み以上はあるようだ。
 アルフに注がれている視線には、多くの期待があった。この事件によって殺害された人間の数はすでに二桁を越えている。しかも幸せの絶頂にあった花嫁と花婿が 真っ先に殺されているのだ。
 アルフはこの事件に関して小耳に挟む程度だった。巷を騒がせている殺人事件。クロノやリンディが捜査に協力している。それくらいにしか思っていなかった。
 だが、今は腹が立って仕方が無かった。

「ああ、引き受けるよ。大昔の玩具なんて、この私がブッ壊してやる」

 獰猛な笑みで、アルフは答えた。
 人の幸せを無差別に潰して回る機械人形。許しておく事は出来ない。

「ありがとう、アルフ」
「いいって。でも、私のバリアブレイクは敵の防御魔法が強い分だけ、ブッ壊すのに時間がかかるよ? その間、私は無防備だし……」
「ああ、それだったら心配ご無用。”矛”だけじゃ戦えないもの。”盾”もちゃんと用意してあるわ」
「盾? でもさっき、マジックジャマーが何とかで」

 持続魔法は妨害され、バリアジャケットは生成出来ない。防御魔法も妨害を受けて使えない。なのに盾とはどういう事だろう。
 そこで、低い声が割り込んだ。

「なるほど。それで俺が呼ばれた訳か」
「ええ、期待してるわよ、盾の守護獣ザフィーラ」

 椅子に腰掛け、逞しい腕を組んでいたザフィーラが不敵に笑った。
 防御魔法にのみ特化した彼ならば、確かにマジックジャマーの妨害の中でも防御魔法を行使出来る。構築レベルは低下するだろうが、彼の防御出力を考えれば問題は 無いだろう。

「お任せを。……アルフ、防御は気にするな。お前は俺が守ってやる」

 と、何の気取りもなく、真顔で恥ずかしい言葉を言ってのけた。

「あ、ああ。まぁ……期待してる」

 とてもザフィーラの顔を直視出来ず、アルフは顔を背けた。
 買い物の時はあれだけ優位に立ち、玩具にしていたのに。あっという間に攻守逆転だ。
 悶々とするアルフを置き去りに、レティが話を進める。

「よし。それじゃあ次は式場の手配ね」
「し、式場?」

 武装隊士官の一人が思わず聞き返した。

「ええ。式場です」
「何の?」
「結婚式の」
「誰の?」
「アルフとザフィーラの」

 ……。

「ちょっと待てえッ!!!」

 アルフの叫び声は会議室の外まで響いた。





 continues.





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